2024年09月01日(日) 12:00
フランスで行われたパリオリンピック。開会式から閉会式まで目いっぱい楽しみました。あと1点、あと1歩と悔しい思いを叫んだり、感動と興奮がいっぱいでした。スポーツの祭典は心も体も熱くしてくれて、応援も全力投球です。関係者の皆様、お疲れ様でした。
次のステージはパラリンピック、健常者のアスリートからパラアスリートへとバトンが引き継がれます。開幕は28日で、29日から競技が始まります。
総合馬術団体では銅メダル、92年ぶりの快挙を達成した初老ジャパンの皆様おめでとうございます!乗馬大国を抑えての勝利は、感慨深く素晴らしいです。
僕の経験はまだまだ未熟ですが、5年程前からドイツやオランダなどへ乗馬の大会に参加しています。現地の馬は、乗馬に最適だなと感じますね。競馬で例えるとGI馬と新馬との違いかな。跨った瞬間の鞍はまりや動き、座り心地が良くて初めての馬でもすぐに乗ることができました。
▲7月にはオランダの馬術大会に参加!
乗馬クラブから学校へ行き、乗馬クラブへと帰ってくる生活をする幼い子供もいます。寝転ぶ馬のそばで昼寝をする子供たちの姿が自然体なんです。初めて見たときは驚いて「馬は怖くないの?」と聞くと「うん、優しいよ」とのこと。これこそが人馬一体だと思いました。日本でも馬や乗馬、そして競馬に興味を持つ人がもっと増えて欲しいですね。
パラリンピックもいろいろな種目がありますが、パラ馬術では個人枠で2人が出場します。団体枠が獲得できなかったことは残念です。グリーンチャンネルでも放送される予定ですので是非見てください。放送日時は9/6(金)7時から個人戦1日目でグレードI〜IIIの競技、9/9(月)13時からは団体戦。9/10(火)の馬術個人フリースタイルは個人戦上位8名が出場できます。
そして…24日(土)25日(日)に北の大地に世界と日本の名手が競うワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)が行われました。外国人騎手6名と地方所属騎手1名、JRA騎手7名の合計14名が2日間4競走に騎乗します。個人戦と対抗戦があり、迫力に満ちたレースで応援に力が入り。見事に逆転優勝されたモレイラ騎手、2位武豊騎手、3位に坂井瑠星騎手と大健闘でした。陣営の皆様おめでとうございます。
もう一つ嬉しいニュースです。福永厩舎のドロップオブライトが念願のCBC賞、サマースプリント第4戦で重賞初制覇。思い入れのある中京競馬場での勝利に大歓声が沸き起こりました。ユーイチ調教師、幸騎手のツーショットの笑顔が最高です。24日には横山武史騎手の手綱で、チャンネルトンネル号が中郷特別を勝利。3歳なので楽しみも膨らんできますね。リズムに乗ってきた感じでうれしいです。また取材させてください、楽しみにしています。
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さて僕は、パラリンピック候補選手に選ばれてユニフォーム採寸を済ませましたが、またまた幻のユニフォームになってしまった。めちゃくちゃ悔しいです。ヴェルサイユ宮殿内での馬場馬術大会出場が夢となって消えてしまいました。
それでもパラリンピックや障がい者乗馬にこだわり続けるのは、唯一男女の区別や年齢も関係なく馬と挑む競技。勝ち負けに関係なく馬体から伝わる温かさや、大きな目に自分が映る姿が見える瞬間に一体感を感じるからです。馬体検査やドーピング検査などもあり、人馬の総合的能力が問われます。体操のような美しさと正確さが問われる競技によく似ていて、馬の歩行や動きの美しさ、経路歩行の正確さが最大の難関です。
少し馬場馬術の説明をします。パラリンピックは馬場馬術のみの競技で2回間違えると失権になる一発勝負です。常歩(なみあし)速歩(はやあし)駆歩(かけあし)の3つの歩き方を基本に、様々なステップを踏んだり図形を描いたりします。その種類は26項目ほどあります。
運動機能障がいと視覚障がいの選手が出場します。聴覚障害の方はデフリンピックと言い、パラリンピックには出場できません。障がいの内容や程度に応じて、グレードIからVにクラス分けされています。グレードは重度障がいを持つ選手から順にVまであり、各クラス別に競技が行われます。
5人の審判がステップの正確さ・経路の正確性・人馬の一体感などを10点満点で採点。5人の採点合計を満点で割った得点率で順位が決まるもので、正確さを求められます。選手の障がいは個々に違いがあるので協会に申請します。例えば全盲の選手は、「コーラー」という順路を声に出して合図を送る人を頼りに演技します。
僕の場合は記憶障害があり、経路の順番を覚えられないので「コマンダー」が経路を読み上げてくれますが、聞きながら馬を動かすことがとっても難しいです。馬とコマンダーと僕が一体になって、動かないといけないんですね。指導者も馬と僕の動きをみながら経路を読み上げてくれています。
