2019年09月17日(火) 18:03 103
グラウンドワークを行う鈴木伸尋調教師とトモジャポルックス(撮影:佐々木祥恵)
1000万クラス(現2勝クラス)を3戦したトモジャポルックスは、障害レースへと転向した。
「障害飛越はとても上手でした。すぐに勝てると思うくらい、飛越する能力が高かったです」(鈴木伸尋調教師)
だが障害のデビュー戦で11着になった後、屈腱炎を発症し、引退が決まった。
「症状としては中程度でしたが、復帰させても障害はもう無理ですし、平場に戻しても2勝クラスでは厳しいと判断しました」
そこで師はある決意のもと、ポルックスを引き取ることにした。
「子供や大人用の普通の乗馬としてリトレーニングするのではなく、ホースセラピーにポルックスを使えないかなと考えました。ホースセラピー用の馬をどのように調教や馴致をすればいいのか全くわかりませんでしたが、リトレーニングするなら、すごくうるさくて大変そうな馬をいろいろと工夫をしながら自分でやってみようと思い至りました。オーナー(吉冨朝美氏)に理由を説明して譲り受けたのですが、もしこれがうまくいけばどんな馬でもセラピー用の馬に調教できるのではないかという気持ちもありました」(鈴木伸師)
引退馬問題に情熱を注ぐ鈴木伸尋調教師(1)元管理馬を引き取り自らリトレーニング「リトレーニングするなら、すごくうるさくて大変そうな馬を」(C)netkeiba.com
美浦トレセンを退厩したトモジャポルックスが向かった先は、トレセンから車で10分ほどの距離にある阿見乗馬クラブだった。屈腱炎で脚が腫れていたため、最初のうちは鈴木伸師が信頼を寄せる永田広獣医師からPRPという治療法を受けていた。調べてみると、PRP療法は人間にも行われているが、何分保険適用外のため、まだポピュラーな治療法とまではいっていないようだ。だが鈴木伸師によると、
「PRPというのは、だいぶ前から施されている治療法で、ウチの厩舎の馬も良い結果が出ています」
というように、競走馬の世界では広く知られた治療法なのだろう。
「まず馬自身の血液を採って遠心分離をして血小板だけを残します。血小板は血液を凝固させて傷を修復させる働きがありますので、それを患部に入れて修復を促すのです」
患部にはエコーをかけ、腱のどの部分に穴があいているかを調べた上で、注射で直接血小板を入れる。それを計2回行う。その結果、ポルックスの屈腱炎は今ではほとんど修復されている。
「PRP療法もそうですが、いろいろな馬での治療の積み重ねが、実際の競走馬の臨床の現場でも生きてくるんですよね。そういう意味でも、ポルックスは役に立っていると思います」
つまり屈腱炎の治療を受けることが、ポルックスのセカンドキャリア最初の仕事だったことになる。
現役引退後最初の仕事は屈腱炎の治療だった(撮影:佐々木祥恵)
「治療の間は乗りさえしなければ、全く動かさないよりは動かした方が逆に良いので、グラウンドワーク(人が馬に乗らずに地上で行うトレーニング)をすることにしました」
現役時代はカン性が強く、まるで猛獣のような馬だったポルックスだったが、・・・
佐々木祥恵
北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。