【田辺裕信×藤岡佑介】第4回『田辺騎手は日本で一番○○しているジョッキー』

2016年10月26日(水) 18:01

with 佑

▲「一週間行かないと、○○から“どうしたの?”って電話が掛かってくるからね(笑)」

田辺騎手との対談の第4回。ここまでは田辺騎手の騎乗論を聞いてきましたが、今回は別の角度から、田辺騎手の競馬に対する取り組みに迫りたいと思います。実は、馬から降りても、頭の中は競馬のことでいっぱいの田辺騎手。ストイックな一面が明らかに!(構成:不破由妃子)

※本インタビューは9月5日に取材したものです。

藤岡佑介騎手は22(土)の京都9Rで、騎乗馬の故障により落馬負傷。「右脛骨近位端骨折、右膝半月板損傷」の診断を受け、全治には3か月程度を要する見込みです。本日26(水)に京都市内の病院で手術を受けました。今後は2週間程度入院して、療養を続けていく予定です。


(前回のつづき)

誰かの真似じゃなく、自分で先に新しいものを見つけたい

佑介 田辺先輩は今現在、何が一番のモチベーションですか?

田辺 それはもちろん……馬具!

佑介 出たー(笑)!

田辺 最近はあまり出歩かないし、物欲もないんだけど、馬具屋だけはめっちゃ行ってる。

佑介 おそらく、田辺先輩は日本で一番馬具屋に行ってるジョッキーですよね(笑)。

田辺 そうかもしれない。一週間行かないと、馬具屋から「どうしたの?」って電話が掛かってくるからね(笑)。

佑介 それはすごい! でも、馬具に関しては昔から関東のほうが進んでますよね。とくに田辺先輩が通っている馬具屋さんは、ジョッキーの意見を取り入れて作ってくれるから、次々と新しいものが出てくる。だから、東京競馬場に行ったときは、まず田辺先輩の鞍置場をのぞくのが僕の習慣。

田辺 道具で補えるのであれば、道具に頼りたい。あと、誰かが使っているのを見て「いいな」と思って取り入れるより、自分で先に新しいものを見つけたいんだよね。失敗もたくさんしてきたけど、「これだ!」と思うものができたときはすごく嬉しい。

佑介 そういえば、ソールが赤いブーツを履き出したのも田辺先輩が最初でしたよね。今でこそ、みんな真似してますけど。

田辺 あれは機能的には何も関係ないよ。どこで個性を出そうかなと考えたときに、「そうだ! ブーツの裏の色だ!」って(笑)。みんなにルブタンを意識してるんじゃないかって言われるんだけど、靴屋さんに「赤以外は特注」って言われたから赤になっただけで。

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▲靴底に注目! 田辺騎手こだわりの赤ソールのブーツ(撮影:下野雄規)

佑介 なるほど。しかし、田辺先輩の馬具熱は冷めませんね。本当にこだわりが強い。

田辺 こだわりというより、さっき話したブーツみたいに“カッコイイものを使いたい”っていうのが基本なんだけど、何より理想なのが、競馬に乗っていて疲れないということ。一日に何レースも連続で乗るわけだけど、疲れを次のレースに引きずるわけにはいかない。だから、馬具に求めるのは、いかに楽に馬を動かすことができるかがテーマ。いつも馬具屋に「もっと馬が走る馬具を作ってよ!」って言うの(笑)。

佑介 そんなオーダーありえない(笑)。

田辺 馬具へのこだわりでいうと、俺のなかではノリさんがNo.1。馬具に応用できるものを探しに、よくホームセンターに行ったりしてる。

佑介 確か、園芸用の白い手袋を最初に取り入れたのがノリさんでしたよね。

田辺 そうそう。一気に広まった時期があったよね。手袋はねぇ、俺の中で永遠のテーマ(笑)。

佑介 僕もです! 感覚的には素手のほうが絶対にいいんですけど、何レースも乗っていると、滑るし痛いしでそうはいかない。だから、限りなく素手に近いけど、ダメージはないみたいな。そういう手袋がほしい。

