2022年09月01日(木) 12:00 24
母校で、ノーマライゼーション(障害のある人もない人も、互いに支え合い、地域で生き生きと明るく豊かに暮らしていける社会を目指す理念)の大切さを講演した常石さん。この取り組みも今年で10年目だそう。騎手仲間から提供してもらった素敵なプレゼントと、中学生たちとのふれあいを綴ります!
白毛共演! ソダシとハヤヤッコの対決にも沸いたサマー2000シリーズ、札幌記念GII(芝2000m)。
優勝を勝ち取ったのは、ジャックドール号でした。最後の粘りが素晴らしかったです。控える競馬をして結果をだしたのは、ジャックドール号が精神的に大人になって成長したことも大きいでしょう。藤岡厩舎・関係者の皆様、佑介騎手おめでとうございます。秋のGI戦線がたのしみです。
札幌記念を制したジャックドール(撮影:高橋正和)
GI馬5頭も出走し真夏のGIレースを見るかのように豪華メンバーが揃い見応えがあり、わくわくしました。パンサラッサ号は、悔しいクビ差。
連覇を狙っていたソダシは、いい手応えだったんですが、いつもの伸びがなく末脚が爆発しなかったですね。
元中尾厩舎で一緒に働いていた今浪さんは、とっても優しく丁寧に馬の世話をされるんですよ。ソダシの労をねぎらう様子から、次への期待がうかがえました。今浪さんとソダシの底力発揮をたのしみにしています。がんばれー!
ソダシは白い恋人とのコラボもあるんですよね。買いに行きたいなあ。
小倉競馬場、サマースプリントシリーズ・北九州記念でも大波乱の面白いレースが展開されましたね。なんと単勝馬券が1万6430円。16番人気のボンボヤージ号がラスト1ハロン過ぎたところで鋭く勢いよくはじけましたね。思わず「おーおー」と叫んでいました。
17日にお亡くなりになった伊藤雄二調教師とご縁があり、後押ししてくれたと感慨深い話を聞き競馬の深さを感じました。
伊藤雄二先生のご冥福をお祈りします。私は、数回しかお会いできませんでしたが、いつも穏やかな表情で話してくださったのが印象に残っています。
8月最終週には、3年ぶりに2022ワールドオールスタージョッキーズWASJ4競走の出走予定馬や騎手が決まったそうです。武豊騎手、ルメール騎手など参戦。武豊騎手が71ポイント獲得され30年ぶり2度目の素晴らしい成績で優勝。凱旋門賞に弾みをつける勝利。楽しみ倍増です。
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さて私は、母校(大阪府泉南郡の岬中学校)へ「ノーマライゼーションの大切さ」を講演に行ってきました。毎年恒例になり今年で10年目になります。1年生の生徒たちと話すことは、私自身も元気をもらうので楽しみにしています。
交流を深めるためにプレゼントを用意し、講演の後に生徒みんなでする争奪戦もたのしみ。
競馬会や騎手クラブなどに協力していただきプレゼントを準備していましたが、今年は取材にも行けず騎手の仲間にも会えなかったのでプレゼントないな…?
…そこであつかましく、武豊騎手と和田竜二騎手に色紙にサインをお願いしました。
武豊騎手から送られてきたサイン色紙を開けてビックリ仰天、感動! 感動です。中学生によろしくお伝えくださいと手紙もはいっていました。
心のこもったサイン色紙にびっくり感動!
1枚1枚にこれまでにGIレースを勝った馬やその時の様子の写真が2、3枚丁寧に貼られ、サインをしてくださっていました。
世界でたった一つのサイン色紙に私の心が震えました。今までこんな色紙は見たことがありません。豊騎手のメッセージが込められていることがよくわかりました。
豊騎手に「一番勝ちたいレースはどんなレースですか?」と質問すると、必ず“次のレース”といいます。ひとつひとつ勝ち進んでいかないと先には進めないということを教えてくれます。
諦めないで自分を信じて努力することの大切さ。一人ではなく多くの人が助けてくれ、関わっていること。馬それぞれ癖や性格も違うから一頭一頭大事にし信じること。自分が信じてしていることに無駄なものはない。だから丁寧にやること。
馬は話せないというが、思いと心が通じ、真剣勝負する。
中学生は、これから何でもできる可能性を持っているので何でも挑戦して欲しい。
この色紙を通して生徒たちへのメッセージや思いが込められていると思います。そんな思いを願って作ってくださったことを忘れないでほしい。豊騎手の粋な計らいを感じました。
和田騎手は私と一番仲のいい友達です。いつも応援してくれます。そして女性騎手のサインももらって来てくれました。騎手は、男女関係なくターフで戦う厳しい仕事です。
生徒の皆さんへ世界に一つの最高のプレゼントです。先生方は私と同年代なのでとても共感されていて、ジャンケン争奪戦は大いに盛り上がりました。
サイン色紙をじっくり選ぶ中学生たち
中学生は“武豊騎手って誰? 和田騎手って誰?”と思うでしょう。競馬のことも馬のことも、知らなくてもいいと思いまうす。
