園田で関西ソウルフードを

2018年07月31日(火) 18:00 44


◆こってりソースがいかにも関西、何年も変わらぬ焼そば定食

 テレビの情報番組ではご当地グルメ的なネタが常に話題になり、スマホの普及によって誰もがネットで情報収集ができるようになった今、ローカルフード的なものがローカルな食べ物でもなくなってきている。情報だけでなく物流もここ10年20年の単位で見れば劇的に発達し、たとえば東京あたりでは、現地から直送した食材をウリにしたご当地系飲食店も、もはやめずらしいものではない。

 そんな時代になっても、やはりローカルでしか受け入れられない食べ物・食べ方というのはあって、関東の人が関西(特に大阪近辺)に行ったときに「えっ!こんなのあり?」という反応を示す場面をたびたび見かけるのが、焼そば定食とかお好み焼き定食。

 その反応は、ほとんど決まって「炭水化物+炭水化物って、ありえねー」というもの。

 ただ関東に炭水化物+炭水化物で提供されるものがないかといえばぜんぜんそんなことはなく、うどん(そば)定食や、うどんやそばにおにぎりやいなり寿司がセットになっていることだって普通にある。もっといえば焼そばパンだってその類だろう。単に焼そばやお好み焼きと白飯の組み合わせが、なんらかの理由によってあまり好まれてこなかったというだけのような気がするのだが、どうだろう。それについての独自見解はあとで説明する。

 ぼくが“焼そば定食”というメニューを初めて見たのは、園田競馬場などにも取材に行くようになった20年くらい前だと記憶している。園田駅改札を出た駅構内にある喫茶店ぽいお店(現在はたぶん閉店)のウインドウに、それはあった。何これ?とは思わず、むしろ、これはアリでしょう!と思ったのだった。

 なぜか。それより数年遡る大学生の頃、当然家族とは生活の時間帯がずれてきて、白ごはんだけは炊いてあるけどおかずは自分で作るようなことも日常で、ラーメン&ライスと同じような感覚で、焼そばとご飯とか、スパゲティ(当時はパスタとは言わなかった)とご飯とか、普通に食べていたからだ。だから焼そば定食という文字を初めて見たときも違和感はまったくなかった。

 例によって前置きが長くなったが、関西ソウルフードともいえる(地元の人はそうは思っていないかもしれないが)、焼そば定食は園田競馬場でも食べられる。もはや老舗ともいっていい園田屋だ。

その金ナイターで店内も外もにぎわっている園田屋

 地方競馬の多くはネット投票の拡大と反比例するように入場者数が減り、それゆえ場内飲食店の経営も難しくなっている。これには、単に入場者が減ったというだけでなく、お店の後継者不足という要因もある。園田競馬場では2008年のJBC開催に際して場内の飲食店が大幅にリニューアルされた。もちろん既存店舗も残るところは残ったが、その後現在に至るまでに撤退した店舗もある。昭和から平成ひと桁の頃の来場者で賑わっていた当時、入場門を入って右側や、パドック奥に軒を連ねていた店舗で、今も生き残っているのはおそらくわずか5店舗ほど。その中でも、もっとも店舗面積が広く、メニューも豊富なのが園田屋だ。

 で、これが園田屋の焼そば定食、750円也。

こってりソースがいかにも関西な、園田屋の焼そば定食(750円)

 さすが、老舗・園田屋。もう何年も前に食べたときと寸分変わらぬ焼そば定食だった。あえて食べなくても、以前に撮った写真を使ってもよかったかも(笑)。ぼくの記録に残っている範囲で、少なくとも2009年から750円という値段も変わっていない。

 見てのとおりの、焼そば、丼めし、味噌汁、たくあんの定食だが、焼そば定食に限らず、園田屋ですばらしいのが味噌汁なのだ。写真ではミツバしか見えないが、実はこれ、アサリ汁なのだ。写真を撮るときに、ぷりぷり大ぶりのアサリが見えるようにしておくべきであった。アサリの出汁に、ミツバ独特の香りにホッとさせられる。競馬場の定食で、これほど手をかけた味噌汁にはなかなかお目にかかれない。

 そして焼そばを焼そば定食たらしめているのが、見た目のとおり濃い色、濃い味、関西系独特の甘みのあるソースだ。関東の焼そばが一般的にウスターソースを使っていて味付けがそれほど濃くないのに対して、関西では“どろソース”に代表されるようにこってりしたソースを使っていることが多い。濃い味なら白ご飯がほしくなるのは必然。それで焼そば定食というメニューが成立したのではないだろうか。これが、焼そば定食が関東にはなくて関西にはあるというぼくの独自見解だ。

 ちなみに園田競馬場では、正門を入ってすぐ右にあるポニーというお店でも焼そば定食を食べることができる。関東の焼そばが、店ごとに具材は違っても、ソースでの味付けはそれほど変わらないのに対して、関西にはさまざまなこってりソースがあるようで、お店ごとにかなり違う味の焼そばが食べられるのも楽しみのひとつだ。

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斎藤修

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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