2024年08月13日(火) 18:01
▲新潟競馬で行われた暑熱対策を振り返る(撮影:下野雄規)
気候変動が全世界で社会のあり方に影響を与えている中で、国内競馬界でも暑熱対策が新たな段階を迎えた。JRAが7月最終週、8月第1週の2週に渡って施行した「競走時間の拡大」の対象期間が4日で終了。猛暑はこれからが本番だが、最も酷暑が懸念される中京が開幕する10日からは通常日程に戻る。
JRAが競走日程に影響を与える形で暑熱対策に踏み出したのは2020年から。7月末から8月にかけての2週間、西日本の本場である小倉を休催し、札幌、新潟の2場のみで施行する形を採った。ちょうど20年は東京五輪と重なり、馬術競技に大量の馬運車や獣医師などのスタッフの動員が必要だった。結果的に五輪は翌21年に延期され、無観客で開催されたが、当該2週に西日本を休催するパターンは今日も続いている。今回の「二部制」は日程だけでなく、競走時間に踏み込んだ点で画期的だが、実効性に限界があるのも確かで、過渡的な措置と言える。今回の施策の効果を検証するにはなお時間を要するが、現時点で見えてきた部分を基に、本稿では可能な限り回顧してみたい。
今回、「二部制」の対象となった2週は、競走番組上は「2回新潟」開催である。期間中は1レースが午前9時35分発走となり、ここから5レースまでを30分間隔で施行し、5レースは11時35分。ここから長い昼休みに入り、再開(6レース)は午後3時10分。この時間は通常編成時の10レースの発走時間で、特別競走の2つ目、準メインが組まれる。期間中もこの点は同じで、準メインからの再開となる。この後は35分間隔でメインの7レースが行われ、7月28日のアイビスSD(芝1000m)、8月4日のレパードS(ダート1800m)の両GIIIも午後3時45分発走だった。7-8レース間も35分間隔で、8レースから11レースまでは30分間隔。午後5時50分に11レースが発走した後は、35分あけて12レースが午後6時25分発走。競走順序が変わった8月3日以外は特別が組まれた。
▲7月28日のアイビスSDを制したモズメイメイ(撮影:下野雄規)
最終レースをここまで繰り下げると、何より気になるのは場内の明るさ。新潟市内の日没時間は7月27日が午後6時58分で8月4日が6時50分。1日にざっと1分ずつ日没が早くなる。8月4日は日没25分前の発走で、曇りや雨の場合は相当に暗くなると懸念されたが、天候に恵まれてこの点は問題なかった。冬場も日没30-40分前に最終レースが発走となる日は多いが、そもそも日照が弱い時期で、天候次第では目視でコースを追うのも厳しい。今回は好天だったが、悪天候の際の視認性は今後の課題として残る。
準メインとメインが例年通り、15時台に組まれたのは、今回の施策の限界と言える。この部分に手を触れた場合、地上波の中継放送の時間を動かす必要が生じるため、ここまでは踏み込めなかった。事の善し悪しは別として、JRAは今も地上波放送を極めて重視しているが、将来的にさらに踏み込んだ措置が要求される状況が訪れた場合、いかに対処するかは難題である。競馬業界はもともと夏場は閑散期で、GII(札幌記念)が1つだけ。当然、テレビの視聴率もGIの多い春秋に比べると落ちる一方で、YouTubeのような新たなプラットフォームが普及し、JRAも23年からホームページでレースの中継映像配信を始めた。こうしたメディア環境の変化を踏まえた対応も必要かも知れない。
一方、一般競走の配置は特徴的だった。この時期は3歳未勝利戦の編成が終了間近で、1日3-4戦が組まれることが多い。従来の時刻なら3歳未勝利戦は昼休みを挟んで3、4レースと6、7レースに組まれるが、今回は2歳新馬戦、未勝利戦を午前中に組み、3歳未勝利は5レースと夕刻に配置した。一方で従来なら最終レースの時間帯に当たる8レースは3歳以上1勝クラスが置かれ、その後に3歳未勝利戦と並ぶ。個人的には夕刻に組まれた競走の売り上げの推移に注目していたが、興味深い傾向が見られた。日曜だった7月28日、8月4日ともにメイン直後の8レースと9レースは10億円台にとどまり、古馬1勝クラスと未勝利で大差がなかったが、午後5時台に入って再び売り上げが反発した。
7月28日の10レースは3歳未勝利だったが約12億1500万円。8月4日は1勝クラスで重賞好走歴もあるメンバーも参戦していて、約13億8838万円に達した。11レースは8月4日が約12億6171万円で直前のレースより落ちたが、これは9頭立てで未勝利馬や地方馬が3頭いたダリア賞だったためで、古馬1勝クラスだった7月28日は約14億3865万円。最終レースは同日が約19億6321万円、8月4日が約16億9364万円に伸びて終わった。
大まかに言えば、メインの後は9レースでいったん底を打って、その後は12レースに向けて再び上がっていく流れだった。夕刻の未勝利戦が10億円台を記録したのは驚きで、3場開催だったとは言え、6月9日(日曜)の東京6レースの3歳未勝利戦は約7億2013万円。札幌のレースが終了し、購入資金が集中した結果、思わぬ効果が現れたが、将来的に複数場で二部制が導入され、似たような時間設定がされれば・・・
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野元賢一
1964年1月19日、東京都出身。87年4月、毎日新聞に入社。長野支局を経て、91年から東京本社運動部に移り、競馬のほか一般スポーツ、プロ野球、サッカーなどを担当。96年から日本経済新聞東京本社運動部に移り、関東の競馬担当記者として現在に至る。ラジオNIKKEIの中央競馬実況中継(土曜日)解説。著書に「競馬よ」(日本経済新聞出版)。
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