2017年12月28日(木) 12:00 45
今年の有馬記念が中山の最終レースとして行われていたなら、レースの興奮や感動がひとかたまりになって、なおよかったのに……と思った。
15時25分、有馬記念のゲートがあいた。
キタサンブラックが圧巻の強さで有終の美を飾った。
10万人の「ユタカコール」に迎えられて検量室前に戻ってきた武豊騎手は、15時30分過ぎ、ウィナーズサークルで勝利騎手インタビューに応えた。
国民的スターホースの最後の勝利を讃える表彰式が行われた。
口取り撮影のため、武豊騎手がスタンド前でキタサンブラックに跨った写真のタイムコードを見ると15時40分となっている。
大勢の関係者がキタサンブラックとともに芝コースに立ち、それを多くの報道陣が撮影した。
そのあとが慌ただしかった。
16時10分発走の、芝1200mで行われるクリスマスカップの出走馬が出てくるから、キタサンブラックの関係者もメディアも、いつまでもここで余韻に浸っているわけにはいかず、芝コースを出た。
それからは逆に待たされた。
キタサンブラックのお別れセレモニーが始まるのは16時50分ごろだからだ。
原稿を書くスペースのないフリーランスの人間は、ただ時間を潰すよりほかなかった。
まあ、しかし、セレモニー実施が発表されたのは12月14日で、番組決定よりずっとあとだったから、これは仕方のないことだ。
それに、キタサンブラックが勝ったからこそ、表彰式のあと最終レースを挟まずセレモニーに移行したほうがよかったように感じるわけで、もし負けていたら、かなり重苦しい雰囲気になっていただろう。その場合は、最終レースがクッションになってよかった、と思っていたかもしれない。
また、遅い時間に始まると、カクテル光線に照らされた競馬場全体が幻想的な空気につつまれ、人も馬もより美しく見えるという利点もある。寒いのも困りものだが、勝負服姿で参列する騎手のことを思うと、贅沢は言っていられない。
ジャパンカップは、2012年から15時40分発走の東京第11レースとなり、それが東京の最終レースとなっている。
それまでは15時20分発走の東京第10レースで、その後に最終レースが行われていた。
海外メディアが来ているので、レース後の共同会見は通訳を通す。そうすると時間がほかのGIの倍かかってしまう。今年も、会見が終わったのは17時15分ごろだった。晩秋のその時刻はかなり暗くなっているので、メインレースと会見の間に最終レースがないという構成は、取材者にとってありがたい。表彰式も、次のレースを気にせずにできるので、勝ち馬の関係者にとっても主催者にとってもいいことではないか。
対照的なのは日本ダービーだ。
今年は、15時40分発走の東京第10レースで、11レースは準オープンの薫風ステークス、12レースはG2の目黒記念だった。目黒記念の発走は17時05分で、今年はなんと、ダービーを勝ったクリストフ・ルメール騎手がここでも勝ってしまい、表彰式に出たため、共同会見のスタートがかなり遅くなった。ダービー終了直後に、検量室前でテレビカメラに向かって話すインタビューなどで簡単に話を聞けてはいるのだが、やはり、あらためてじっくり話を聞いてから原稿を書きたい。しかし、そうするには、ダービーが終わってから1時間半以上も待たされるのだ。速報性も大切なウェブなどでは、その前に発信するので、中身がどうしても薄くなる。それはやはり、媒体にとっても受け手(読者)にとっても、もっと言うと、レースに参加した馬や騎手、調教師にとっても、もちろん主催者にとっても、望ましいこととは言えない。
もちろん、メインレースのあとに最終レースを行うことのメリットもある。
もっとも大きなメリットは、帰途に着くファンの動きをバラけさせ、混雑を緩和させられることだろう。
もうひとつは、メインで負けたぶんを最終でとり返したい、というファンの気持ちをすくい上げる効果だ。
しかし、それは何もダービーデーの東京競馬場ではなくても、同時開催している多場のレースで代用できるのではないか。
今年の場合、ダービーよりあとに行われた京都の第11レースは3歳500万下の白藤賞、第12レースは4歳以上1000万下の與杼特別だったが、どちらかを重賞にすれば、もっとファンの購買意欲をそそるはずだ。
帰りの客足をバラけさせる手段となっているもうひとつは、パドックなどで行われているイベントだが、それをダービー終了後の東京競馬場で早めに行い、他場のレース検討などをしても面白いのではないか。
とにかく、「競馬の祭典」日本ダービーのあとに、同じ競馬場で2つのレースが行われ、うちひとつが重賞というのは、あまり魅力的な構成ではない。
メインレースは大トリ、というのが、相撲や紅白歌合戦などを見慣れている日本人には合うと思うのだが、どうだろう。
一年の最後のコラムだというのに、文句ばかり言ってしまった。
それではみなさま、よいお年を。いや、その前に、よいホープフルステークスと、よい東京大賞典を。
今年の更新は本日分で終了です。年始は4日が休載、11日が初回の更新となる予定です。
島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆~走れ奇跡の子馬~』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。
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