2023年07月24日(月) 18:00 19
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
AIマスターM(以下、M) 先週は中京記念が行われ、単勝オッズ16.6倍(8番人気)のセルバーグが優勝を果たしました。
伊吹 陣営はもちろん、手綱を取った松山弘平騎手にとっても会心の勝利だったのではないでしょうか。スタート直後に繰り広げられたアナゴサン(6着)らとの先行争いを制し、2コーナーを単独先頭で通過。その後もスムーズにレースを引っ張り、後続に対して2馬身ほどのリードを保ったまま4コーナーを通過しています。ゴール前の直線に入っても脚色は衰えず、後方から追い上げたディヴィーナ(2着)やルージュスティリア(3着)に並びかけられることなく入線。決して楽な流れではなかったと思うのですが、他の馬にしてみるとなかなか動きづらい展開でしたから、作戦勝ちと言って良いかもしれませんね。
M セルバーグは重賞初制覇。2~3歳時に出走した重賞では7着が最高だったものの、今年2月の武庫川Sを勝ってオープン入りし、久々の重賞挑戦となったこのレースで最高の結果を残しました。
伊吹 エピファネイア産駒は中京芝1600mのレースで優秀な成績を収めていましたし、コース替わりはプラスに働いたはずです。ただ、前走の米子Sで12着に敗れていたうえ、中京記念は馬格のない馬が期待を裏切りがちだったレース。正直なところ勝ち切る可能性は高くないと見ていたので、反省しています。この展開をしっかり読み切った方にとっては、妙味ある配当だったのではないでしょうか。
M 今回の勝利で10点の積み増しに成功したセルバーグは、サマーマイルシリーズの獲得ポイントランキングで首位に浮上しました。チャンピオンの資格を得るために必要な「シリーズ対象競走において1勝以上」の条件をクリアしたうえ、3戦目の関屋記念にも出走を予定しているそうですから、完走さえすれば「合計得点が12点以上」の条件もクリア。関屋記念でさらに多くのポイントを獲得する可能性もあるわけですし、他馬が逆転するのはなかなか難しいかもしれません。
伊吹 チャンピオン争いの趨勢を占ううえでも、この馬の将来性を見極めるうえでも、関屋記念は重要な一戦になりそうですね。新潟芝1600m外へのコース替わりを苦にしないようであれば、今後が非常に楽しみ。次回は的確な評価を下せるよう、これまでのパフォーマンスをいま一度分析し直しておきたいと思います。
M 今週の日曜新潟メインレースは、サマースプリントシリーズの第3戦となるアイビスSD。昨年は単勝オッズ17.3倍(7番人気)のビリーバーが優勝を果たしました。特殊な条件で施行される一戦ですが、波乱の決着を期待しても良いのでしょうか?
伊吹 メンバー構成次第ではありますが、むしろ堅めの決着を警戒しておいた方が良いかもしれませんね。過去10年の3着以内馬30頭中18頭は、単勝3番人気以内の支持を集めていた馬。特に単勝1番人気馬は3着内率90.0%と非常に堅実で、3着以下に敗れたのは2022年のヴェントヴォーチェ(9着)のみです。
M 対照的に、単勝4~6番人気馬の好走率は他の重賞よりも低い水準にとどまっていますね。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝4~9番人気の馬は2013年以降[2-2-6-50](3着内率16.7%)、単勝10番人気以下の馬は2013年以降[0-0-2-68](3着内率2.9%)となっていました。手頃な人気薄はそれなりに健闘しているものの、超人気薄の馬を高く評価し過ぎてしまったり、上位人気グループの馬を無理に嫌ったりしてしまわないよう心掛けるべきでしょう。
M そんなアイビスSDでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ジャングロです。
伊吹 これは興味深い。意外と言えば意外なのですが、案外妥当なところなのかもしれませんね。
M ジャングロは昨年のニュージーランドTを制している実績馬。芝1200mのオープン特別でも2勝をマークしています。注目が集まりそうな雰囲気ではあるものの、新潟芝1000m直線のレースを使うのは今回が初めてですし、長期の休養明けである点も気掛かり。懐疑的な目で見ている方も少なくないはずで、場合によっては妙味あるオッズがつくのではないでしょうか。
伊吹 特別登録を行った馬のうち、JRAのGI・GIIで馬券に絡んだことがあるのはジャングロだけでした。前走がGI・GIIだったのもこの馬のみですし、メンバー構成に恵まれたのは確か。Aiエスケープが高く評価しているという事実を踏まえたうえで、私はレースの傾向からこの馬の信頼度を測ってみたいと思います。
M 新潟芝1000m直線のレースということで、まず気になるのはやはり馬番別成績。セオリー通りに外枠の馬を狙った方が良さそうですか?
