キタノタイショウが天下統一!ばんえい競馬新時代の幕開け

2015年04月14日(火) 18:00

大河原騎手とキタノタイショウ

大河原和雄騎手とキタノタイショウ


大河原和雄騎手「1歩1歩力強く進むばんばたちの雄姿を、ぜひたくさんの方に見て欲しいです!」

 3月24日に行われた、ばんえい競馬の大一番『ばんえい記念』。3度目の挑戦で悲願のタイトルを掴んだのが、キタノタイショウです! その名の通り“北の大将”となった今、王者の姿をコンビを組む大河原和雄騎手に語っていただきました。

赤見:ばんえい記念制覇、おめでとうございます! 本当にこのレースは特別で、見ていてものすごく感動しました!

大河原:ありがとうございます。やっぱり、年に一度の大一番で1トンのソリを曳きますから、我々にとっても馬たちにとっても、本当に特別なレースです。勝てて本当に嬉しかったですね。

赤見:1トンのソリを曳くというのは、やはり普段のレースとは全く違うのでしょうか?

大河原:全然違いますよ。馬の脚元の沈み方も普段より深く入っているから、1歩1歩の進み方が違います。それに、ソリの沈んでいる位置も違いますから、第2障害を越えて行く時の力の入り方も変わって来ます。1トンを曳いて障害を越えるというのは、相当な負荷ですよ。

 平地のサラブレッドは、4歳〜6歳くらいまでがピークですが、ばんばの場合はそこから鍛えて鍛えてピークを迎えます。キタノタイショウも7歳で初めてばんえい記念に出走したんですけど、どんなに力があっても若いうちに1トンを曳かせるのは怖いんですよ。筋肉や肺活量を鍛えて、たくさんの経験を積んで折れない心を養ってから、ばんえい記念に挑むんです。

赤見:だから、障害で何度躓いても、全馬あきらめずにゴールするんですね。

大河原:たまにあきらめちゃう馬もいますけど(笑)。今年も最後にゴールしたファーストスターは10分近く掛かってますから、僕だったらあきらめてたかもしれません。でも騎乗した西将太(騎手)は、何度も何度もファーストスターを鼓舞して、絶対にあきらめなかった。ファンの方々もずっと見守り続けてくれて、声援を送ってくれて…。最後の馬がゴールするのを待って拍手を送ってくれるなんて、ばんえい記念くらいでしょう。本当にすごいレースですよね。

赤見:ここ最近はばんえい競馬を引っ張って来た馬たちが一気に引退して(カネサブラック・ナリタボブサップ・ニシキダイジンなど)、次はキタノタイショウの時代だと言われて来た中で、このタイトルを獲ったことは本当に大きいですよね。

大河原:そうですね。去年は1番人気で迎えたばんえい記念でしたが、5着という結果でしたし、僕自身ケガで騎乗ができなくて...。自分のケガで周りに迷惑を掛けてしまったし、(乗り替わった)鈴木(恵介騎手)にも迷惑を掛けてしまいました。だから、今年勝てて本当にホッとしました。

 キタノタイショウとは長年コンビを組ませてもらって、若い頃から頑張ってくれていた馬で。ずっとばんえい記念を大目標にして来て、去年やっと手が届くところまで来たと思ったんですけど。僕も悔しかったけど、ファンの方も悔しかったと思います。ファンの多い馬ですからね。今回勝って、自分たちよりもファンの方の方が泣いていましたよ。東京や神奈川からも駆け付けてくれたファンがいて…、本当に有難いことです。

赤見:レースを振り返っていただきたいんですけれども、第2障害の手前までは先頭でたどり着いて、そこからかなりタメましたね。

キタノタイショウ(左)

大河原騎手の激励に応えるばんえい記念でのキタノタイショウ(左)

大河原:普通の重賞と違って、第2障害を一気に越える馬はいませんから、慌てなくても大丈夫だと心の中で思っていました。いっせいに仕掛け出して、外のフジダイビクトリーが上がって、ニュータカラコマとインフィニティーが上がって。自分が第2障害を下りた時には、インフィニティーとニュータカラコマはいい脚で進んでいました。その様子を見ながら、「どこでギアチェンジしようか」と思っていて。手応えは楽ではないけれど、どこでもギアチェンジ出来る力は残っていました。ただ、余力が無くなると止まってしまうし、そうなったら1トンを曳いている分、盛り返すのが難しい。「まだ早い、まだ早い」と自分に言い聞かせていました。直線で2回目に止まった時に、フルパワーで追い出したんです。そこからゴールまでしっかりと歩いてくれました。

赤見:ファンの方からのすごい声援がありましたけど、聞こえてましたか?

大河原:聞こえますよ。本当に有難いですよね。レースに乗ってて、本当に楽しかったです。

赤見:これでキタノタイショウはばんえい競馬の頂点に立ちましたね。

大河原:まさに名前の通り、北の大将になりましたね(笑)。でもこの馬は普段は臆病なんですよ。何かあると、自分の馬房から出てこなくなっちゃうから。調教が終わってからも、早く自分の部屋に帰りたくて仕方ないんですよね。本当に繊細な馬で、小さいことを気にしちゃうんですよ。でも、そういう部分も含めてすごく頭のいい馬で、いろいろなことを理解しているんです。

赤見:18日から新たなシーズンが開幕しますけれども、キタノタイショウの様子はいかがですか?

大河原:レース後も大きな疲れはなくて、今はリラックスして過ごしていますよ。チャンピオンになったという自覚はまだないみたい。お腹空いた〜という感じで(笑)。食欲旺盛なので、特に心配はないと思います。次は26日の『ばんえい十勝オッズパーク杯』を見据えて、体調と相談しながら調整していきます。

ばんえい記念の口取り風景

ばんえい記念の口取り風景

赤見:これからは北の大将として負けられない存在になりましたね。

大河原:本当にその通りですね。強くて当たり前だし、負けたら「なぜ負けた?」ってなりますから。僕よりもスタッフの方が大変だと思いますよ。でもうちのスタッフは馬のことを一番に考えるから大丈夫でしょう。こちらは馬の体調さえ整えてあげれば、人気は周りが付けてくれるものですし。

赤見:では、ファンのみなさんにメッセージをお願いします。

大河原:ファンの方の応援が本当に励みになっています。いつも応援ありがとうございます。ばんえい競馬は平地のスピード競馬とは違い、“荷物を運ぶ”力自慢の馬たちが競い合って始まった競馬です。馬の鼻先ではなく、ソリのお尻が入り切ったところがゴールになるので、ゴール線上でも抜いた抜かれたがあるんです。1歩1歩力強く進むばんばたちの雄姿を、ぜひたくさんの方に見て欲しいです!

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常石勝義

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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