2022年11月07日(月) 18:00 42
単勝オッズ17.7倍(6番人気)のブレークアップが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
AIマスターM(以下、M) 先週はアルゼンチン共和国杯が行われ、単勝オッズ17.7倍(6番人気)のブレークアップが優勝を果たしました。
伊吹 前回の当コラムで紹介した取捨のポイントを綺麗にクリアしており、私自身も最終的に重いシルシを打ったのですが、まさかここまで鮮やかに勝ち切るとは……。世間の見立てはもちろん、私の見積もりすら過小評価だったようです。スタート直後から田辺裕信騎手が積極的に出していき、道中は逃げたキングオブドラゴン(18着)からやや離れた3番手を追走。ゴール前の直線に入ったところでキングオブドラゴンが内ラチに接触してしまい、若干ながら影響を受けたものの、その後は内ラチや周囲の馬を頼ることなく真っすぐ伸びて、ハーツイストワール(2着)らの追撃を振り切っています。横綱相撲と表現しても良いくらいの完璧なレース運びで、お見事と言うほかありません。
M ブレークアップは前走の六社Sを勝ってオープン入りを果たしたばかり。2021年の京都新聞杯(10着)以来となる、自身2度目の重賞挑戦でした。
伊吹 そうした背景もあって負担重量は54.0kgにとどまっていましたが、仮にもう少し見込まれていたとしても、優勝争いには食い込んでいたでしょう。東京芝2400mのレースは2戦2連対、2400m以上のレースも前走を終えた時点で[1-2-2-0](3着内率100.0%)だったわけですから、コース適性は高いと見て良かったはず。実績上位の馬が他にいた分、人気の盲点になってしまった印象です。
M ブレークアップは4歳馬。今回の勝利がフロック視されるようであれば、また近いうちに芝中長距離の重賞で波乱を演出してくれるかもしれませんね。
伊吹 これまでの戦績を見ても、どちらかと言えば人気になりにくいタイプ。強敵相手のレースで大敗を喫した直後などは絶好の狙い目だと思います。もちろん、勢いに乗っている今なら“強敵相手のレース”でいきなり穴をあける可能性もありそう。いずれにせよ、過大評価されるような場面は想像しにくいので、しばらくの間は安易に軽視してしまわないよう心掛けるべきでしょう。
M 今週の日曜阪神メインレースは、3歳勢を含めた下半期の牝馬チャンピオン決定戦と位置付けられているエリザベス女王杯。昨年は単勝オッズ64.9倍(10番人気)のアカイイトが優勝を果たしました。ちなみに、3連単の配当は339万3960円。昨年並みの大波乱を期待している方も少なくないはずです。
伊吹 ただ、3連単が発売されるようになった2004年以降の計18回中、3連単の配当が10万円を超えたのは4回だけで、20万円超となると2回だけ。昨年のような決着は珍しく、基本的には堅く収まりがちなレースと言えます。過去10年の単勝人気順別成績を見ても、上位人気馬の成績は決して悪くありません。
M 単勝7番人気以下だったにもかかわらず3着以内となった馬は8頭。ただし、このうち3頭は昨年の1~3着馬ですから、伏兵の台頭が極端に多いわけではないと見るべきでしょうね。
伊吹 より細かく見ていくと、単勝7番人気以内の馬は2012年以降[9-7-9-45](3着内率35.7%)、単勝8~12番人気の馬は2012年以降[1-3-1-45](3着内率10.0%)、単勝13番人気以下の馬は2012年以降[0-0-0-53](3着内率0.0%)でした。闇雲に手を広げるのではなく、上位~中位人気グループの馬を中心に妙味ある配当を狙っていくべきだと思います。
M そんなエリザベス女王杯でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、アンドヴァラナウトです。
伊吹 面白いところを挙げてきましたね。上位人気にはならなさそうな雰囲気ですが、超人気薄ということもなさそう。
M アンドヴァラナウトは昨年のローズSを制し、秋華賞でも3着に食い込んだ馬。今年に入ってからは勝ち切れていないものの、実績上位の一頭と言って良いでしょう。ただし、今回は秋華賞馬のスタニングローズをはじめとする3歳勢や、三冠馬のデアリングタクトらに注目が集まりそう。中心視しようと考えている方はそれほど多くないかもしれません。
伊吹 4走前の愛知杯(11着)や2走前のヴィクトリアM(14着)で大敗を喫している分、さすがに今回は人気を落としそうですね。Aiエスケープが高く評価している点を踏まえたうえで、私はレースの傾向からこの馬の好走確率を見積もっていきたいと思います。
M 最初に注目しておくべき点はどのあたりでしょうか?
