2020年07月15日(水) 12:00
通常よりも2か月以上遅れて開幕した英国の競馬は、メジャーな競走がギュギュッと凝縮して施行されており、来週末には早くも、シーズン前半を締めくくる大一番のG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝11F211y)がアスコット競馬場で行われる。
この競走自体は当初の予定通りの日程での開催となったが、予定通りに行かなかったのが賞金で、もともとは総賞金125万ポンド(約1億7363万円)を懸けて争われるはずだったのが、新型ウイルス蔓延の影響で経済が大きな打撃を受けた影響で、40万ポンド(約5556万円)と、3分の1以下に減額となった。
賞金は減ったが、“キングジョージ”が極めて権威あるレースであることに変わりはない。
ただし、英仏のダービー・オークスがわずか3週前に施行されたため、3歳世代のトップクラスが参戦するのはなかなかに難しい状況だ。G1英オークス(芝12F6y)をぶっちぎったラヴ(牝3、父ガリレオ)あたりが出てきてくれると面白いのだが、同馬の次走はヨークのG1ヨークシャーオークス(芝11F188y)になる模様で、古馬との顔合わせはそれまでしばしお預けとなりそうである。
また、5日に行なわれたG1エクリプスS(芝9F209y)を快勝してレイティング127を獲得し、2020年世界ランキングの首位に立ったガイヤース(牡5、父ドゥバウィ)も、次の目標をヨークのG1インターナショナルS(芝10F56y)に置くとして、ここは回避の公算大となっている。
そんな中、キングジョージ参戦を言明しているのが“女王”エネイブル(牝6、父ナサニエル)だ。
昨年10月のG1凱旋門賞(芝2400m)でヴァルドガイストの後塵を拝し、生涯2度目の敗戦を喫した同馬。大方の予想を裏切って6歳となった今季も現役に留まり、5歳シーズン同様にサンダウンのG1エクリプスSから始動した。
同馬を管理するジョン・ゴスデン調教師がレース前から、「本当に良くなるのは、このレースを使ってから」とコメントしていたように、仕上がり状態としては8分から9分だったようで、結果はガイヤースに2.1/4馬身及ばぬ2着となり、結果として生涯初の連敗を喫することになった。
並べば無類の強さを発揮する馬で、現実にジャパンとの馬体を併せた2着争いには頭差先着したのだが、逃げたガイヤースには並ぶところまで行けずに完敗を喫した。
伯楽ゴスデンの言葉を信じるなら、“キングジョージ”では彼女本来のパフォーマンスを見せてくれるはずで、ここは女王に女王らしく振舞って、他馬を屈服させる光景を見たいものである。
相手の筆頭は、エイダン・オブライエン厩舎のマジカル(牝5、父ガリレオ)か。
エネイブルには一度も先着した経験はないが、エネイブルに肉薄したことは少なからずあるのがマジカルだ。3/4馬身差に迫った18年11月のG1BCターフ(芝12F)しかり、同じく3/4馬身差に迫った昨年7月のG1エクリプスSしかり。こういう惜敗がありながらなお4つのG1を手中にした同馬は、昨シーズン末に一旦は「引退して繁殖入り。ノーネイネヴァーを交配」と発表されたのだが、結局は一度も種付けを行うことなく方針転換が計られ、今季も現役に留まることになった。
そのマジカルの今季初戦となったのが、6月28日にカラで行われた牝馬限定G1愛プリティポリーS(芝10F)で、ここを4.1/2馬身差で快勝。5度目のG1制覇を果たすとともに、健在ぶりをアピールしている。昨年は、エクリプスSを使った後、キングジョージはスキップしてG1ヨークシャーオークス(芝11F188y)に向かったが、今季はここに照準を絞ってくることになるはずだ。
牝馬2頭に続く3番手評価となるのが、マジカルと同厩のジャパン(牡4、父ガリレオ)だ。3歳だった昨季、G1パリ大賞(芝2400m)、G1インターナショナルSという2つのG1を手中にした他、G1凱旋門賞(芝2400m)では4着となった、今年の4歳世代で屈指の実力馬である。
今季はここまで、G1プリンスオヴウェールズS(芝9F212y)4着、G1エクリプスS3着と、いささか歯痒い成績に終わっているが、3歳時もシーズンの初勝利を挙げたのは、3戦目となったロイヤルアスコットのG2キングエドワード7世S(芝11F211y)で、つまりは叩き良化型のジャパンにとっては“キングジョージ”こそが、のるかそるかの大勝負になるはずだ。
同じくエイダン・オブライエン厩舎からは、馬場が悪くならなければアンソニーヴァンダイク(牡4、父ガリレオ)も駒を進めてくる可能性がある。
昨年のG1英ダービー馬だが、その後は、一線級を相手に好走した競馬も複数あったものの、結果としては7連敗を継続中だ。今季初戦となったG1コロネーションC(芝12F)では、独走態勢を築いていたガイヤースにゴール前で詰め寄る競馬を見せ、今季のアンソニーヴァンダイクには期待が出来るかと思われたが、続いて駒を進めたロイヤルアスコットのG2ハードウィックS(芝11F211y)では、さほどのメンバーではなかったにもかかわらず5着に敗退。得手とは言えない重馬場だったこと、直線で進路がなくなる場面があったことなど、斟酌すべきファクターはあったものの、物足りない内容だった。
そのG2ハードウィックSを2.1/2馬身差で快勝したのが、ジョン・ゴスデン厩舎のファニーローガン(牝4、父シーザスターズ)だ。牝馬が同競走を制したのは1983年のスタネーラ以来のことで、もともと期待の高かった素質馬が、ようやく開花の時を迎えたようである。ここも使ってくるようなら、注目する必要がありそうだ。
同じく、参戦してくれば注視が必要なのが、仏国調教馬のソットサス(牡4、父シユーニ)だ。昨季のG1仏ダービー(芝2100m)勝ち馬で、G1凱旋門賞でも3着となった、仏国現4歳世代の代表格である。
今季初戦となったG2アルクール賞(芝2000m)は、仕上がり途上だったが4着と不甲斐ない結果に終わったが、前走シャンティイのG1ガネイ賞(芝2100m)は、辛勝ながらも優勝を果たして2度目のG1制覇を飾っている。10Fよりは12Fでより良さが出る馬で、アスコット特有の坂に戸惑わなければ、争覇圏に加わってくる実力馬である。
なおキングジョージ6世&クイーンエリザベスSの模様は、グリーンチャンネルの「All In Line〜世界の競馬」で生中継をするべく準備を進めているので、日本の競馬ファンの皆様もぜひ楽しみにしていただきたいと思う。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。
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