“国の動きを止めるレース”メルボルンC展望

2016年10月26日(水) 12:00


カレンミロティックは戦略の変更が吉と出るか

“The race that stops the nation(=国の動きを止めるレース)”と称される、豪州における国民的行事のG1メルボルンC(芝3200m)の発走が、来週の火曜日(11月1日)に迫っている。

 日本から参戦のカレンミロティック(セン9――日本の年齢基準では8歳だが、南半球のオセアニアでは8月1日に年をとるため、主催者発表では9歳となっている。他の北半球産馬も同様で、ここでは主催者発表と歩調をあわせて、9歳馬と表記する――、父ハーツクライ)は、16日に日本を出発し、香港経由で17日の午後に現地での拠点となるウェリビー競馬場に到着。当初は、中2日おいて20日から馬場入りする予定だったのが、輸送のダメージが少なかったということで、19日から馬場での調教を始めている。輸送という、最大の関門を理想的な形で乗り越えられたのは何よりで、このまま無事に調整を続け、万全の状態で出走して欲しいものである。

 メルボルンCに出走した日本馬はこれまで、早めに現地入りし、G1コーフィールドC(芝2400m)を使って本番に臨んできたが、今年のカレンミロティックは、着地検疫のためこの日までに現地に入らなければならないという、ギリギリの日を狙っての輸送となっている。メルボルンCが現地初戦になるという、戦略の変更が吉と出ることを期待したい。長距離では現役最強のキタサンブラック(牡4)とハナ差の勝負をしたG1天皇賞・春(芝3200m)のパフォーマンスを再現できれば、間違いなく勝ち負けになるはずだ。

 とはいえ、24頭立てのハンデ戦という性格上、一筋縄ではいかないのがG1メルボルンCで、過去10年を振り返っても、1・2番人気での決着は一度もない。過去10年の連対馬20頭を前走別に分けると、G3ジロングC(芝2400m)が4頭で、G1コーフィールドC(芝2400m)とG1コックスプレート(芝2040m)がそれぞれ3頭ずつとなっている。王道と言われているコーフィールドCやコックスプレートよりも、裏街道と称されるジロングCの方が多いというのは、なかなか興味深い傾向である。

 しかも、コーフィールドCやコックスプレートを使ってメルボルンCで連対した6頭は、その尽くがコーフィールドCやコックスプレートで3着以下に敗れているのに対し、ジロングCを使ってメルボルンCで連対した4頭のうち3頭は、ジロングCで勝利を収めての参戦であった。コーフィールドCやコックスプレートを使った場合、そこでピークを迎えた馬は、馬券的には「消し」。負けて、余力を残してメルボルンCに向かう馬が「買い」ということになる。今年はコックスプレートの敗退組に、それっぽい馬がいないので、コーフィールドCの負け組に要注意ということになりそうだ。

 具体的には、コーフィールドC3着のエクソスフェリック(牡5、父ビートホロウ)あたりは、かなり有力と見る。今年8月まで英国に在籍し、英国では「エクソスフィア」の馬名で走っていた馬である。カリッド・アブドゥラ殿下のジャドモントの生産馬で、今季初戦となったニューマーケットのG2ジョッキークラブS(芝12F)で重賞初制覇。ヨークのG1インターナショナルS(芝10F88y)で5着となった後、現在の馬主がトレードで獲得し、ニューマーケットのM・スタウト厩舎からフレミントンのL&A・フリードマン厩舎に転厩。豪州初戦となったG1コーフィールドCが、勝ったジャミカ(牝4、父マイボーイチャーリー)から3馬身+3/4馬身差の3着だった。

 一方、本番との相性が最も良い前哨戦であるG3ジロングC(芝2400m)の、今年の勝ち馬であるキウィ(セン7、父ストリートクライ)は、異色の経歴の持ち主だ。ダーレーが生産し、ゴドルフィンが所有するキウィは、LRバリーマコールスタッドS(芝10F6y)勝ち馬プリンセスナダの2番仔で、母の1歳年上の半兄に欧州の大種牡馬ドゥバウィがいるという血統背景を持つ。

 愛国のJ・オックスの管理馬として2歳9月にデビュー。4歳秋まで11戦し、LRヘリテイジS(芝8F)を含む2勝を挙げた後、5歳からJ・ファーガソン厩舎の所属馬となってハードルに転身。6歳春までハードルを9戦し、ニューバリーのノーヴィスハードル(芝16F69y)で1勝を挙げた他、G2イーライツトップ・ノーヴィスハードル(芝16F103y)3着、G2ロッシングトンメイン・ノーヴィスハードル(芝16F)3着などの実績を残した。その後は平地に戻り、ロイヤルアスコットのアスコットS(芝20F)2着、グッドウッドのサマーS(芝14F)2着の後、オーストラリアに渡り、現地初戦となったG3ジロングCを逃げ切りで制して、重賞初制覇を果たしたのである。実績は明らかに下で、しかも、出走出来るかどうか、現在はボーダーライン上にいるが、出走枠にもぐりこめれば、過去の傾向からはノーマークに出来ない馬である。

 なお、凱旋門賞に続いてメルボルンCも、枠順確定後に予想を発表させていただくことになっているので、最終結論はそこまでお待ちいただきたいと思う。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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