伊吹 やはり臨戦過程ですね。以前に比べると、近年は府中牝馬Sを経由してきた馬の活躍が目立ってきました。
M 昨年も府中牝馬S組のアカイイトが優勝を果たしています。
伊吹 もともと主要な前哨戦と位置付けられてきたレースですし、実際に結果も出ているわけですから、引き続き高く評価すべきでしょう。ちなみに、前走のレースが府中牝馬S以外だったにもかかわらず3着以内となった5頭のうち3頭は、前走の条件が“牝馬限定以外かつ重賞”、かつ前走の距離が2200m未満だった馬。近年は秋華賞組や2200m以上のレースを経由してきた馬があまり上位に食い込めていません。
M アンドヴァラナウトは前走の府中牝馬Sで勝ったイズジョーノキセキから0.2秒差の3着に健闘。叩き2戦目である点も含め、理想的な臨戦過程と言えそうです。
伊吹 前走好走馬が強いレースでもありますからね。2012年以降の3着以内馬30頭中26頭は、前走の着順が1着、もしくは前走の1位入線馬とのタイム差が0.5秒以内でした。
M 過去10年まで集計対象を広げてもあまり好走例がないとなると、大敗直後の馬は強調できませんね。
伊吹 ちなみに、前走の着順が2着以下、かつ前走の1位入線馬とのタイム差が0.6秒以上、かつ“前年のエリザベス女王杯”において3着以内となった経験がない馬は、2012年以降[1-1-0-51](3着内率3.8%)、2017年以降[0-0-0-31](3着内率0.0%)です。
M これはわかりやすい。前年の上位馬以外は、直近のパフォーマンスを素直に評価するべきでしょう。
伊吹 あとは関西馬が優勢である点も見逃せないポイント。2016年以降の3着以内馬18頭は、いずれも栗東所属の調教師が管理する馬でした。
M 関西圏のレースなので当然と言えば当然の傾向ですが、今年も注目を集めそうな関東馬が何頭かいますし、改めて意識しておいた方が良いかもしれませんね。
伊吹 おっしゃる通り。買い目が増え過ぎることを防ぐためにも、関東馬は思い切って評価を下げるべきだと思います。
M アンドヴァラナウトは池添学調教師が管理している関西馬です。
伊吹 レースの傾向からはまったく不安要素が見当たらない馬で、実は私も積極的に狙おうと考えていました。想像以上に人気がなさそうですし、Aiエスケープも有力視しているのであれば心強い限り。2022年下半期のプラス収支が一気に確定するような、爆発力のある買い目で勝負します。
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伊吹雅也
競馬評論家。JRAの公式ホームページ内「今週の注目レース」にて“データ分析”のコーナーを、TCK(東京シティ競馬)の公式ホームページ内「分析レポート」にて重賞競走のデータ分析を担当しているほか、グリーンチャンネル、JRAのレーシングプログラム、『週刊アサヒ芸能』、『競馬王』などさまざまなメディアを舞台に活動している。主な著作に『WIN5攻略全書 回収率150%超!“ミスターWIN5”のマインドセット』、『コース別 本当に儲かる騎手大全』シリーズ、『コース別 本当に儲かる血統大全』シリーズ、『ウルトラ回収率』シリーズ(いずれもガイドワークス)など。