高知競馬のしたたかさ

2015年01月23日(金) 18:00


◆変化によるメリットとデメリット

 普段の平日、事務所でデスクワーク(ほとんどが原稿書きですが)をしているとき、どこかの地方競馬が開催していれば、スカパー!の地方競馬ナイン(701〜703ch)や南関東地方競馬チャンネル(678ch)を見るでもなく垂れ流ししているのだが、今週、アレ?と違和感があったのが、火曜水曜に高知競馬の中継をやっていたことだった。

 高知競馬は、祝日などを除けば基本的には土日のナイター開催。ところがこの1月中旬から3月中旬までの9週間で、火曜日と水曜日の開催がそれぞれ7日ずつもある。

 高知競馬はしたたかだなあと思ったのが素直な感想。それはいかにしたら馬券の売上げを上げられるかという判断であり、同時に、よくこうした思い切った判断ができるものと感心もさせられた。

 高知競馬は、そもそもが2009年7月からの通年ナイター開催を打ち出したときが大英断で、その後2012年10月にはじまった地方競馬IPAT(JRA-PATでの地方競馬の発売)などによる広域発売の拡大にうまくつながった。ギャンブル的な言い方をすれば、いくつかの判断がことごとく“当たり続けた”ことで、廃止寸前からの現在の復活ともいうべき売上増があるといってもいいだろう。

 何が“したたか”かといえば、1月から3月中旬まで、南関東はすべて昼間開催となっているため、火曜水曜の南関東、東海、兵庫などの競馬が夕方に終了して以降の時間帯は、高知の独占開催となるのだ。いわば、馬券を買いたいファンを独り占めできるのだ。

 地方競馬の馬券の販路が拡大して以降の傾向として、ひとつの競馬場でしか開催が行われない日や時間帯は、そこの馬券がかなり売れるということがある。それが、馬券ファンの独り占めだ。

 たとえば昨年、4月から11月中旬まで、過去最長期間でのナイター開催となったばんえい競馬では、南関東が昼間開催(浦和または船橋)の月曜日の馬券が、ときに日曜日以上に売れるという現象が起きた。地方競馬IPATでの発売が行われていないばんえい競馬でもこれほどなのだから、地方競馬IPATでの発売があっての単独開催なら、なおさらのこと。

 高知のナイター開催では、通常の土日における地方競馬IPATの発売は、システムの都合から前半の5〜7レース(日によって異なる)までしか発売がされない。ところが火水のナイターなら最終レースまで発売されるということも大きなメリット。単純に、地方競馬IPATでの発売レース数が倍近くになるのだ。

 ただこうした思い切った臨機応変な日程や時間の調整にはデメリットもないわけではない。競馬場や場外発売所でしか馬券を買わないという層にとっては、ある程度決まった日(曜日)の決まった時間帯に競馬が開催されていないと、足を運びにくいということは考えられる。たとえば土日開催が基本の佐賀競馬でも、地方競馬IPATの発売可能時間や、他場の開催時間などとの兼ね合いから、日毎に第1レース、メインレース、最終レースの時間を調整しているのだが、そうしたことに対する不満を競馬場に来ているわりと年配のファンから聞いたことがある。現場ファンの足を遠のかせる原因になりかねないのだ。

 ただ競馬に限らず他の公営競技も含めて、馬券(車券、舟券)の発売はどんどんネット(電話も含めて)にシフトしているのは周知のとおりで、2014年(1〜12月)の地方競馬全体の発売総額ではネット発売の割合がついに50%を超えた。

 そもそも通年ナイター開催を打ち出した高知競馬とホッカイドウ競馬は、その時点で本場での馬券の売上げは切り捨てたも同然。実際に2014年の発売額では、ネット(電話)での発売額の占める割合が、高知で79.59%、門別で68.81%と、この2場は地方競馬の中でも突出している。時代の変化に対応した結果でもあり、また人口が密集していない地域で競馬(のみならず公営競技全体)が生き残るにはどうしたらいいかという、ひとつの結論を示しているといってもいいかもしれない。

 火曜水曜に開催を集中させた、この1〜3月の高知競馬の売上げが前年比でどれくらいアップするのか、また、高知ナイターでは1日の前半しか地方競馬IPATで発売できない週末に対して、全レース発売となる火曜水曜がどれくらい売れるのか。その結果を見るのが、ちょっと楽しみではある。

 ちなみに高知競馬は、ナイター開催になる前の2008年度には1日平均の売上げが4042万円余りまでに落ち込んでいたものが、2014年度(4〜12月の集計)には1億2611万円余りと、どん底の頃と比べると3倍以上の売上げを記録するまでになっている。

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斎藤修

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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