2016年03月26日(土) 12:00
先日、1泊2日で福島県相馬市と南相馬市に行ってきた。去年の相馬野馬追以来だから、ほぼ8カ月ぶりということになる。
相馬中村神社の境内にある厩舎には、馴染みのある引退馬の新顔が数頭いた。
その1頭が、2009年のカペラステークスを勝つなど、ダートの短距離で活躍したミリオンディスクだ。引退後、種牡馬となったが、4世代の産駒を残したのち、ここに来た。
ミリオンディスク。セン12歳。父アフリート、母の父トニービン。
斜め向かいの馬房には、10年の中山大障害を勝ったバシケーンがいる。相馬中村神社禰宜の田代麻紗美さんによると、人気があるので、今もたくさんの人が訪ねてくるという。
バシケーン。セン11歳。父シルクジャスティス、母の父ロドリゴデトリアーノ
南相馬の高速インターからほど近い仲山トレーニングセンターでは、02年のきさらぎ賞、06年の小倉大賞典を勝ったメジロマイヤー、02年のダービー卿チャレンジトロフィーを勝ったグラスワールド、03、04年のエプソムカップを連覇し、04年の新潟大賞典を勝ったマイネルアムンゼン、01年の帝王賞を制したマキバスナイパーなど、名の知られた元競走馬が、のんびり過ごしている。
そのうち、グラスワールドとメジロマイヤーは、11年8月、日高町が公費で被災馬を受け入れた9頭のなかにいた。南相馬から豊郷の法理牧場に来た9頭が馬運車から降りるところを、私は取材していた。着地検査として、家畜保険衛生所によるスクリーニング(放射線量検査)を受けていたあのときより、我が家に戻った今は、グラスもメジロも、ずいぶんリラックスしている。
手前がグラスワールド(セン20歳、父ラーイ)、奥がメジロマイヤー(牡17歳、父サクラバクシンオー)。
マイネルアムンゼンは、震災が起きた11年、縮小開催された野馬追で、総大将をつとめた相馬氏第34代、相馬行胤さんが甲冑行列で騎乗した馬だ。また、筆者の友人でもある小高郷の騎馬武者、蒔田保夫さんもこの馬で野馬追に出場したことがある。別のイベントで、俳優の千葉真一さんを振り落としそうになったという武勇伝も持つツワモノだ。
マイネルアムンゼン(セン17歳、父ペンタイア)と、仲山トレセンを管理する佐藤徳さん。
国道6号線沿いの松浦ライディングセンターでも、現役時代をよく知っている馬に会った。10年のラジオNIKKEI杯で3着、11年の毎日杯とNHKマイルカップで2着になるなど活躍したコティリオンである。
コティリオン。セン8歳。父ディープインパクト。母の父トニービン。
コティリオンは、放牧地の外にいる人間が移動すると、それに合わせて自分も歩いたりと、とても人懐っこい。
去年の野馬追に出場しているという噂を聞き、現在のオーナーである只野和章さんに声をかけたのだが、屈腱炎のため出場を見合わせたとのことで、そのときは会えなかった。
まさか、以前から親しくさせてもらっている松浦さんのところにいるとは思っていなかったので、意外性のある、嬉しい再会だった。
また、仲山トレセンを管理する佐藤徳さんに案内された牧場では、中間種の出産に立ち会うことができた。
生まれたばかりの仔馬。四白流星の可愛らしい男の子だ。
最後に、競走馬とは直接関係ない写真をひとつ。津波に耐えて残った、南相馬かしまの「奇跡の一本松」だ。
負けない。命ある限り生き抜く。近くに立つと、そんな強い思いが伝わってくるかのようだった。
海沿いの松林で一本だけ生き残った「奇跡の一本松」。
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島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。 関連サイト:島田明宏Web事務所
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