with 佑

▲佑介「田辺先輩、早く手袋も開発してください!(笑)」

田辺 それならね、最近取り入れたのがボーリング用の滑り止めテープで。

佑介 あ! 内田さんとかが手に巻いてるテープですね。この前見て、いいなぁと思っていたところでした。

田辺 そうそう。いくらピッタリした手袋でも、握るとどうしても“余り”が出てくる。でも、あれはテープだから、その人の握り方に合わせて巻けばいいだけ。滑らないし、本当にいいよ。ただねぇ、張り替えるのが面倒臭い(苦笑)。

佑介 なるほど〜。まさかボーリング用のテープだったとは。あと、冬場に指先がかじかまない手袋がほしい! 上がってきたとき、腹帯を外せないほどかじかんでますからね。

田辺 そうだよなぁ。以前、サーファーの人に教えてもらったんだけど、塗るだけで体が温かくなるクリームがあってね。それをね、冬場に手に塗ってみたんだけど、手袋のなかでヌルヌルしちゃってダメだった(笑)。

佑介 そりゃダメだ(笑)。しかし田辺先輩は、いろんなところから情報を引っ張ってきますね。

田辺 まぁね(笑)。手がかじかむことに関しては、もともとの自分の体温を上げればいいのかなって思ったこともある。下半身を中心に体全体を温めておけば、手も自然と温かくなるはずだから。で、生姜湯をめっちゃ飲んでみようかなとか、それこそ乾布摩擦でもしてみるかとか、いろいろ考えた。

佑介 そういえば、田辺先輩は馬具マニアであり、健康マニアでもありますよね。

田辺 とりあえず今はプルーンマニアだからね。中井貴一さんの次は俺でしょ(笑)。

佑介 ミキプルーンを狙ってるんですね(笑)。

田辺 サプリもいろいろ飲んでるし、食生活ではグルテンフリーにこだわったり。トレーニングも大好きで、いろいろ試したりしてるよ。

佑介 そういえば、札幌に滞在しているときも、みんながご飯を食べに行っているときに、ひとりで黙々とトレーニングしてましたよね。

田辺 そういうとすごくストイックみたいだけど、その前の年に札幌に滞在したとき、めっちゃ飲んでめっちゃ散財して、すっからかんで帰ったことがあったの。さすがに「これじゃあダメだ」と思って、だったらジムで体を酷使して、飲みに行く元気をなくして、お金を貯めて帰ろうと(笑)。

佑介 でも実際は、ジムでしこたまトレーニングしたあと、元気に飲みに行ってましたよね(笑)。

田辺 そうでした(笑)。最近はね、スケボーが体幹を鍛えるのにいいんじゃないかと思ってやってるんだけど。筋力だったら漕ぐほうの脚を鍛えるけど、バランスを取るのは軸足だから、あえてバランスを取りづらいほうの脚を軸にしたりだとか。でも、家の近くの公園で3時間くらいスケボーをしたら、脚がパンパンになっちゃった(笑)。

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▲田辺「トレーニングも色々試してる。最近はスケボーが体幹を鍛えるのにいいんじゃないかと思って」

佑介 田辺先輩らしい(笑)。やると決めたら徹底的にやりますよね。

田辺 だから失敗も多いんだけど、馬具を探求するのと一緒で、誰もやってないようなことを見つけたくて。佑介はどんなトレーニングしてるの?

佑介 僕は週に2回、体幹を鍛えるトレーニングをしてますけど、田辺先輩ほどはやってないですよ。けっこう筋肉が付きやすいから、やりすぎると体重が増えてしまうので。そもそもね、トレーニングとかあんまり好きじゃない(苦笑)。

田辺 そうなんだ。でも、現役のジョッキーとしてはやるしかないと。

佑介 そう、やるしかない。そう言い聞かせて、僕なりに頑張ってます!

(次回へつづく)

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「with 佑」とは

JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

藤岡佑介

1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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