熱き男、小島茂之調教師の挑戦

2015年09月29日(火) 18:00

小島茂之調教師

小島茂之調教師(撮影:佐々木 祥恵)


小島茂之調教師「(ロードクエストは)本当に余計なものがない軽さ、だから動けちゃうんだろうなと思いますね」

赤見:まずはロードクエストでの新潟2歳S制覇、おめでとうございます。今の心境はいかがですか?

小島:ありがとうございます。どういう表現が合っているのかわからないけど、とにかくおっかないです。普通にやってあれだけ走っちゃうわけだから、ちゃんと道を真っ直ぐにして進めてあげないと。それって簡単なようで簡単じゃないですから。すっごく嬉しいけど、ある種の怖さも感じます。

赤見:ロードクエストはどんなご縁で預かることになったんですか?

小島:ロードさんから預けてもらう2世代目なんです。3歳のロードメタリックという馬を初めて預けていただいて、そこからですね。ロードクエストに関しては、「セリで買った馬がいるのでみて下さい」って言ってもらって、ちょうどマツリダゴッホがちょこちょこと走ってた時期だったし、血統的にもいいなと思いました。僕、先物的な種馬が好きなんです。もしもうちがものすごい成績をあげている厩舎だったら、来るのはディープインパクトなわけですよ。でもこれくらいの成績だからゴッホが来て、ロードクエストにも巡り合えた。そういうのも面白いなと思っています。一生懸命やっていれば、どこかでチャンスが巡って来ると思っているので。

赤見:ロードクエストの印象はどんな感じでした?

小島:特別マイナス要素は何もなかったですね。父マツリダゴッホで母マツリダワルツ、母父チーフベアハートでしょ。だから、うるさくならないように気を付けなくちゃなっていうことくらいでした。でも全然うるさくならなかったので、デビューまで順調に調教することができました。もしかしてすごい馬かも? っていう話はチラッとしましたけど、本当に思ったのは新馬戦です。勝ったなと思ったのは4コーナーの辺りで、時計見たらやっぱりすごいなって。

赤見:そして2戦目の新潟2歳Sがあの勝ち方ですもんね。

小島:本当に有難いことですね。ああいうのは俺らが何したっていう話ではないですから。だってラスト32秒台で走るように調教やろうって思っても、やってできるものじゃないじゃないですか。

赤見:他の馬と何が違うんでしょうか?顔の形にかなり特徴があるとお聞きしましたけれども。

小島:そうなんですよ。顔の真ん中が大きく窪んでいるんです。F1のレーシングカーや新幹線みたいな感じで。うちの連中が「空気抵抗が少ないから速いんじゃないか」って話をしてましたけど(笑)。デビュー前に言っていたのは、体に無駄がないってことですね。例えばブライトエンブレムやその下のアストラエンブレムはエンジンもボディもしっかりしている感じ。でもあの仔の場合はエンジンはいいんだろうなと思うけど、ボディが軽いんです。本当に余計なものがない軽さ、だから動けちゃうんだろうなと思いますね。

赤見:この先に繋がるいいレースをしてくれて、夢が広がりましたね。

小島:とにかく舞い上がらないで普段通りにと思っています。他の馬もそうですけど、走り出した時に変わらないようにやるってことが難しいんですよね。みんなどうしても舞い上がっちゃうから、そこを普通にやっていければ。育てている過程で修正しなきゃいけない馬とか、いろいろ直していかないといけない馬って多いんですけど、この仔の場合はそういう部分がないので、丁寧に普段通りのことをやっていければと思います。

ロードクエスト

今後について「丁寧に普段通りのことをやっていければ」と語ったロードクエスト(写真は新潟2歳S 撮影:下野 雄規)

赤見:比べるのは難しいかもしれませんが、ブライトエンブレムの方が難しいですか?

小島:放牧から帰って来たらだいぶおとなしくなってましたけど、ブライトエンブレムが2歳だった頃は難しかった部分もありました。あの血統はゲートがうるさいので、そこは気を使ってましたね。ブラックエンブレム(ブライトエンブレム、アストラエンブレムの母)の血統は想像がつくけど、ロードクエストの血統はまだわからなくて。マツリダゴッホの仔を預かるのも初めてだし、手さぐりの面もありますね。

赤見:小島茂之厩舎といえば、渋い血統で走るイメージです。

小島:そう言われるのは嬉しいです。もちろん、この仕事をしている以上は人気になる馬をやらせてもらってそこで勝ちたいなっていう気持ちはあるけど、でもどういう人気であれ勝てればね。なんだかわかんないけど勝っちゃったというのは違うけど、勝とうと思っていろいろしている中で勝つのならば、それはそれでいいと思っています。ロードクエストは日高の馬ですから、この仔の活躍で日高の人たちに少しでも喜んでもらえたら嬉しいです。

赤見:数少ないウォーエンブレムの血統で結果を出しますよね。何か特別なものがあるのでしょうか?

