【追憶のスプリンターズS】98年マイネルラヴ タイキシャトルに勝利!最強馬に引導…非情の大一番

スポニチ

2024年09月25日(水) 06:45

98年、世界のマイル王・タイキシャトルとの壮絶な叩き合いを制し、スプリンターズSを勝ったマイネルラヴ

 競馬に番狂わせはいろいろあるが、スプリンターズSの大番狂わせといえば、この一番だろう。7番人気の3歳馬マイネルラヴが単勝1・1倍のタイキシャトルを3着に退けた一戦だ。

 タイキシャトルで絶対のムードだった。前年覇者。3歳時のユニコーンSから数え、重賞8連勝中。その中にはフランスG1、ジャックルマロワ賞も含まれていた。日本競馬の歴史に刻まれた名短距離馬。負けようがないと思われていた。

 さらに、ファンの購買欲をかき立てる事象があった。このレースを最後に引退するが、レース後にそのまま競馬場で引退式をすると事前に発表されたのだ。今でこそ普通に行われる“引退戦直後の引退式”だが、以前は違った。改めて競馬場にやってきて、昼休みなどに芝コースに現れ、キャンターを行って、ファンとの別れを惜しんでいた。

 「負けて引退式なんてことはないだろう。それだけ厩舎は自信があるんだよ」。報道陣ですら、そう考えていた。ファンも同じだろう。その結果、タイキシャトルの単勝は110円となった。

 マイネルラヴ鞍上の吉田豊騎手も同じような思いだったのかもしれない。直線を向き、タイキシャトルの前に出た時、こう思ったという。「おいおい、タイキシャトルに勝っちゃうぞ。世界のタイキシャトルに勝っちゃうぞ」

 夢中でムチを振るう。坂を上がり切ってもマイネルラヴは先頭をキープしていた。外から矢のように迫るシーキングザパール。同馬はフランスG1のモーリスドゲスト賞を制していた。海外G1馬2頭を抑え切り、吉田豊は左拳を握りしめた。

 中山競馬場は、結果をうまくのみ込めないような雰囲気に包まれた。タイキシャトルが負けた?これから引退式をするって言うのに?言語化するなら、こういう感じだろうか。「ヒールになっちゃったな」。ヒーローであるはずの吉田豊は正直、居心地の悪さを感じていた。

 「驚きました。タイキシャトルに勝てるなんて」。報道陣の前に現れた吉田豊は素直な言葉を並べた。「テン乗りだったので指示通りに乗りました。最初だけ気合をつけて、あとは馬なり。うまくいきました」

 そして、競馬場の独特のムードを察し、こう語った。「タイキシャトルシーキングザパールも凄い馬なんですが、その2頭に勝ったんですから、マイネルラヴだって凄い馬なんです」

 報道陣はうなずいた。ヒールでは決してない。これが世代交代というものだ。主役が交代するというのは、いつだって非情に映るのだ。

 3着に敗れてもタイキシャトルの引退式は予定通りに行われた。日がとっぷり暮れた後、藤沢和雄師はこう語った。「タイキシャトルはもう走りたくなかったんだ。いつかは闘争心を失う時が来ると思っていたが、今回だった。ファンには心から申し訳ないことをした」

 史上最強とうたわれた栗毛馬は、あっけなく敗れてターフを去った。競馬は非情だと感じた。だが、世代交代というものは、どの世界においても非情だ。それを目の前でこれだけ鮮やかに見せてくれる。競馬が持つドラマ性を存分に示した一戦だった。

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