【的場文男騎手SP】大井の帝王に質問!(3)『あの頃は雲のように乗っていた』

2016年04月18日(月) 12:01

おじゃ馬します!

▲昨年の東京ダービー、パーティメーカー騎乗で惜しくも2着(撮影:高橋正和)

20日(水)、南関クラシックの一冠目・羽田盃が、大井競馬場で行われます(的場騎手はアンサンブルライフに騎乗予定)。東京ダービー、JDDへ続く大事な一戦。その東京ダービー、的場騎手は2着が9回あるものの、勝利はまだ手にできていません。「帝王賞は3回も勝ってるのにね」と苦笑いの的場騎手。今回はダービーへの思いと、ベテランの騎乗論についてお聞きします。「雲のように乗っていた」、この言葉の真意とは。(取材:赤見千尋)


(前回のつづき)

あんな乗り方ができたら、勝つわけだよ

赤見 今回は的場騎手の“技”を探っていきたいと思います。

『今でもルーキーだった頃の騎乗を思い出しますか? また、その時と今とで変わったこと、変わっていないことは何ですか? (みゅうげさん・女性)』

赤見 的場騎手と言えば、あのパワフルな追い込みですが、新人の頃からあの乗り方だったんですか?

的場 新人の頃はもうちょっときれいに乗ってたと思いますよ。今は暴れてますから(笑)。

赤見 いや、今でもカッコイイですし、的場騎手が追い込んでくると場内が沸きます。

的場 いやいやいや。まあ、今の自分にやれるだけのことは、やってるつもりですけどね。ルーキーというか、一番いい頃は半端じゃなかった。馬に負担をかけないで乗れてましたよ。前重心で引っ張りもせず、馬の口角に一番気持ちいい感じでハミをあてて。赤見さんは何年競馬に乗られました?

赤見 7年です。

的場 あぁ、それならわかるでしょう。馬の口へのあたり、あれって難しいですよね? ただあてるだけだと、馬がファーっとなってしまう。あの頃はそういうのが全くなくて、「この馬、俺が乗ってると楽だろうな」って、そんな乗り方が出来てました。“ふわ〜”っと、雲みたいに乗ってましたもんね。

おじゃ馬します!

▲「雲みたいに乗っていた」そんな騎乗姿勢を再現

赤見 雲みたいに乗ってるって、いい表現ですね。それこそ人馬一体というか。

的場 うん、人馬一体というやつかな。スーッと乗って、前の馬との間隔もすごくよかったしね。馬も道中楽に走れるから、直線でビューっと伸びる。そりゃあバンバン勝つわけだよ! 雲みたいに乗れちゃうんだもん。

赤見 今でも的場騎手が乗ると、馬がよく動くと思います。

的場 いや、あまり気持ちよく走らせてないよなという感じはしてますね。一番いい頃は、レールの上をピューッと走るような、そんな乗り方が出来てましたもん。自分でも「何でこんな乗り方が出来るのかな」って。自分の思う通りに馬が動いたし、自分にしか出来ないという自負もあった。騎手として一番いい時代だったんでしょうね。あの頃はすごかった!

なぜ、返し馬が重要なのか

赤見 続いては、返し馬についての質問です。

『いつも返し馬を最後まで丁寧に行うのはなぜですか? 競馬を見始めた20年前から変わらず、尊敬しています (まーさんさん・男性)』

的場 返し馬については、新人の時は全然違う考えだったんですよ。返し馬をすると疲れちゃう、レース前は疲れさせない方が絶対にいいんだ! って信じていたんだけど、とんでもない…。返し馬をやり出して、勝つようになったんです。あのね、馬っていうのは、馬小屋に入ってるときはゼロの状態なんです。

赤見 ゼロの状態。まだ動いてない状態?

的場 そう。厩務員さんが出して、装鞍所まで歩かせて、そこでジワジワほぐれる。でも、ちょっと歩いたぐらいでは、心肺機能って準備できてないんです。返し馬でのウォーミングアップによって筋肉がほぐれて、ようやく心肺機能も高まってくる、そう思っています。

赤見 返し馬で走るのは、疲れるわけではなく、ほどよい準備運動になるんですね。

的場 もちろん、疲れさせるほどやったらだめですよ。200mでも全力で走ると疲れちゃいますから。強い返し馬は、僕はやらないです。最初はキャンターからで、筋肉を温めて、心肺機能を高めて、ベストの状態でゲートの後ろに持って行くという流れです。

おじゃ馬します!

▲ファンの皆さんも見ていた丁寧な返し馬、その理由が明らかに

赤見 返し馬について、こういう質問もいただきました。

『的場さんが返し馬で2周すると穴でもよく馬券にからんだりしていますが、やっぱり返し馬で2周する馬は強いですか? そして自信があったりするときに2周するのでしょうか? (マスミさん・男性)』

的場 違う違う(笑)。ほら、ゾウとかウシみたいな馬っているでしょう? パドックからカッカッしているような馬は、その時点でだいぶ筋肉も心肺機能も出来てきている。ところが、のっそのっそ気合のない馬は、返し馬をしっかりしておかないといけないから。じっくりほぐして、全能力を出してやろうと思っているんですよ。

赤見 そういう理由だったんですね。私も1つ質問させてもらってもいいですか? 的場騎手は鉛を自分自身の腰に巻いているじゃないですか。鞍下に鉛を入れて馬の背中に乗せる騎手が多い中で、どうしてなのかなって気になっていて。

おじゃ馬します!

