2018年10月11日(木) 12:00 31
久しぶりに門別競馬場に行ってきた。
9月6日に発生した北海道胆振東部地震の影響で中止になっていた競馬の開催が再開したのが9月25日。その週は昼間の開催だったが、道内の電力事情が改善されたため、翌週、10月2日からは本来のナイター開催でレースが行われるようになった。
私が訪ねたのは震災からほぼひと月後、競馬が再開されてから3週目の火曜日、10月9日だった。
日高自動車道を鵡川インターで降り、踏切をわたって信号を左折すると、道沿いの建物が倒壊していた。ニュースで見た光景である。その先は通行止めになっており、迂回路から国道235号線に合流した。
まだ時間が止まったままの地域があり、元の生活を取り戻せずにいる人がたくさんいるのだ。
競馬場に着いた。これはあまり知られていないのかもしれないが、駐車場代も入場料も無料である。
厩舎地区がすぐ近くにあることが寝藁の匂いでわかる。
左のパラソルヒーターで暖をとりながらパドックを見る
パドックで買う馬を選んでいると、後ろから「どうも」と聞き覚えのあるバリトンが響いた。社台ファーム調教主任のSさんだった。
「珍しいところで会いましたね」「いや、まったく」「今のレースを勝ったので、私たちはこれで帰ります」「はい」
と、笑顔で別れた。
パドックとスタンドを行き来していると、今度はノーザンファーム繁殖厩舎長のNさんに会った。
牧場の敷地内にあるNさんの住まいは地震で壁に亀裂が入るなど被害があったという。
「でも、馬を置いて逃げるわけにはいきませんからね」
そう話したNさんは、SNSに門別競馬場のスタンドで食べたものを何度かアップしている。この日もドライカレーにコロッケか何かをトッピングした写真を出しており、それを思い出すと、腹が減ってきた。
スタンド内「小径cafe」のメンチカツハヤシ。730円
日高町の人気カフェ「小径cafe」がここに出店している。Nさんが食べたドライカレーもこの店のものだ。私はさんざん迷ってメンチハヤシにした。美味かった。
隣の「いずみ食堂」も地元の有名店だ。
腹ごしらえをしてから、またパドックへ。とにかく馬との距離が近い。私が取捨のポイントにしている、蹄がパコパコとお碗を伏せたときのように鳴る「P音」もよく聞こえる。「P音」はもちろん造語である。私が何度かカウントした限りでは、この音を出している馬は凡走することが多い。力が抜けすぎて、集中し切れていないから、蹄を上からパコッと降り下ろすような歩き方になるのだろう。逆に、適度に気合が乗って集中していると、指先でギュッと踏みしめるように歩くから音がしない。
パドック同様、コースも近い。スタンドからは少し離れているが、行こうと思えば、目の前を馬たちが駆け抜ける至近距離で見ることができる。
コースは1周1600m。1700mの外回りなどは、スタンド前からの発走となる
スタンドは小さいが、コースは大きい。1周1600mというのは、大井や盛岡と並ぶ地方最大級のスケールだ。外回りコースはコーナーがゆるく、直線が330mあるので、追い込み馬の出番もけっこうある。
異なる日もあるが、14時30分か40分に第1レースがスタートし、20時40分の最終レースがメイン
このところ、馬産地ではインド人の乗り手が増えているというが、外国人の客では中南米系の人が多いように思われた。
メインの最終11レースを見てから帰路についた。札幌と反対側の静内方向に戻る形になるのだが、富川インターのほうが鵡川インターより近いし、高速を走る時間が長くなって楽なのでそちらに行くと、富川-厚真間は工事のため夜間通行止めになっていた。
復旧、復興には、まだまだ時間がかかりそうだ。
門別競馬場の残りの開催は11月8日までの予定だったが、翌週、11月13日(火)、14日(水)、15日(木)の3日間、追加の開催が行われることになった。中止になったのは7日間なので完全な埋め合わせにはならないが、それでもよかった。
けっぱれ北海道、である。
島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆~走れ奇跡の子馬~』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。
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