2020年04月28日(火) 18:05 246
調教後に取材に応じてくれたヒューイットソン騎手(C)netkeiba.com
ライル・ヒューイットソン騎手のインタビュー(3月21日公開・今週のFace)に写真撮影も兼ねて立ち合ったのは、3月11日だった。その時に発した「馬が大好き過ぎて騎手になりました」という言葉が印象に残った。そんな彼なら南アフリカの引退馬事情を尋ねても大丈夫かもしれないと、インタビュー終了後に質問を投げかけてみた。
日本の競馬の世界では、最近でこそ少しオープンになってきたが、引退した競走馬のその後を尋ねることに躊躇する雰囲気が長くあった。その経験があったので、ヒューイットソン騎手からどのような答えが返ってくるのか少し不安もあったのだが、それを吹き飛ばすかのような熱心さで南アフリカの引退馬事情を話してくれた。しかも自ら引退した競走馬を所有しているというではないか。レコーダーを回していなかったことを後悔したほどの想像以上の内容に、改めて取材させてほしいと願い出たら、笑顔で快諾してくれた。
インタビューは、4月8日に行われた。JRAの引退競走馬に関する検討委員会の委員でもある鈴木伸尋調教師も同席し、ヒューイットソン騎手に改めて南アフリカの引退馬事情について、そして彼の愛馬について質問をした。「僕がわかる範囲になりますが」と前置きをした上で、ヒューイットソン騎手はにこやかに応じてくれた。
――南アフリカでは競走馬が引退した後、どうなるのでしょうか?
ヒューイットソン騎手 まず(競走馬として)馬を購入する際に馬主さんは馬のセカンドライフについての同意書を書かなければいけないのです。それに基づいて競馬を引退した後は、まずは馬をリトレーニングすること、それはどこであっても良いのですけど、リホーム、つまり新しい場所に引き渡します。
――それは競走馬を購入した馬主全員が同意書にサインしなければならないのですか?
ヒューイットソン騎手 はい、必ずしなければなりません。(引退した馬が)リトレーニングされて新しい場所に行った後、その馬に何か起きた場合はその馬主さんの責任になるという形を作っています。
――つまり何かトラブルが起きた場合も競走馬時代の元の馬主さんが責任を持つということですか?
ヒューイットソン騎手 はい、その通りです。
――どのような責任を持つのですか?
ヒューイットソン騎手 ナショナルレースホースアソシエイションというのが南アフリカの競馬会なのですが、リホームで馬がきちんと世話をされていないということが発覚した場合、その馬主さんに対して罰金が課せられたり、馬主免許停止という処置がとられます。免許停止は最悪の場合で、基本は罰金を課すという形ですね。
母国の引退馬事情について熱心に教えてくれた(C)netkeiba.com
――馬のリホーム先が良い環境ではないとわかった場合は、馬主さんはそこから馬を引き上げるということはするのでしょうか?
ヒューイットソン騎手 SPCAという動物愛護の団体があって、その団体が馬をレスキューすることもできます。ある馬がセカンドホームで馬車を曳かされているのを目撃した人がいました。その馬はわかりやすい特徴があった有名な馬だったので、わかったんですね。それですぐにそういうことをしてはいけないと。
――なるほど、一般の人が団体に通報してレスキューに繋がることもあるんですね。馬主さんはその団体とは連携しているのですか?
ヒューイットソン騎手 馬主さんもその団体に相談することもできるようになっています。SPCAと一緒に行ってレスキューして、次の新しい家を探したりします。SPCAは必ず馬主さんと一緒に動いてくれます。馬がちゃんと面倒をみられていないことを知った時に、やはり馬主さん1人ではなかなか行動できません。引退した競走馬のセカンドライフを考えられるのも、SPCAのように相談する団体があってこそだと思います。
――日本ではセカンドライフというとほとんどが乗馬ということになっていますが、南アフリカではどうでしょうか?
ヒューイットソン騎手 ショージャンピング、ドレッサージュ、ポロなどいろいろな道があって、それぞれ人気はあるのですが、収入が良くないのでプロフェッショナルというよりは、皆さん趣味という形にはなっています。自分の彼女も競走馬から乗馬へのリトレーニングに関わっている仕事もしているのですが、リトレーニングした馬を売ることもできます。ただ馬が良ければ売れるのですけど、売れない場合は無償で提供するということもしています。馬にはそれぞれアベニュー、通りがあります。つまりいろいろな生きる道、いろいろな通りがあります。馬には様々な選択肢があるということですね。
――サラブレッドは乗馬には向かないとも言われていますが?
ヒューイットソン騎手 サラブレッドがショージャンプなどに向かないかどうかについては、僕はその分野に詳しくないのでわからないのですが、言えることはサラブレッドは非常に頭が賢いと思うんですよね。これからショージャンパーとして活躍したいと思うような若い子たちにとっては、サラブレッドに乗ってショージャンピングをすることによって、彼らの成長を促すことができるのではないかなと、僕は感じています。
南アフリカではショージャンピングはすごく高いレベルではなく、趣味という意識なので、それを考えるとサラブレッドはレベルに合っているのではないでしょうか。南アフリカでも有名なショージャンパーはいますが、その方たちはそのレベルに合った馬に乗られていると思うのですけど、その下のレベルの選手数を見ると、サラブレッドの頭数とその数が釣り合っていると思います。
――ショージャンピング以外にも、ポロやドレッサージュの話も出ましたが?
ヒューイットソン騎手 例えばポロの場合もやはりプロフェッショナルではなくて、趣味なんですよね。ポロをしている人たちが引退した競走馬を引き受けているのですが、その人たちが今度は競走馬に興味を持ってくれて、うまく回っているという部分はありますし、元競走馬がポロ用の人気種牡馬になっていることもあります。
例えば僕が競馬で乗っていた馬で、引退後にポロに行った馬がいます。アルマフティという馬なのですが、その子は競走馬としてはさほど成績は残しませんでしたが、ポロとしての種牡馬としては人気です。ポロをやっている人たちは、いつまたあの馬の子供が手に入るの? みたいな感じにもなっていて、これもまた違う馬生と言えますよね。
(つづく)
※このインタビューは4月8日に屋外で、十分な距離を保ちマスク着用のもと行いました。
佐々木祥恵
北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。