声が聞こえてから動くのでは一歩遅れるので、同時に動けるように訓練していますが、一瞬遅れてしまうことがあります。すると、経路間違いと判断されて点数がどんどん下がってしまうんですね。平均7点ぐらいは取らないと上位にならないですし、トップライダーは8から9点ほど取ります。馬場馬術競技はパラリンピックもオリンピックもほぼ同じ基準で採点されています。
東京もパリもチャレンジしたパラ出場は叶わず、とても落ち込みました。懸命にやってきたけど、チームテスト(団体課目)とインディビジュアル(個人課目)の経路が途中で混ざってしまうんですね。「あっ間違えた」と思った時には、「カランカラン」と審判のベルが鳴り、間違ったところから経路を踏みますが、大きな減点になります。2回ベルが鳴ったら失権です。それでも諦めずに海外遠征を行い、大会に挑んでいます。
リハビリから始めた乗馬ですが、大会に参加することで刺激になり、脳の活性化に繋がるからどんどん参加しなさいと脳外科の先生に言われたことに加え、東京でパラリンピックが開催されるニュースを見て、僕はここへ行くしかないと思って決意しました。僕に生きる勇気とエネルギーをくれた馬。そして、活躍する同期たちのように、形は違えど同じ馬でチャレンジしたいと思いました。
▲7月オランダでの馬術大会に参加した選手たちと記念撮影
障がいを持つ僕を指導してくれる乗馬クラブは、滋賀県にはなく兵庫県明石乗馬協会という片道2時間半かかるところへ通い始めました。競技馬はとっても乗りやすいですが、競馬の癖で体が前に倒れてしまい、なかなかうまく乗りこなせなかったです。「ほらほらまた体が倒れてきた」「カッチャンは駆歩が得意で、その時だけは体がしゃんと起きてるけど、常歩になるとおじいさんみたいにのそのそ歩きになってしまうね」など、いつも先生の激が飛び交っていました。
もっと大変だったのは、電車に乗る時間が長いので爆睡してしまい、荷物を電車に忘れることです。しかも、その忘れものをしたことを忘れるという最悪のパターンを繰り返していました。
「ただいま」「おかえり、勝義は今日どこへ行って来たの?」「乗馬やで」「荷物は?」「知らん」そんなことを繰り返しているうちに、忘れてもすぐに気づいて駅員に伝えるようになり、忘れ物も少なくなってきました。時間に遅れるなど、問題は山積みでしたが、ドイツまで一人で行けるようになったので、繰り返し経験することは大切だなと感じました。
馬のパワーと魅力が悩みを解決してくれています。やっぱり僕には、馬しかいない。どんなに落ち込んでも、馬に触れるととてもあったかくて居心地がいいんですね。
この魅力を多くの人に伝えたいです。身体に障がいがあっても心がちょっとしんどい人も、馬の暖かさにふれて大きな目に自分が映し出されると、ちっぽけな自分が恥ずかしくなってしまい、ほっと一息ついて癒されます。言葉で話すことはできないし馬の気持ちなんてまだまだわからないかもしれないけど寄り添うことはできる。大好きな人参もあげることができる。そんなちょっとしたことがうれしいですね。野球やサッカーのように身近に馬にふれる環境が増えることを願っています。
セラピー乗馬や引退競走馬など、色々な活動が増えてきました。馬の持つ魅力をまだまだ多くの人に伝えていきたいし、こだわっていきたいと思います。僕もそんなお手伝いができたらいいなと思っています。
オカン オリンピックが東京で開催されるニュースを耳にしたとき「俺、ここへ行くしかない」と言い出した息子。乗馬でリハビリを続けていて、跨った瞬間にこやかになり笑みがこぼれます。馬に生きるエネルギーをもらって命を丸儲けした息子にパラリンピックを目指すという大きな目標ができました。出場は叶わず、挫折を味わうことになりましたが、それでも馬に乗るといいます。
「費用も莫大にかかるしもう辞めたら?」と言うと、「俺がパラリンピックにこだわるのは自分が挑戦することで、障がいを持つ多くの人たちに自分もできる、やりたいと感じてチャレンジしてほしいからやで」と言い切る。
毎年、母校の中学校で行われる人権研修でお話をさせて頂いてますが、そのときも一緒にオリンピック行こうな。夢を現実に変えて挑戦してくださいと話していました。ピッチピッチ・チャップ・チャップ・ランランランを替え歌し「ピンチ・ピンチ・チャンス・チャンス・らんらんらん」とピンチは、チャンスの始まりです。と歌って盛り上げていました。また、生徒たちのフレッシュなパワーをいっぱい浴びて、パラの落ち込みも忘れるほど元気になって帰ってきました。
生徒の皆さんありがとう! 挑戦はまだまだ続くのかな? 息子よ、オカンが財布のひもをぎゅっと閉める瞬間がくることを覚悟せよ。
つねかつこと常石勝義&オカン
(次回の更新は10/1(火)を予定しております)
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常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っている。
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