札幌で「モレイラ祭り」開催

2015年09月05日(土) 12:00


 グリーンチャンネルのプロデューサー、ソブさんからメールが来た。標記はなく、本文は「ご覧ください」のひと言だけ。その下にリンクが貼り付けてある。

 普通、この手の短文メールは、悪い報せであることが多い。いろいろ書こうとすると感情が噴出してしまうので、差出人が自らを抑えるために手短に済ませている、というパターンだ。

 ――何だろう。紹介したゲストが「島田が来るなら出ない」と言ったとか……。

 特に思い当たることのないままリンクをクリックした。

 すると、「NHKオンライン静岡放送局」のサイトが表示された。「富士山写真コンクール」の「平成27年度入賞作品」というページだ。四季それぞれの入選作と撮影者が紹介されているそのページの「春」の「準特選」にソブさんの名前があった。作品名は「早春の稜線の先に」。

 いい報せだった。すぐに祝福メールを送った。

 ソブさんは富士山の撮影を趣味というよりライフワークにしている。仲間と泊まった山小屋で大イビキをかき、「絞め殺そうかと思った」とまで言われながら通い詰めた甲斐があったというものだ。

 そのサイトには特選の作品しか掲載されていないが、おそらく来年のソブさんからの年賀状で、そこにプリントされた入選作を見ることができる。

 ――それはそうと、ソブさん、早くイビキ外来に行ってください。

 正月の話があまり先のことに感じられないのは、札幌にいるからだろうか。

 今、手元に「平成27年度 福祉除雪事業のご案内」という札幌市発行のパンフレットがある。申込期間は9月1日から10月5日。Tシャツで過ごしているときから雪への備えをするのは北国ならではだ。

 私は、ワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)の2日目が行われた8月30日に札幌に来た。

 その週末の札幌競馬場は「モレイラ祭り」だったと言えるほど、香港から招待されたジョアン・モレイラ騎手が勝ちまくった。土曜日に3勝し、日曜日に4勝。WASJの優勝賞金300万円を含めて2日間で917万3000円を稼いだというから、たいしたものだ。

 ブラジル出身の31歳。母国で17歳になる年にデビューし、9年間で1000勝以上挙げたあと、2009年4月にシンガポールへ。翌10年から4年連続でリーディングとなり、12年にはシーズン記録の206勝を達成。13年秋に香港に移籍し、14/15シーズンに145勝という、従来の114勝を大幅に更新する最多勝記録を樹立した。

 競馬場で配布されたパンフレットに「マジックマン」と紹介されているが、まさにそのとおりだった。日曜日の8レースでは、3番人気のアルバートに騎乗。勝負どころで内埒沿いから追い上げ、直線で馬場の真ん中に持ち出し、最後は流すようにして2着を2馬身半突き放したときは、場内がどよめいた。

「札幌競馬場に神降臨」という声まで聴こえてきた。

 彼がかつて主戦場としていたと思われるブラジルのサンパウロ競馬場は、私が行った十数年前から変わっていなければ、アメリカと同じく左回りで、ダートが外側にある。騎手の乗り方も、鐙を短くして馬の首に貼りつくようにするアメリカンスタイルだ。

 日本の競馬場でアメリカンスタイルの外国人騎手がこれだけ勝ちまくるのを見たのは久しぶり……いや、初めてかもしれない。

 彼がシンガポールに騎乗ベースを移したころ(もう少しあとでもいいが)、もし短期免許を取得して来日していたら、どうなっていただろう。ヨーロピアンスタイルのクリストフ・スミヨン騎手やライアン・ムーア騎手と互角かそれ以上の成績を挙げていたら、日本のホースマンの騎手(のスタイル)に対する評価は、今とはかなり変わっていたかもしれない。

 さて、今年の北海道シリーズに関して、興味深い記事が『スポーツ報知』に載っていた。

 椎名竜大記者が書いたその記事によると、今年は関東馬の活躍が目立ち、8月30日の開催終了時点で136勝と、関西馬の129勝をリードしている。1988年以来、27年ぶりに関東馬が勝ち越すかもしれないのだ。重賞も、ディサイファの札幌記念をはじめ関東馬が4勝、関西馬は3勝。全体の獲得賞金ではわずかに西に劣っているが、「西高東低」のパワーバランスが、この夏の北海道では、確かに変わりつつある。

 その結末を見届けるためにも、今週末、また札幌競馬場に行こうと思っている。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。

関連サイト:島田明宏Web事務所

関連情報

新着コラム

コラムを探す