ケンタッキーダービーへ向け現れた新星

2015年03月04日(水) 12:00


通算4000勝を越えるカステラーノ騎手も「競馬に関わっているのは、こういう馬と出会うためなんだ!」と話した

 アメリカでは2月28日(金曜日)から3月1日(日曜日)にかけて、ケンタッキーダービー・フューチャーウェイジャー(前売り)のプール3が発売になった。

 1番人気は相変わらず、「その他の馬」が一括りにされた24番枠で、オッズは5倍。個別の馬では、昨年の全米2歳チャンピオンで、3月14日にオークローンパークで行われるG2レベルS(d8.5F)で今季のキャンペーンを始動予定のアメリカンフェイロー(牡3、父パイオニアオヴザナイル)がオッズ9倍で1番人気。G1ロスアラミトスフューチュリティ(d8.5F)を含めてデビューから4戦無敗のドルトムント(牡3、父ビッグブラウン)がオッズ10倍で2番人気となっている。

 ところが、である。先週末のアメリカで、ケンタッキーダービーへ向けた話題の中心にいたのは、アメリカンフェイローでもドルトムントでもなかった。

 筆者は2週間ほど前からアメリカに滞在しているのだが、関係者やファンが、「ひょっとすると今年のケンタッキーダービーを勝つのは、あの馬かもしれない」と、額を寄せ合っては噂をしているのが、2月24日にガルフストリームパークで行われたアロウワンス(=一般戦、d8F)を勝って2勝目を挙げたばかりのコーザン(牡3、父ディストーテッドヒューモア)だった。

 3つのG3を含む11勝を挙げたデルタプリンセスの6番仔にあたるコーザン。4つ年上の半姉に、連覇を果たしたG1BCレディースクラシックを含めて6つのG1を制し、3年連続でエクリプス賞牝馬チャンピオンの座に輝いたロイヤルデルタがいるという、超良血馬である。

 ちょうど1年前のファシグティプトン・フロリダ2歳セールに上場され、公開調教で1F=9秒8の最速時計をマーク。100万ドルというセール2番目の高値で、カタールの王族であるシェイク・ジョアンのアルシャカブ・レーシングに購買されている。

 トッド・プレッチャー厩舎に入った同馬のデビューは、1月24日にガルフストリームパークで行われたメイソン(d7F)で、コーザンは14頭立ての14番枠という不利を克服して3.3/4馬身差で快勝。走破時計の1分23秒63は、同じ日に同じコースで行われた3歳のG3ハッチスンSより0.76秒も速く、やはりこの馬は血統や価格に相応しい逸材であると話題となった。

 そして、そのコーザンの2戦目となったのが、2月24日の一般戦だった。スタートダッシュは鈍く、序盤は6頭立ての5番手につけた同馬だったが、まもなく好位にとりつくと、3コーナーで早くも先頭へ。直線に向くと、鞍上のハヴィーア・カステラーノが軽く手を動かしただけで後続を突き放し、2着馬に12.3/4馬身という大きな差をつけて2連勝を飾った。

 通算で4000勝を越える勝ち星を挙げているカステラーノ騎手がレース後、「競馬に関わっているのは、こういう馬と出会うためなんだ!」と話したように、経験豊かなベテランでも興奮を隠しきれない超絶パフォーマンスであった。

 コーザンの次走は、3月28日にガルフストリームパーク競馬場で行われるG1フロリダダービー(d9F)だ。言うまでもなく、コーザンにとって試金石となるのがこのレースで、次走も無事白星で通過するようだと、北米競馬サークルはいよいよ大騒ぎになること請け合いである。

 コーザンは、果たしてケンタッキーダービーまで突っ走ることが出来るのか!?

 ライバルは、同世代の相手馬たちだけではない。コーザンは、ケンタッキーダービーの歴史とも戦わなくてはならない状況に置かれている。3歳デビューでケンタッキーダービーを制した馬は、1882年のアポロ以来、132年にわたって現れていないのだ。

 トレーニング技術の進歩によって、「使いながら仕上げる」というアメリカ流の調教にも変化は出てきているものの、過去10年のケンタッキーダービー馬を例にとれば、全馬が遅くとも10月初旬までにはデビューを果たしている。

 更に、コーザンがフロリダダービーを首尾よく制したとして、次走のケンタッキーダービーは彼にとって4戦目の実戦となる。キャリア3戦の馬がケンタッキーダービーを制した例も、1915年のリグレット、2008年のビッグブラウンの、2つを数えるのみなのだ。

 管理するトッド・プレッチャーは、こうした過去の事例があることを承知の上で、コーザンを「前例を覆す可能性のある馬」と称賛し、ケンタッキーダービー制覇に自信をのぞかせている。

 まずは、3月28日のフロリダダービーに、皆さんもぜひご注目いただきたいと思う。

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 バレッツ2歳セレクトセールが終わり、1週間後のファシグティプトン・フロリダセールに向けて、カリフォルニアから移動してきたフロリダの、ガルフストリームパーク競馬場近くのホテルで、後藤浩輝さんの訃報に接した。

 いい歳をして人見知りをする筆者にとって、競馬場以外で交わりのあった数少ない騎手の一人が後藤さんだった。勝手な思い込みと笑われるかもしれないが、後藤さんがかつて修行時代を過ごしたフロリダで訃報を聞いたということに、何かの縁を感じた。

 その日の深夜、休止状態にしていたラップトップが突然点灯した時、律儀な後藤さんが挨拶に来てくれたのではないかと思った。いや、私に会うためだけに来てくれたのではないと思う。お世話になった人がたくさんいるフロリダにお別れに来たら、見知った日本人の顔があったので、立ち寄ってくれたのだろう。

 そのうち、向こうで会いましょう。合掌。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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