収まるどころか益々加熱しつつあるアメリカンフェイロー・フィーバー

2015年06月17日(水) 12:00


アメリカンフェイローは年内引退が既定路線。ファンにとっての関心は3冠馬がいつ、どこで走るかにある

 37年ぶり史上12頭目の3冠馬となったアメリカンフェイロー(牡3)を巡る喧騒が、収まるどころか益々加熱しつつある。

 ベルモントSの翌朝には、NBCネットワークの朝の情報番組「TODAY」に、バファート調教師、エスピノーザ騎手らとともにアメリカンフェイローも出演。カメラに向かって愛嬌をふりまいている。

 その日の午後には、4月半ばから拠点としてきたケンタッキー州のチャーチルダウンズ競馬場に移動したのだが、同馬の到着を100人を超える関係者や報道陣が待ち受けたという。アメリカンフェイローは13日(土曜日)に当地にて行われたナイター開催で、ファンの前をパレード。メイン競走のG1スティーヴンフォスターSのゴール前に負けない大歓声を浴びた。

 一方、9日(火曜日)には、大リーグのドジャーズ対ダイヤモンドバックス戦が行われたドジャースタジアムに、バファート調教師が登場。子息のボディ君(10歳)とともにマウンドに上がり、始球式を行っている。そしてアメリカンフェイローは更に、ベルモントSの翌週に発売された「スポーツイラストレイテッド誌」の表紙に登場。そればかりか、ファッション誌「ヴォーグ」最新号の表紙も飾るなど、完全に社会現象化している。

 アメリカンフェイローの種牡馬としての権利は、既にクールモアグループが取得済みで、同馬は年内での引退が既定路線となっている。すなわち、ファンが彼のレースを見るチャンスは、多くてもあと4回と言われているのだ。彼が走る日の競馬場は、さぞかし大変な騒ぎになるだろうが、ファンにとっての関心は言うまでもなく、3冠馬がいつ、どこで走るか、にある。

 陣営は、秋の大目標が10月31日にキーンランド競馬場で行われるG1BCクラシック(d10F)であると明言。そこに至るまでのローテーションは、今後の馬の状態を見て決めていきたいとしている。

 トップクラスの3歳馬の常道を行くなら、次走は8月1日にサラトガで行われるG2ジムダンディS(d9F)か、8月2日にモンマスパークで行われるG1ハスケル招待(d9F)になる。このうちハスケルは、01年以降昨年までの14年間で、バファート調教師がレース史上最多となる7勝を挙げている、極めて相性の良いレースだ。総賞金も、ジムダンディの60万ドルに対しハスケルは100万ドルと高額なこともあり、ここはハスケル招待に廻る公算大と見られている。

 その後は、これも王道を行くなら、8月29日にサラトガで行われる「真夏のダービー」G1トラヴァーズS(d10F)となる。

 その一方で、アメリカンフェイローの本拠地である西海岸のデルマーで、8月22日に組まれているのがG1パシフィッククラシック(d10F)だ。総賞金は、トラヴァーズが125万ドルで、パシフィッククラシックが100万ドル。相手関係は、トラヴァーズが3歳限定で、パシフィッククラシックに向かうと古馬との初顔合わせになるという、条件だけを見るとロジカルな選択肢はトラヴァーズになるのだが、しかし西海岸のホースマンにとって、パシフィッククラシックは特別な意味を持つレースだ。陣営も、どちらを選ぶべきか、頭を悩ませる局面となりそうである。

 トラヴァーズを使ったとして、BCクラシックまで9週、パシフィッククラシックからだとBCまで10週あるから、普通ならここでもう1戦挟むところだ。西海岸を拠点にBCクラシックを目指す馬たちにとって、最も一般的な前哨戦は、9月26日(現段階で開催日未発表)にサンタアニタで行われるG1オウサムアゲインS(d9F)となる。

 ここまで記したのが、いわば通常のローテーションなのだが、こうしたスターホースが出現すると、これを誘致したい競馬場同士の争奪戦が激化するという、アメリカではお馴染みの光景が、すでに展開している。

 例えば、9月19日にG2ペンシルヴェニアダービー(d9F)を行う、ペンシルヴェニア州のパークス競馬場は、既にして総賞金100万ドルという高額がかかったこのレースにアメリカンフェイローを呼ぶべく、「出走手当の増額」というオファーを出している。このレースにはもともと、ケンタッキーダービー、プリークネスS、ベルモントS、ハスケル招待、トラヴァーズSのいずれかを勝っている馬が出走した場合、出走するだけで10万ドルの出走手当を出すことを競走規定に謳っているのだが、アメリカンフェイローが出走してくれるなら、30万ドル、もしくは40万ドルの手当を出す用意があると、アメリカンフェイローの関係者に持ちかけているのである。

 あるいは、トラヴァーズSの対抗馬となっている前出のG1パシフィッククラシックを開催するデルマー競馬場も、アメリカンフェイローが出走するなら「賞金を増額する用意がある」と表明。

 そして、アメリカンフェイローが来てくれるなら、レース条件を変えると表明したのが、ミネソタ州のカンターバリー競馬場だ。8月29日に組まれている、総賞金20万ドルの芝8ハロンの条件戦ミスティックレイクダービーを、ダート9ハロン戦にし、賞金も10倍の200万ドルにすると発表したのである。更に、アメリカンフェイロー陣営が望むなら、レースの日付けを変えてもよいとまで明言しているのだ。今や国民的英雄となった3冠馬が出走してくれれば、観客は激増するであろうし、放映権も高騰するであろうから、200万ドルを拠出しても充分に利益が出るとの計算が、競馬場側にあることは間違いない。

 アメリカンフェイローの今後のローテーションがどのようになるのか、陣営の決断が待たれるところである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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