2015年08月05日(水) 18:00
日高育成牧場の前身は、1954年(昭和29年)の日本中央競馬会発足時まで遡り、当時抽せん馬育成を行っていた宇都宮育成牧場日高支所として同年に業務を開始。だが、当初は農林省日高種畜牧場に委託する形式でスタートし、その後、1961年(昭和36年)よりJRA職員による育成業務が本格的に始められた。同時に、放牧地や厩舎などの一連の施設整備を進め、1965年(昭和40年)に、農林省から土地を借り受けて正式にこの年、日高育成牧場として開設されたのである。
式典と祝賀会に先立ち、「鍬入れ式」が行われた。日高育成牧場事務所前には、構内から移植してきたという樹齢100年を超えるイチイの木がすでに芝生に植えられており、傍らには、同じく構内にあった赤石の巨石を設置して、開設50周年記念植樹と彫られたプレートが付けられている。午前10時、事務所前に集合した歴代場長や現職員の方々の見守る中を、後藤正幸JRA理事長、井出道雄副理事長、山野辺啓日高育成牧場場長が、それぞれ用意されたスコップに土をすくい、幹の周囲が160センチあるイチイの木の根元に入れて儀式を終えた。その後、この前で記念撮影となった。
行われた「鍬入れ式」(左・井出、中・後藤、右・山野辺の各氏)
その後、会場をアエルに移し、記念式典と祝賀会が開催された。1階レストランを貸し切りにして、後藤理事長、井出副理事長以下、歴代場長、堀井学衆議院議員、金石武吉北海道議会議員、藤沢澄雄北海道議会議員や葛谷好弘農水省競馬監督課課長補佐、辺見広幸日高振興局長、池田拓浦河町長、木村貢日高軽種馬農協組合長など約100人が出席し、盛大に50周年を祝った。
歴代場長が並んで記念撮影
周知の通り、日高育成牧場の主な業務は、JRA育成馬の調教だが、その他にも、2009年(平成21年)よりホームブレッド馬の生産を開始しており、26年(2014年)までの6世代で44頭が誕生している。うち競走年齢に達している4世代33頭中、22頭が中央競馬に出走し、本年5月末時点で11勝を挙げている。
また、生産から育成までを一貫する業務と並行して、繁殖牝馬から当歳馬、1歳馬、2歳馬までの飼養管理に関する研究や技術普及などにも力を入れており、これらの成果は逐一、生産界に還元されて、強い馬づくりのための大きな指針を提供してきている。
多岐にわたる日高育成牧場の業務や、半世紀に及ぶ長い歴史をまとめた「50年間のあゆみ」と題する記念誌がまとめられ、祝賀会出席者に配られた。A4判約100頁のフルカラーで製作されたこの記念誌は、資料としての価値も高く、ひじょうに興味深いものだ。
日高育成牧場50年誌、「50年間のあゆみ」の表紙
かつて、JRA育成馬が抽せん馬と呼ばれていた時代より、限られた頭数の中から幾多の活躍馬を輩出しており、1978年(昭和53年)オークス優勝馬ファイブホープ、また1991年(平成3年)オークス優勝馬イソノルーブル、さらに2008年(平成20年)朝日杯FS優勝馬セイウンワンダーと、3頭のG1ホースを送り出した実績がとりわけ大きく注目される。
昨年から今年にかけては出ていないものの、それまではほぼ毎年のように中央競馬でも数多くの重賞勝ち馬を輩出してきており、これらの大半が日高産馬であることを考えれば、生産界に多大な貢献をしてきたことが分かる。
日高育成牧場50年誌、「50年間のあゆみ」の内容
市場における育成馬購買は、総数が毎年70頭にも及んでおり、経済的にも日高の生産者を側面から支えてきたと言える。今後5年、10年のうちに、生産地日高は大きく変化して行くことが予想されるが、これまでの50年間がそうだったように、これからの50年間もまた日高育成牧場とともに歩み続けて行くことになるだろう。
わけても、浦河以東の日高東部地域の生産者にとっては、ことのほか日高育成牧場の存在感が大きく、BTC(軽種馬育成調教センター日高事業所)の存在とともに、事実上、地元生産者にとっての心のよりどころにもなっている。地域にある学校がさまざまな活動の拠点となり、文化の発信基地として機能しているのと同じく、日高育成牧場は今後ますますその存在感が重要なものになって行くはずだ。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。
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