ファシグティプトン・ノヴェンバーセールは誰もが想像だにしていなかった大商いに

2020年11月11日(水) 12:00 14

日本人バイヤーも活発な購買を見せた

 8日(日曜日)にケンタッキー州で開催された「ファシグティプトン・ノヴェンバーセール」で展開されたのは、誰もが想像だにしていなかった大商いだった。

 新型コロナウイルス感染拡大は、収束への道筋が全く見えないどころか、第3波が各国を襲来し、その影響で北米はもとより世界各国の経済が疲弊。さらに、人の移動が著しく制限されているため、おいそれとはケンタッキーに足を運べない中での開催となったため、マーケットは縮小するというのが大方の見るところで、北米の競走馬生産業が大打撃を受けるような壊滅的な下落だけは避けてほしいというのが、販売側の切実な願いだった。

 ところが、である。結果は、総売り上げが前年比で18.0%アップの8023万7000ドル。平均価格の56万5049ドルも前年比で6.3%アップという大盛況に終わったのだ。好況の原動力となったのは、高価格帯における分厚い需要だった。

 最高価格の950万ドル(約10億円)を筆頭に、100万ドル以上の値をつけた馬が22頭も誕生したのである。上場馬の10頭に1頭以上がミリオンホースになるという、途轍もない市場だったのだ。

 セール終了後の会見で、ファシグティプトン社のボイド・ブローニング社長は、「半年前から私たちの世界が変わってしまった中、セール開催前に私がもし、私たちはここで8千万ドル売り上げると喋っていたら、私はきっと、とんでもない妄想を抱いていると言われたでしょう」とコメント。主催者にとっても、望外の好景気であったことを示している。

 ただし、市場に投入された資金が満遍なく行きわたったわけではなく、バイバックレートは前年の23.8%から今年は32.7%に上昇。さらに、中間価格は前年比で33.3%もダウンする20万ドルにとどまった。すなわち、物凄くバブリーで、かつ、きわめてラフなマーケットが展開されたのだ。

 そのバブルが最も膨らんだのが、前述した最高価格で、950万ドルという数字を叩き出したのは、上場番号192番として登場したモノモイガール(牝5)だった。海外競馬をフォローしている方には、説明の必要がないことだが、セールの前日にケンタッキー州のキーンランドで行われたブリーダーズCで、牝馬の頂点を決めるG1デイスタフ(d9F)に出走し、18年に続く2度目の優勝を果たしたのがモノモイガールだ。

 例えて言えば、アーモンドアイがGI天皇賞・秋を制した翌日に、市場に登場したようなもので、高額ビッドの応酬になるのも当然だった。購買したのはスペンドスリフトファームで、馬の状態に問題がなければ、6歳となる来季も、現在在籍しているブラッド・コックス厩舎で現役を続ける予定だ。この他、G1・6勝馬で、前日のG1BCフィリー&メアターフ(芝9.5F)が首差2着だったラッシングフォール(牝5)が、550万ドルで。G1・5勝馬で、第1回サウジC(d1800m)で2着に入ったミッドナイトビズー(牝5)が、500万ドルで購買されている。

 国内の競走馬市場が好調な日本人バイヤーも、買う側にとっては難しい市場になった中、活発な購買を見せた。

 リーディングサイヤーのイントゥミスチフを受胎して上場された、G1入着馬ミスベシルー(牝9)が、220万ドルで。アンクルモーを受胎して上場された、G1CCAオークス(d9F)勝ち馬パリスライツの母パリスウビキニ(牝8)が、195万ドルで。ナイキストを受胎して上場された、6日のG1BCジュべナイル(d8.5F)勝ち馬エッセンシャルクオリティの半姉インデリブル(牝4)が、160万ドルで購買されたのをはじめ、8頭のミリオンホースを含めた17頭が、日本人購買馬として確認されている。彼女たちが、日本産馬の更なる品質向上の一翼を担うことは間違いなく、産駒たちが日本のセールに登場し、日本の競馬場で走る日を、心待ちにしたいと思う。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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