2021年08月25日(水) 12:00
6月11日から7月11日にかけて、10か国の11都市で観客を動員して開催されたサッカーの欧州選手権が、およそ6400人余りのコロナウイルス新規感染者を生み出したことが明らかになり、大きな話題を呼んでいる。
調査結果を20日(金曜日)に発表したのは英国政府で、ロンドンの競技場で開催され、キャパシティの75%にあたる約6万7千人の観衆を集めての開催となった準決勝と決勝を含めて、計8試合分、観客数約35万人を対象としたモニタリング調査の結果を公表したのである。
もっとも感染者が多かったのは、予想通り、イングランド対イタリアの組み合わせとなった7月11日の決勝で、この試合だけで入場者の5%を超える3400人が感染。マスクをせず、観客同士が歌い叫ぶ光景を、報道でご覧になった方も多いと思うが、さもありなんという結果である。
この時期、英国がモニタリングを行ったのは欧州選手権だけではなく、6月28日から7月11日まで行われたテニスの「ウィンブルドン」、7月16日から18日までシルバーストーンで行われたF1の「ブリティッシュ・グランプリ」、さらには、6月15日から19日まで開催された競馬の「ロイヤルアスコット」も、調査の対象となっていた。
前年(2020年)は無観客での開催を余儀なくされたロイヤルアスコットは、2021年、1日あたり1万2千人を上限に、観客を動員しての開催となった。
ワクチン接種の進捗が早かった英国では、この時期、人々に課せられていた行動制限が徐々に緩和されつつあったが、屋外スポーツに関してまだフルスペックの開催は認められておらず、国が定めていたこの段階での観客動員の上限は4千人だった。実際に6月4日と5日にエプソムダウンズで行われたオークス・デーとダービー・デーは、それぞれ4千人を集客しての開催となっていた。
ロイヤルアスコットの1万2千人は、「イベンツ・リサーチ・プログラム(ERP)」に則った、特別措置だった。観客は、オンラインによって催される、コロナウイルスの基礎知識に関するテストを受け、これに合格する必要があった。
さらに、前日、もしくは当日の朝にPCR検査を受け、発行された陰性証明を提示することが入場の条件となった。そして、ここからが肝心なところなのだが、入場した5日後に改めてPCR検査を受け、その結果を当局に報告することが義務付けられていたのである。
すなわち、すべての入場者がモニタリングの対象となり、イベント開催のさらなる制限緩和へ向けた研究材料となることを条件に、1万2千人の動員が許されていたのである。
5日間開催で、実際にモニターの対象となった観客は4万9319人いた中、5日後の検査でコロナウイルスの陽性が確認されたのは50名で、感染率はわずか0.101%に留まっている。
2週間にわたった開催を通じておよそ30万人が観戦したウィンブルドンは、感染者数881名で、感染率は約0.294%。コロナ発生後に英国で行われたスポーツとしては最大規模となる、35万人を3日間で動員したブリティッシュ・グランプリは、感染者数585人で、感染率は0.167%だった。
競馬は、主要スポーツの中でも感染率が最も低く、競馬場内における入場者の行動がしっかりと統制されていたことが証明されている。
テニスやF1の感染率も、一般的な市中感染とほとんど変わらない水準だったことから、イベンツ・リサーチ・プログラムの統括チームは、競馬を含めて多くの観戦スポーツが、観客をフルに動員してもほぼ安全に開催できることが裏づけられたと、結論を出している。
その一方で、スポーツ・イベントで感染した人が、移動した先で感染を広げるリスクは依然として残っており、密な状態が起こりうる状況が想定される場合は、充分な感染防止策をとる必要があるとの警告も発している。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。
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