静にして幽なり

2014年10月16日(木) 11:58


毎日王冠、エアソミュール武豊騎手の騎乗

「動揺を顔に表わさない」、自分がどんなピンチに陥っても平然とすべきと孫子は教えている。「静にして幽(ゆう)なり」とそのあるべき態度を示しているが、それは、静かで計り知れないほど奥が深くあれということに通じている。あたふたと動き回ったり、緊張しすぎてしまっては、相手に動揺を読み取られてしまう。冷静沈着であってこそ、好機をつかむことが可能になるということだ。

 毎日王冠で4頭の大接戦を制し重賞2勝目を挙げたエアソミュールは、気性の激しい馬。落ち着いた流れになっては苦しいが、武豊騎手は終始最内を走らせ、中段で落ち着かせているように見えた。急がず、むしろ位置取りを下げているようで、「静にして幽なり」を実践している様子にうかがえたのだった。この位置だから直線は前が壁になって進路がなかなか見つからない。そこへ好機が訪れる。

 冷静だから一瞬あいた隙間を見逃さず、馬も最後にもう一段の反応を見せひと伸びし、差し切ることができたのだった。鳴尾記念を勝ったときも、道中行きたがっていたが、騎乗していた戸崎騎手も、そのクセを承知していたので巧くなだめていた。「動揺を顔に表わさない」ことで人馬の気持が一体となる、競馬の何たるかを物語っている大事な要素がそこにある。一度、二度と成果を積み重ねたことで、馬自身の気持が成長していくとも考えられるし、周囲が願う完成された姿を見るのも夢ではないと、今後の中距離戦線に魅力ある存在になったのは間違いない。

 人馬一体の姿は、人馬の信頼し合う姿でもあり、あたふたせず冷静沈着でおられるのはそれがあるからだ。かつて、秋華賞を無傷の5連勝で勝ち二冠を達成したカワカミプリンセスは、オークスから中146日での出走にもかかわらず圧巻の末脚を披露した。速いペースの中、じっくり中段に構えていたが、パートナーの本田優騎手は「馬の力を信じて乗りました」とその心境を語っていた。エアソミュールとカワカミプリンセス、両馬の共通点は、気の強いところ、面白いですね。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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