2019年12月05日(木) 12:00
12月3日付のヤフーニュースに、次のような見出しの毎日新聞の記事が載っていた。
『首相にヤジで排除された男性、警察官を刑事告訴 「黙っていれば言論萎縮進む」』
この見出しだと、首相が男性を排除したかにも受け取られかねないが、違う。記事の概略は次のようなものだ。
安倍晋三首相が街頭演説をしたとき、ヤジを飛ばした市民を警察官が排除したことに関し、排除された男性が、警察官を刑事告訴した。男性の弁護団によると、参院選期間中の7月15日、安倍首相がJR札幌駅前で行った街頭演説で、男性が「安倍やめろ」などとヤジを飛ばしたところ、4回にわたって複数の警察官に体を取り押さえられるなどしたという。排除された聴衆は少なくとも9人に上るとのこと。男性は「黙っていれば、言論の萎縮が進んでしまう。自分一人の問題ではない」と訴えたという──。
ヤジが言論だとは、知らなかった。だとすれば、競馬場は、多彩な論客の集まる言論サロンである。
首相の話をじっくり聴きたくて駅前に来た人にしてみると、そこらでヤジを飛ばす男の存在は不快だったろうし、迷惑だったはずだ。排除された人間たちが同一のグループだったとしたら、なおのこと、やかましかっただろう。首相の言葉が、きちんと聴こうしている人にヤジのせいで届かなくなったとしたら、それこそ言論の自由への妨げではないか。
もし私が近くにいたら、注意していたかもしれない。「安倍やめろ」が言論なら、「ヤジやめろ」も言論だろう。
言論の自由を云々する前に、大人なら、自分の発したヤジによって、多くの人を不快にさせ、迷惑をかけることの是非を考えてはどうか。
このニュース、続報を待ちたい。
また札幌の生家に来ている。すい臓がんの手術に向けた放射線治療で入院していた父を退院させるためだ。
本当は、月曜日の夕刻、私が主治医と面談し、それを受けて火曜日の朝退院する予定だったのだが、父が「一刻も早くここを出たい。息子が来たとき、そのまま退院できないのか」と複数の看護師に何度も言い、困った看護師から、先週、私のもとに電話が来た。
父は、自分で言ったことを、誰に言ったのかも含めてすぐに忘れるので、何度も同じこと言う。言われた側は、口調や表情がまともそうに見えるので普通に受け取ってしまうのだが、当人は、それほど強く思っているわけではない。そう看護師に説明したのだが、やはり相当困っているようだった。私が「親父、しつこいですか」と訊くと、「ええ、まあ……」とはっきりとは言わないが、これ以上迷惑をかけるのも心苦しいので、父の要望どおり、月曜日の夕刻退院させることになった。
ところが、である。退院した日の夜、父が自宅の寝間で立って私に話しかけたとき、体を伸ばしたまま後ろに倒れ、背中と肘をベッドマッドの角に打ちつけたのだ。
こちら側に倒れるのならともかく、向こう側に倒れていく1秒ほどの間、私はどうすることもできなかった。父は気を失ったわけではなく、抗がん剤の副作用と、睡眠薬を飲んでいるので、ふらついたようだ。幸い、骨折はしておらず、背中と肘の擦過傷だけだったので、そのときは、私が抱え起こして応急処置をし、ベッドに入れて寝かせた。
頭も少し打っていたので、これからしばらく、慢性硬膜下血腫にも気をつけなければならない。なので、帰京を少し延ばすことになった。
やはり、病院で歩行器を使って歩いていたとはいっても、家で階段を上り下りしたり、歩行器なしでつたい歩きをすると、入院中よりずっと体力を使う。早い時間帯に退院して、少しずつ体を慣らしてから就寝するほうが絶対にいい。退院は午前中にする、というのは、理に適っているのだ。何かトラブルがあっても、病院も薬局もケアマネの事務所もやっているので、すぐに対処できる。
チャンピオンズカップはクリソベリルの単勝で珍しくプラスになったので、それについて書くつもりが、競馬以外の話ばかりになってしまった。
それはそうと、ようやく帯状疱疹が治った。秋天の翌日に痛みはじめ、ジャパンカップの翌週までつづいた。今、痛みを感じずに目覚めることにまだ慣れず、不思議な感じがする。
陽が射しているのに雪が降っている。北海道ならではの眺めだ。雪かきのことさえ考えなければ、気持ちがいい。
島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆~走れ奇跡の子馬~』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。
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