でも少し困った時、自分の進路で悩んだ時、友達にちょっと意地悪してしまった時、やる気や気力がなくてだらけた時…いろんな場面に遭遇した時に、この色紙を思い出してほしいと思います。
先日オーストラリアで活躍中の日本人騎手が落馬により死去された記事を見た時、ハッとしました。私も死を目前に戦ったことを思い出しました(母曰く)。必死で生きたいと思いました。
競馬は死と背中合わせであることを騎手は、自覚しながら細心の注意をしながら騎乗しています。馬も人も大切な生き物です。
競馬だけではなくどんなスポーツでも危険が伴ってきます。命の大切さを知ってほしい。
今回は、中学生にノーマライゼーション(=みんな同じ)の話をした内容を、あらためて文字にまとめてみます。
講演の様子
「私は障がい者です」と言う。
障害があるから恥ずかしいとか、嫌な思いをするとかはありませんが、不便なことはやまほどあります。だけど、すみませんとか、ごめんなさい、は言わない。手伝ってくれて「ありがとう」。
「ありがとう」をいっぱい言ってほしいです。
障がいがあるからパラリンピックに挑むことができる。悪戦苦闘していますがまだまだ諦めていません。障がいがあるから…いいことも、できることも沢山あります。だから楽しいです。
生徒の皆さんにも得意なことや不得意なことたくさんあると思いますが、一度そこに止まって自分を見てください。周りを見てください。困ったことを声に出してください。きっと共感できる友達が、いることを忘れないでほしい。
私は、高次脳機能障害という障がいが相棒になりました。左半側空間無視があるので左側が見えにくいです。記憶障害もあります。自慢しているわけではないですが、人の名前が覚えにくいので私と知り合いの方は、何度でも自分から進んで名前を名乗ってください。面倒だとは思わないで会うたびに教えてください。「誰かわかる?」が一番つらいです。
困ったときは、頭に手を当ててください。トンチの一休さんのようにいい案が浮かんできます。脳には沢山の働きをする場所があるそうですよ。使わないと勿体ないですよ。私は、みなさんと触れ合うことで懸命に脳を働かせていますが、スピードが遅いので中々覚えられません。中学生の皆さんは若くてフレッシュな脳なのでいっぱい吸収出来ますよね。楽しみにしています。
先日、私が通う聴覚障がい施設びわこみみの里で大失敗してしまいました。耳が聞こえなかったり、少しなら聞こえたり、さまざまな目も耳も不自由な方たちがいます。そこでバームクーヘンや菓子クッキーなど焼いたり競馬の調教ゼッケンを再利用しゼッケンバックなどをつくって販売しています。
そこで「ここの方たちに話しても聞こえないから通じないねん。手話も上手くできないので困ることがある」と断言してしまいましたが、私の身振りや口パクで私の気持ちを読み取ってくれていました。
メチャクチャ申し訳なく、恥ずかしい思いをしました。人として最低なことを知らず知らずのうちにしてしまっていました。障がい者としての自覚がない。と反省。懸命に手話を覚えています。1日ひとつ覚えることにしています。
みみの里が心地いい場所になりました。
みなさんも心地いい場所を見つけてください。ノーマライゼーションにつながっていくと思います。
最後にとっても素敵な手話を是非覚えてください。
人差し指と人差し指を向き合ってお辞儀をすると、こんにちはになるでしょう。片方の人差し指をお辞儀させると鍵とか泥棒の意味になってしまいます。だから不自由な左手を上手く使えるように努力しています。
私の得意な替え歌
♪あめふり(童謡)
ぴちぴち ちゃぷちゃぷ らんらんらん
ピンチピンチ チャンスチャンス ランランラン
ピンチはチャンスの始まりです。
ありがとうございました。
オカン 武豊騎手から貴重な色紙、心の広さと粋なメッセージをいただき感射。息子の在籍した世界の人脈の豊さに感動しました。和田騎手もありがとうございました。
母校での講演は、中学生のフレッシュなパワーに元気をいただいてます。自分が障がい者だと自覚できるようになってきましたがまだまだ自分に甘くなるときもあり難しい。講演は、原稿用紙8枚分くらい話し、えーと文を飛ばして読み、慌てるとまた戻ってきて話すなど上手くやりこなすテクニックがあり不思議です。講演慣れしてきましたね。落馬して19年になりますが、今になって左手で手すりを持つと離さないので危険なんです。課題はまだまだありますが、上手く付き合えるようになってきました。
いろんな体験をしながらほんの少しの成長を微笑ましく思えるようになってきました。
そろそろ子育て終了を考えるおかんです。
つねかつこと常石勝義&オカン
(次回の更新は10/1(土)を予定しています)
常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っている。