2018年01月11日(木) 18:01 81
▲武豊騎手が京都金杯で見せた“的確な状況判断”を解説!(C)netkeiba.com
新年一発目となる今回は京都金杯(GIII)から武豊騎手の技術を解説。強烈な末脚を武器とするブラックムーンに騎乗し、定石通り後方からレースを進めるも3コーナー過ぎから徐々に進出を開始。その裏には相手の動きや少頭数を意識した“的確な状況判断”が見えたといいます。当連載最多登場となる大ベテランから今年も目が離せない!(構成:赤見千尋)
netkeibaユーザーの皆さま、明けましておめでとうございます。今年も独自の視点でレース分析をしていきますので、『哲三の眼!』をよろしくお願い致します。
新年一発目は京都金杯の(武)豊さんに注目しました。4番人気のブラックムーンで豪快な差し切り勝ちを見せてくれましたが、勝ちにくい状況の中でも勝ってしまう技術の高さ、視野の広さ、繊細かつ大胆な騎乗が見れたレースだったと思います。
基本的にこの時期の京都の1600mというのは、例年前残りや前々で脚を溜めている馬が有利で、後ろからの馬は勝ちにくい状況が続いています。それでも、今年は13頭立てと少頭数だったため、差し馬にもチャンスがあるなと思っていました。
何頭か前に行きたい馬がいるけれど、それほどハイペースにはならないだろうなという見立てで、ブラックムーンはスタートしてからもう少し前へ、僕はキョウヘイの前くらいに行くのかなと思って見ていました。でも豊さんは馬を急かすことなく、結果的には最後方からのレースになりましたね。
■1月6日京都金杯(9番:ブラックムーン)
こういう形になると、ブラックムーンは最後の末脚がすごい馬なので、直線まで我慢するものだと思うじゃないですか。でも豊さんは動いて行ける形を3コーナー手前からしっかりと作っていて、状況判断をして3コーナー過ぎくらいから動いて行きました。
おそらく意識して見ていたのがクルーガーとレッドアンシェルだったと思うんです。まずレッドアンシェルが外目にいて、直線まで動かないということを把握した。クルーガーは外目から馬群の真ん中に入っていって、直線まで仕掛けられない状況だと判断したと思います。
相手が直線まで動けないのに、自分も直線まで我慢する必要はないという判断で、いつも33秒前半の脚を使えるものをちょっと早めに持ってくる形になりました。
ただ、あれがフルゲートだったら多分あそこではまだ動いていないと思うんです。13頭立てだったということで、動ける状況にある時にしっかり動いて行った。下り坂を利用して勝てるポジションを取ってしまうというのが豊さんらしいなと思いましたね。ただ単にゴーサインを出してあの馬の脚を使わせたのではなく、ちゃんと状況を把握した上で動かしているんです。
勝負所でのやり取りを見ていて、なんだか懐かしいなと。「ここで決められるか」「決められてたまるか」というジョッキー同士の見えないやり取りで、一緒に乗っていた頃に僕もやられたし、やりかえしたこともありました。豊さんは京都の上り下りの決め方を熟知しているし、こういう形の時はこうすれば勝ちやすいというパターンをいくつも知っている。そういう計算の上で計算通りに勝ってしまうところがすごいです。
▲「京都の上り下りの決め方を熟知しているし、計算の上で計算通りに勝ってしまうところがすごい」(C)netkeiba.com
見た目では直線での決め手が印象に残ったかもしれませんが、僕は勝負を決したのはもっと前だったと思います。もしもコーナーで動かず後ろにいたら、レッドアンシェルを交わすのに手間取ったかもしれないし、手間取ったところをクルーガーに内から猛追されたかもしれない。今の馬場の状況や展開などを考慮して、あそこは動いてはいけないところではなく、動くべきところだったと思います。
後ろからという脚質の中でも、早めに動くパターンもできるようになればレースの幅が広がります。勝ち方をジョッキーから教えてもらったら、馬もさらにレベルアップしていきますから、今回のレースを見て、今後マイル路線で楽しみな馬が出てきたなという印象を受けました。
▲昨年に再ブレイクを果たした和田竜二騎手に注目!(C)netkeiba.com
今週注目しているのは、日経新春杯でミッキーロケットに騎乗予定の和田(竜二)君です。騎乗停止で年始は乗れなかったけれど、いよいよ今週から今年の騎乗がスタートします。
去年96勝を挙げてキャリアハイになりましたから、その勢いで今年は久しぶりにGIを勝って欲しいですし、一年を通して注目していきたいジョッキーです。
佐藤哲三
1970年9月17日生まれ。1989年に騎手デビューを果たし、以降はJRA・地方問わずに活躍。2014年に引退し、競馬解説者に転身。通算勝利数は954勝、うちGI勝利は11勝(ともに地方含む)。