2021年08月12日(木) 12:00 50
先週の土曜日、ブタノカックーニというユニークな名前の馬が新潟でデビューした。しんがりの17着に終わったが、「まだ脂肪を落とし切れていないようだ」とか、「サバノミッソーニと何か関係があるのか」など、SNSで話題になっていた。
去年のクリスマスに大井でスモモモモモモモモがデビューしたときもワクワクした。私も、この馬見たさにライブ中継にアクセスした。いや、「見たさに」というより「聞きたさに」というべきか。はたしてスタートからゴールまでの間に、実況アナウンサーに馬名を呼ばれるかどうか。
それがこのレースの最大の「見どころ」というか、「聞きどころ」となっていた。結果は、期待以上だった。さすがプロ。アナウンサーは、ちゃんと「李(すもも)も桃も桃」とわかるよう、2度も馬名を呼んでいた。しかも2度目は、ファンサービスとして、あえて「呼びに行った」という感じがして、嬉しくなった。
以前、ユニークな馬名をつなげて意味のある文章にする芸を披露していた人がいたような気がする。記憶違いかもしれないが、せっかくだから、「あ行」の馬という縛りでやってみたい。
イザトナレバ アシタガアルサ イチゴキネンビ
いざとなれば、明日があるさ。(と君が言ったから明日は)イチゴ記念日。
イバル オッカナイ アナタノトリコ オレデイイノカ オヤノナナヒカリ
威張る。おっかない。(それでも私は)あなたの虜。俺でいいのか?親の七光(に頼っている、こんな俺でも)。
オヌシナニモノ イロゴトシ アユツリオヤジ アナゴサン ウナギノボリ
お主、何者。色事師?鮎釣りオヤジ?穴子さん?(いずれにしても、お主の評価は)ウナギのぼり。
オサキニゴブレイ オオキニ イチネンエーグミ オニクダイスキマン イチローイチロー
お先にご無礼。おおきに。1年A組(の学級委員は)お肉大好きマン(じゃなくて)一郎、一郎。
最後の文に引用したオニクダイスキマンは、本稿がアップされる翌日、8月13日に船橋第5レースでデビューするという。無観客開催なので、このレースもネット中継で楽しみたい。
東京五輪が先週日曜日、8月8日に閉幕した。開催反対の声もあったなか、よくぞ最後までやり遂げたと思う。
反対や批判を通り越し、SNSで選手を誹謗中傷するなどした人間には、厳しく対処しなければならない。
言論の自由というのは、何を言っても許されるという意味ではない。
責任を取ったうえでの自由だということを理解していないか、あるいは、理解していながら、匿名という隠れ蓑を利用し、安全なところから罵声を浴びせる卑劣な人間があとを絶たない。
そうした人間や組織を特定できるよう、近く法律も変わるようなので、今後の動向を見守りたい。
マラソンのスタート時刻を急きょ1時間早めるほどの酷暑に見舞われた札幌も、五輪が終わったとたん涼しくなった。
今も私は札幌の実家にいる。こうしてここで原稿を書く日々も、来月一杯で終わる。
両親が世を去ってからは実家を別荘のように使うつもりでいたのだが、人が住まない状態で札幌の冬を越すことの大変さが身に沁みてわかり、手放すことにした。親が生きていたときはしょっちゅうここに来ていたのだが、2人ともいなくなると、案外、来なくなるものだ。
家が建っている土地と、元々はお隣さんだった庭とを別々に売りに出したところ、どちらも早々に買い手がついた。
今朝から業者が来て、重機で庭を整地している。今見たら、父が植えた山桜もライラックもバラも、なくなっていた。
寂しいが、仕方がない。家のある土地のほうは、建物をすぐには解体せず、このまましばらく使ってくれるところ、という条件で買い手を探してもらった。父が退職金を叩いて建てた、思い入れのある家だからだ。買い手は個人ではなく業者になった。ここをリフォームして売りに出すようだ。
そういえば、ユメノマイホームという馬がいた。故郷のミルファームで繁殖牝馬になったという。
島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆~走れ奇跡の子馬~』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。
関連サイト:島田明宏Web事務所