2023年05月01日(月) 18:00
2番人気ジャスティンパレスが勝利を果たした天皇賞(春)(c)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
AIマスターM(以下、M) 先週は天皇賞(春)が行われ、単勝オッズ4.3倍(2番人気)のジャスティンパレスが優勝を果たしました。
伊吹 有力だとは思っていましたが、想像以上に強かったですね。1周目までは枠なりに中団の最内でレースを進めていたものの、自身の外を走る馬がいなくなった2周目の1〜2コーナーで馬群の外めに移動。鞍上のC.ルメール騎手は、この時点でもう先行勢が早めに下がってくるような展開を予見していたのかもしれません。その後は3〜4コーナーでディープボンド(2着)らとともに進出し、先に抜け出したディープボンドを内回りコースとの合流地点あたりで捕らえ、最終的には2馬身1/2の差をつけてゴール。好枠を活かし切ったわけでも、展開に恵まれたわけでもありませんから、完勝と言って良いでしょう。
M ジャスティンパレスはGI初制覇。2022年の神戸新聞杯を勝っているうえ、2021年のホープフルSで2着に、2022年の菊花賞で3着に食い込んだ実績もある馬ですが、ようやくビッグタイトルに手が届きました。
伊吹 2022年シーズンは皐月賞(9着)、日本ダービー(9着)、有馬記念(7着)で大敗を喫してしまったものの、GI以外のレースは未だ無敗。休養明けを苦にするようなところもなく、本質的には安定感があるタイプだと思います。初めての京都も難なくこなしましたし、コース適性の幅はかなり広そう。東京のビッグレースを使ってきたとしても、不安視する必要はなさそうです。
M 今後も目が離せませんね。
伊吹 現役馬が少なくなりつつあるディープインパクト直仔で、母のパレスルーマーも現役時代にアメリカのオーデュボンオークス(G1)を勝っている名牝。さらに、半兄Palace Maliceはアメリカ3歳牡馬クラシック三冠競走のベルモントSを制しました。現役生活はもちろん、その先に対する期待も今回の勝利でグンと高まったわけですから、長い付き合いになる前提でしっかり見守っていきましょう。
M 今週の日曜東京メインレースは、牡牝混合の3歳世代最強マイラー決定戦、NHKマイルC。
昨年は単勝オッズ7.1倍(4番人気)のダノンスコーピオンが優勝を果たしています。なお、その2022年は2着が単勝オッズ6.8倍(3番人気)のマテンロウオリオン、3着が単勝オッズ229.1倍(18番人気)のカワキタレブリーで、3連単153万2370円の高額配当決着。波乱含みというイメージが強いレースです。
伊吹 3連単が発売されるようになった2005年以降の過去18回中、3連単の配当が10万円を下回ったのは6回だけ。一方、100万円を上回った例は昨年を含めて4回もありました。過去10年の単勝人気順別成績を見ても、上位人気勢の好走率は決して高くありません。
M 単勝3番人気以内の支持を集めた馬のうち、半数以上の馬が4着以下に敗れていますね。
伊吹 一応、単勝2番人気以内の馬は2013年以降[5-3-2-10](3着内率50.0%)なのですが、単勝3〜5番人気の馬は2013年以降[2-2-0-26](3着内率13.3%)でした。単勝6番人気以下の馬が2013年以降[3-5-8-114](3着内率12.3%)であることを考えると、これは相当に物足りない水準。今年も上位人気グループの馬を信頼し過ぎないよう心掛けるべきでしょう。
M そんなNHKマイルCでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、カルロヴェローチェです。
伊吹 なるほど。オッズを読みづらいメンバー構成ではあるものの、少なくとも超人気薄ということはないはず。話の流れからすると若干の危うさを感じますが……。
M カルロヴェローチェは前哨戦のファルコンSで勝ったタマモブラックタイとハナ差の2着に健闘。2走前には中京芝1600mの白梅賞を快勝していますから、コース替わりはプラスに働くと見ている方が多いかもしれません。今後の報道などにもよるとはいえ、おそらく上位人気グループの一角を占めることになるでしょう。
伊吹 正直なところ、特別登録を見た段階では、それなりに妙味あるオッズがつくのではないかと思っていました。前向きに考えるなら、現時点における注目度がたまたま私の想像を超えているだけで、蓋を開けてみたら手頃な人気に落ち着くのかも。オッズのことは一旦横に置いたうえで、Aiエスケープが高く評価しているこの馬の信頼度を、レースの傾向から計ってみたいと思います。
M 真っ先に注目しておくべきポイントはどのあたりですか?