▲専用のベルトに鉛を入れていき(撮影:赤見千尋)

おじゃ馬します!

▲そのベルトを腰に巻きつける(撮影:赤見千尋)

的場 あれはね、馬に負担をかけたくないからです。鞍につけるより自分で背負った方が、馬が楽なんじゃないかなって。

赤見 肉体的には大変じゃないですか? 1回真似したことがあるんですけど…

的場 どのくらい付けました?

赤見 500グラムです。それでモンキーの姿勢で乗ってみたんですけど、バランスが取れなくて。的場騎手はもっと付けていますよね?

的場 だいたい1キロ。2キロぐらいまでは平気ですよ。慣れですね。ただ、鉛をチョッキに入れるのはダメだった。アラブのオープンで60キロ以上背負わされた時に、チョッキを着たの。4キロぐらいだったけど、動けなかった。あれはダメだわ。腰のバンドはいいですよ。あれなら全然平気!

「今年が最後のダービー」の覚悟で

赤見 ちょっと話題を変えまして、クラシック戦線も始まり、今年も「東京ダービー」を感じる時期になってきました。ダービーに関する質問もたくさん届いています。

『東京ダービーを勝ててない的場騎手ですが、一番悔しかったレース(ダービー)はなんでしょうか? (まぐぽんさん・男性)』

的場 2着9回だからねぇ。今年で10回目、やっちゃいますか(笑)。

赤見 いやいや! みなさん、的場騎手に勝ってほしいと思っています。今年の乗り馬はこれから決まっていくと思いますが、過去の東京ダービーで悔しかったレースといいますと?

的場 一番悔しかったのは、シナノデービス(1987年)。羽田盃まで無敗の5連勝でね。ダービーは2着だったんですけど、勝ったジヨージレツクスという馬は、僕が乗ってた馬だったんです。それだけに悔しかった。

 その次は、5着だったけどブルーファミリーという馬ね(1993年)。この馬も羽田盃までは負け知らずの7連勝で、ダービーは1番人気。「この馬なら勝てるだろう」って思ってました。当時「外枠希望」ってできたんです。

赤見 枠順の希望が出せたんですか!?

的場 そうそう。昔のダービーって2400mで(1999年から2000m)、大きなカーブがあるので調教師はだいたい外枠を希望するんです。でも僕は、普通の枠じゃないと勝てないと思っていた。それは調教師にも伝えたんです。「負けたら俺が責任を取るから」って調教師が腹をくくって、結局14頭立ての14番目になってね。

赤見 大きなレースを勝つときは、全てがかみ合うって言いますもんね。的場騎手自身、「東京ダービー」にかける思いというのは?

的場 それはすごくあります。毎年毎年、一戦一戦。

赤見 去年のパーティメーカー(2着)も、ものすごい伸び脚で、場内がすごい沸き方をしました。

おじゃ馬します!

▲昨年の東京ダービー、ものすごい伸び脚に場内から大歓声(撮影:高橋正和)

的場 あぁ、そうですか。今年も沸かせます! ダービーというのは、一番思い出の多いレースでもありますね。勝ってないから、余計になのかな? 東京大賞典とか帝王賞は勝ってるのにね。帝王賞なんて3回も勝っているんですよ。中央の馬が来るし、よっぽどダービーの方が勝ちやすい気がするのに(笑)。あんな難しい重賞を勝ってるのに、ダービーが勝てない。

赤見 これがまた、大きなドラマにつながっていますね。

的場 そうかもしれないですね。死ぬまで勝てないかもしれない(笑)。「今年が最後のダービーになるかもしれない」、そんな覚悟でしっかり挑みたいと思います。

(次回へつづく)


●TCKからのお知らせ!

4月20日(水)は3歳クラシック三冠の第1戦「羽田盃」(SI)!

【羽田盃・出馬表】 当日はnetkeibaのコラムでもおなじみの細江純子さんと競馬好き芸人の三拍子をお迎えして「羽田盃予想ステージ」を開催するほか、「羽田盃キャップ」のプレゼント企画など、イベント盛りだくさん!→詳しくは【TCK公式サイト】まで

さらに今週は、翌21日(木)も重賞「東京プリンセス賞」(SI)を開催! もちろん両日ともカラーファイアを使った重賞限定イルミネーションを実施します。

「netkeibaオンラインクーポン」をご利用の上、ぜひご来場ください!

TCKクーポン
※印刷不可。入場時にスマートフォンまたはタブレットでご提示ください。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

東奈緒美・赤見千尋

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

関連情報

新着コラム

コラムを探す