伊吹 基本的にはその方針で良いはず。2015年以降の過去8年、かつ同年の韋駄天Sで2着以内となった経験がなかった馬に限ると、3着以内となった馬の大半は馬番が12~18番でした。
M これはわかりやすい。今年の韋駄天Sで連対を果たしているファイアダンサーとメディーヴァルはともかく、その他の馬に関しては、枠順を素直に評価した方が良いかもしれませんね。
伊吹 なお、同年の韋駄天Sにおいて2着以内となった経験がある馬は2015年以降[3-4-2-5](3着内率64.3%)。昨年も単勝オッズ70.5倍(14番人気)のロードベイリーフが3着に食い込んでいますから、押さえておくに越したことはないでしょう。
M ジャングロは外枠を引けるかどうかが大きなポイントになりそうです。枠順は金曜の発表を待つとして、他に何か注目しておくべき傾向はありますか?
伊吹 近年のアイビスSDは基本的に前走好走馬が優勢。同じく2015年以降の過去8年に限ると、前走の着順が5着以下だった馬は期待を裏切りがちでした。
M 大敗直後の馬は強調できませんね。
伊吹 ただし、特別登録を行った馬のうち、前走の着順が4着以内なのはトキメキとファイアダンサーの2頭だけ。大敗直後であっても、他に何か強調材料がある馬なら、無理に嫌わなくて良いと思います。
M 具体的にはどのファクターを重視するべきなのでしょうか。
伊吹 血統ですね。2019年以降の過去4年に限ると、父にミスタープロスペクター系種牡馬を、なおかつ母の父にサンデーサイレンス系種牡馬を持つ馬は、非常に堅実でした。
M 父と母の父の組み合わせに注目、と。
伊吹 この条件をクリアしている馬も、今年はそれほど多くありません。不安要素がある馬の評価を下げるのではなく、強調材料が比較的多い馬をピックアップするようなイメージで予想に臨みましょう。
M 残念ながら、ジャングロは前走の着順が7着ですし、父も母の父もミスタープロスペクター系やサンデーサイレンス系には属していない種牡馬です。
伊吹 もともと私は過信禁物と見ていました。Aiエスケープが有力視しているくらいの馬ですし、外寄りの枠に入ったら押さえるかもしれませんが、そうでない場合は思い切って無印にするかも。ただ、今後が楽しみな一頭でもありますから、このレースでどんなパフォーマンスを見せてくれるのかはしっかり観察しておこうと思います。
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伊吹雅也
競馬評論家。JRAの公式ホームページ内「今週の注目レース」にて“データ分析”のコーナーを、TCK(東京シティ競馬)の公式ホームページ内「分析レポート」にて重賞競走のデータ分析を担当しているほか、グリーンチャンネル、JRAのレーシングプログラム、『週刊アサヒ芸能』、『競馬王』などさまざまなメディアを舞台に活動している。主な著作に『WIN5攻略全書 回収率150%超!“ミスターWIN5”のマインドセット』、『コース別 本当に儲かる騎手大全』シリーズ、『コース別 本当に儲かる血統大全』シリーズ、『ウルトラ回収率』シリーズ(いずれもガイドワークス)など。