伊吹 前走のパフォーマンスはしっかりチェックしておいた方が良さそう。2017年以降の過去6年に限ると、前走で勝ち馬に0.4秒以上のタイム差を付けられていた馬は、あまり上位に食い込めていません。
M 大敗直後の馬は過信禁物と見ておくべきでしょうね。
伊吹 ちなみに、前走の着順が2着以下、かつ前走の1位入線馬とのタイム差が0.4秒以上、かつ前走の出走頭数が16頭以下だった馬は2017年以降[0-0-0-29](3着内率0.0%)でした。なお、一応補足しておくと、前走の着順が1着だった馬も2017年以降[1-0-0-25](3着内率3.8%)と期待を裏切りがち。ただ、ダノンスコーピオンがアーリントンCとNHKマイルCを連勝したばかりですし、前哨戦の勝ち馬を無理に嫌う必要はないと思います。
M いずれにせよ、カルロヴェローチェにとっては心強い傾向です。
伊吹 あとは脚質にも注目しておいた方が良さそう。ごく近年に限った話ではあるものの、積極的な競馬をしてこなかった馬はあまり信頼できないので、基本的に疑ってかかるべきでしょう。
M 前走で先行していた馬を重視した方が良いかもしれませんね。
伊吹 前走の4コーナー通過順が5番手以下だったにもかかわらず3着以内となった3頭は、いずれも“JRA、かつオープンクラスのレース”において“着順が1着、かつ4コーナー通過順が4番手以内”となった経験のある馬でした。これらの条件に引っ掛かっている馬は割り引きが必要です。
M カルロヴェローチェは前走の4コーナー通過順が4番手。高く評価して良いのではないでしょうか。
伊吹 さらに、同じく2020年以降の過去3年に限ると、サンデーサイレンス系種牡馬とノーザンダンサー系種牡馬の産駒が上位馬の大半を占めています。
M 血統が明暗を分ける可能性もある、と。
伊吹 おっしゃる通り。ミスタープロスペクター系種牡馬などの産駒は、扱いに注意した方が良いかもしれません。
M カルロヴェローチェの父はサンデーサイレンス系種牡馬のシルバーステートです。
伊吹 Aiエスケープの評価が高いだけでなく、私が挙げた条件もすべてクリアしているわけですから、それなりに信頼できる一頭と見て良いでしょう。今のところ私はより人気のない馬を狙うつもりですが、オッズ次第ではこの馬を連軸に据えるかも。引き続き注目しておきます。
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伊吹雅也
競馬評論家。JRAの公式ホームページ内「今週の注目レース」にて“データ分析”のコーナーを、TCK(東京シティ競馬)の公式ホームページ内「分析レポート」にて重賞競走のデータ分析を担当しているほか、グリーンチャンネル、JRAのレーシングプログラム、『週刊アサヒ芸能』、『競馬王』などさまざまなメディアを舞台に活動している。主な著作に『WIN5攻略全書 回収率150%超!“ミスターWIN5”のマインドセット』、『コース別 本当に儲かる騎手大全』シリーズ、『コース別 本当に儲かる血統大全』シリーズ、『ウルトラ回収率』シリーズ(いずれもガイドワークス)など。
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