小島:特別なことはないですけど、こういう種牡馬は珍しいですよね。種付けする牝馬も本能的に選ぶみたいですし、数少ない子供たちがしっかりと活躍していて。僕は本当にお世話になったと思っているので、もうすぐアメリカに帰ると聞いて、お礼を言いたくて会いに行ったんです。ウォーエンブレムの子供たちをやらせてもらえたことは、僕の運だと思っています。

赤見:調教師として、核になっている想いはなんですか?

小島:助手の時から思ってたのは、POGの本を見ると他所の馬たちがズラリと並んでいるわけですよ。血統のいいすごいエリートたちがいっぱいで。それを見ると「今年勝てるんだろうか…」って思うわけです。そういう馬に勝つために何をすればいいんだろうって考えた時に、例えばエリートたちが真っ直ぐ走らない、口向きが悪いということがあったとして、少しでも操縦性を良くすることで補えるんじゃないかと。ほんのちょっとのことが大きな差になるので、とにかく丁寧にケアして丁寧に調教するしかないっていうことですね。1頭1頭の馬を走らせるのが一番だし、走らせられなくても馬に対して失礼のないようにやっていれば、きっとそのうちいいことがあるよと思ってやってきて、今ロードクエストが出て来てくれたっていう。やっぱり思ってたことは間違いじゃなかったなと。でも調子に乗ってるとバチが当たるから、そこは気を付けます。

赤見:本当に謙虚な姿勢ですね。

小島:こうやって馬が走っちゃうと、自分が何かした気になってしまうけど、実はそうじゃなくて、何かのサポートはできたかもしれないけれど、走っているのは馬ですから。うちのスタッフも、その気持ちはわかってきているかなと思います。厩務員さんには任せてますけど、乗る方に関してはまだ僕も乗っていたいという気持ちが強いです。ただ乗るのは簡単だけど、同じ15-15でも何十種類もあるんだよっていう、15で行けっていってもその中身が重要なので。その部分を理解することも難しいし、理解したからといって実際にその通りに乗ることも難しい。僕は今も調教に乗ってますけど、自分も未だに勉強しているし、自分が蓄積したものをうちのスタッフにもわかって欲しいと思っています。上手に乗ったからって競馬で走るとは限らないし、下手くそに乗ったからって走る時もある、確実な正解がない世界じゃないですか。だからこそ、毎日の積み重ねが大事なんだと思っています。

ブライトエンブレム

「2歳だった頃は難しかった部分もあった」と語るブライトエンブレム(撮影:佐々木 祥恵)

赤見:調教、追い切り、と一言でいってもいろいろなパターンがありますもんね。

小島:例えば今日の併せ追い切りの時も、後ろから来て並ぶ時に急いでしまうんです。馬は素直だからそうすると並ぶ時に急ぐようになってしまう。一気にエンジンを吹かしたらガス欠してしまうんです。ジョッキーがレースでやりたくても、調教でやってなかったらできないですから。バーっと一気に走り出したらそのバランスのままで走ってしまうので、「ここは慌てないで、態勢を整えてからだよ」っていう、ギアチェンジができることを教えていかないと。うちのスタッフは本当に頑張ってくれているし、だいぶ理解してくれていますね。

赤見:今後の目標は?

小島:GIを勝ちたいです。自分が何のためにやってるかって言ったらGIのためですね。そのためには1頭1頭丁寧にやっていくしかないんですけど。クィーンスプマンテなんてその結晶だと思ってますし、すべて日々の蓄積ですよね。その中で、ダービーっていうのは特別なんだってここ2、3年思います。橋口弘次郎先生が毎年毎年ダービーのために戦っているっていう姿を見て、僕も最近実感してきました。まだダービーには出したことがないんですよ。ブライトエンブレムで弥生賞2着だった時に、「これでダービーに出られる!」と思ったんですけど結局出られなくて…。ダービーに対してもっと強い気持ちを持たないと出すことはできないんだなって思いました。また来年夢を見られるような馬たちが来てくれたので、舞い上がらず普段通りに進んでいきたいと思います。

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常石勝義

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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