2015年02月11日(水) 12:00
その世代が初年度産駒となる新種牡馬がどんなタイプの産駒を出しているか、これを目の当たりにすることがセールに臨む上で常に大きなテーマの1つとなっているが、既に競走年齢に達した実馬たちを見ることが出来る2歳セールは、新種牡馬を自分自身の中でプロファイリングする上で、極めて大きなヒントを与えてくれる場所となる。
そして、新種牡馬の初年度産駒たちがマーケットでどのような評価を受けるか。
実は、昨年の北米における1歳市場で、ファーストクロップサイヤーの産駒たちは、事前の予測とはいささか異なる売れ行きを見せている。それだけに、今年の2歳市場における新種牡馬産駒の動向には、例年以上に大きな注目が集まっているのだ。
今年の2歳世代が初年度産駒となる新種牡馬がスタッドインした12年、最も種付け料が高かったのは10年の全米2歳牡馬チャンピオンのアンクルモー(父インディアンチャーリー)で、3万5千ドルでの供用だった。以下、G1メトロポリタンH(d8F)などG1・2勝のティズウェイ(父ティズナウ)が2万5千ドル、4歳時・5歳時と2年連続で芝チャンピオンとなったジオポンティ(父テイルオヴザキャット)が2万ドルで続き、ざっくりと言ってしまえば彼らがスタッドインの段階では評判の高かった期待の新種牡馬たちであった。
それでは、実際のマーケットにおける評価はどうだったかと言えば、14年の1歳市場における産駒の平均価格は、アンクルモーが10万8642ドルでフレッシュマンサイヤーとしては第2位、ティズウェイは8万1549ドルでフレッシュマンサイヤー第4位、ジオポンティは9万3348ドルでフレッシュマンサイヤー第3位と、それぞれ期待相応の評価を受けている。
それでは、14年の北米1歳市場で産駒の平均価格が最も高かった新種牡馬はと言えば、88頭が上場された中の73頭が、平均価格11万5712ドルで購買されたトラップショット(父タピット)であった。
G1パーソナルエンスンS勝ち馬ミスショップの4つ年下の半弟にあたるトラップショットは、生産者ホービューファームからのディスパーザルの1頭として09年のファシグティプトン・ミッドランティック2歳セールに上場され、ジョージ・ブッシュ・シニア大統領の時代に5年半にわたって財務省長官を務めた経歴を持つニコラス・ブラディ氏が85万ドルで購買している。この85万ドルという価格はこのセールの最高値であっただけでなく、メリーランド州のセールで購買された競走馬としての歴代最高値であった。
東海岸のキアラン・マクラフリン厩舎に入ったトラップショットは、2歳7月にサラトガのメイドンでデビューしたものの5着に敗れ、その後じっくりと立て直しを図られた後、3歳2月にフロリダ産馬限定メイドンで初勝利を挙げている。ここから快進撃がはじまり、この年4戦目となったモンマスパークの特別ロングビーチSまで4連勝を飾り、続いて出走したG1ハスケル招待Sでも、重賞初挑戦であったにもかかわらずルッキンアットラッキーの2着に健闘。セールにおける価格に相応しい素質の持ち主であることを証明している。
だが、1番人気で出走したG1トラヴァーズSは9着に大敗して3歳シーズンを終了。4歳時は短距離路線に転じ、6月にベルモントパークのG2トゥルーノースS(d6F)を制して待望の重賞初制覇。その後G1AGヴァンダービルトS(d6F)2着などの成績を残し、4歳一杯で現役を退いている。
それなりに高い能力を示した馬ではあったが、重賞実績はG2・1勝のみで、12年にクレイボーンファ−ムで種牡馬入りした際の種付け料は、ケンタッキー供用の新種牡馬としては「中の下」程度の1万ドルであった。
そのトラップショットの初年度産駒が、キーンランドセプテンバーにて60万ドルで購買された母ウィニングコールの牡馬を筆頭に、昨年の1歳市場で実に良く売れたのだ。
高額の種付け料が設定された期待の新種牡馬たちを上回るマーケットプライスがトラップショット産駒についた背景には、父タピットが今や北米生産界で頭抜けた存在となり、1歳馬の平均価格が60万ドル超という狂乱振りを見せている中、タピットの直仔には手が出ないと見た購買者の予算がトラップショット産駒に流れたという側面は、確かにあったようだ。だがそれにしても、タピットの後継種牡馬は他にもたくさん居ることを考えると、1歳市場に出回ったトラップショットの初年度産駒は出来が相当に良かったと見るべきであろう。
手元には、冒頭で記したバレッツ2歳セレクトセールと、3月4日に行なわれるファシグティプトン・フロリダ2歳セールのカタログは届いているが、トラップショット産駒はバレッツに1頭、ファシグティプトンに4頭エントリーしている。
トラップショット自身、2歳時は未勝利に終わっており、また馬体にも若干の重さが見られる馬だけに、素軽い動きが出来る個体がいるかどうかが、ポイントとなろう。
自身の戦績や馬体、更には父がタピットで母の父がプライヴェートアカウントという血統背景からも、産駒の活躍の舞台がダートに特化する確率は高そうである。
デビューから無敗でBCジュヴェナイルを制した2歳チャンピオンというアンクルモーの肩書は、マーケットにおける「売れ線」と言って良いもので、昨年の1歳市場における高評価も当然と言えよう。その父インディアンチャーリーも、2歳セールでミリオン越えを果す産駒を輩出したことのある種牡馬だけに、バレッツに5頭、ファシグティプトンに9頭エントリーしているアンクルモー産駒にも、大きな期待が寄せられている。
トップラインはカロからグレイソヴリンに至る系統だし、アンクルモーの母プレイヤマヤは芝の特別で入着実績があり、なおかつ母の父はロベルト系のアーチだから、この馬は配合次第で芝適性の高い産駒を出してもおかしくはなさそうである。
芝適性の高さで言えば、現役時代に芝で7つのG1を制しているジオポンティが、今年のフレッシュマンサイヤーの中では随一の存在と言えよう。デビューは2歳9月で、いきなりベルモントパークのメイドンとキーンランドの特別を連勝しているように、仕上がりも早かっただけに、産駒からも2歳戦から活躍する馬が出るはすだ。
ジオポンティに関して1つ気をつけたいのは、トップラインがストームキャットで、母の父がアリダー、なおかつレイズアネイティヴの3×4のインブリードを内包するという血統背景だ。配合表だけ見ればコテコテのダート血脈だけに、配合次第では父の適性に反してダート馬が出る確率も少なくなさそうだ。産駒はバレッツに2頭、ファシグティプトンに3頭上場予定だが、それぞれどんなタイプの個体なのか、じっくり吟味したいと思っている。
1歳市場における評価第4位のティズウェイは、重賞初制覇が5歳秋で、G1初制覇が6歳春という晩成型だっただけに、産駒の仕上がり具合が気になるところだ。バレッツのエントリーは2頭、ファシグティプトンのエントリーは1頭と少なく、育成場における調教の進捗度も早くはないのかもしれない。2歳セールに上場されるにしても、もう少し開催時季の遅い市場に出て来る産駒が多いのであろう。
配合的には、母の父に持つ欧州の快速馬デイジュールをいかに活かすかがポイントとなりそうだ。
配合表にはノーザンダンサーが随所に散りばめられており、父とは特性の異なる仔を出しても不思議ではないが、確率的に言うなら産駒は十中八九ダート馬であろう。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。
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