減少し続ける生産牧場

2017年01月18日(水) 18:00

日高の牧場風景

日高の牧場風景

地域全体にとっても大きな課題

 昨年、日高で開催されたサラブレッド市場は、バブル期以来となる売り上げを記録し、活況を呈した。また、長らく減少傾向が続いていたサラブレッド生産頭数も、昨年は増加に転じており、おそらく今年も市場の好調な売れ行きに後押しされて、さらに増えることが予想される。

 地方競馬の売り上げも順調に推移しており、サラブレッドの需要と供給が均衡のとれたものになってきていることを実感させられる。

 ただ、その一方で、確実に日高の牧場軒数は減少し続けている。日高軽種馬農協の発行する「平成28年、軽種馬当歳名簿」によれば、日高東部3町(浦河、様似、えりも)を例にとると、生産牧場軒数は、概算で合計170軒ほどである。内訳はえりも町4軒、様似町20軒、浦河町が約150軒になる。

 これがどのくらいの減少率になるのかというと、例えば、2001年度の名簿と比較すると、その減り具合がよく分かる。2001年の名簿に記載されていた牧場軒数は、えりも町8軒、様似町38軒、浦河町が250軒、合計約300軒。つまり、ほとんど半分程度の軒数にまで減ってしまった計算になる。

 ちなみに生産頭数は、2001年が3町合わせて1791頭。そして、昨年2016年の生産頭数は1288頭である。ただ、この15年間で、日高軽種馬農協を脱退した組合員も若干数いるので、名簿に記載されたこの数字は、必ずしも正確とは言い難い。しかし、おおよその傾向は、ここに表れている。

 日高管内全体では、2001年時点で6958頭が生産されており、2016年には、4909頭まで減少しているので、減少率としては、日高東部3町だけが著しく減ったというわけではない。頭数では日高全体で3割減少したことになるが、日高東部3町でもおおよそそれくらいの減少率で推移してきている。

 軒数の減少幅ほど生産頭数が減少していないのは、大手がその分をカバーしているせいである。そして、既存の生産牧場を個別にみると、やはりこの15年間で経営者の平均年齢が上昇しているのが目につく。本来ならば、50代〜60代で、次の世代にバトンタッチすべきところが、次の世代の後継者がいないために、そのまま経営を続けている例が少なくないのだ。

 個人差があるものの、生産牧場の主たる働き手として、第一線でフル回転できるのは、体力的にも気力の上からも、せいぜい60代が限界であろう。70代になれば、自らが主体になって牧場を経営して行くのはかなり辛くなる。ところが、日高には、50代〜60代の経営者がかなりの割合に上る。本来ならば、子息に後継させるべき年代を迎えているにもかかわらず、後を継ぐべき子息がいなかったり、あるいはいてもすでに他の業種の仕事に就いており、牧場を継がせる環境にない例も多い。

 その結果、牧場軒数だけがどんどん減り続けてきて、現在に至っている。だが、そうした傾向は、今後もますます加速して行くことが予想される。

 廃業、休業した牧場の跡地は、これまで誰かが借りるなり、買い取るなりして、完全な空き家、空き地にならないようにしてきた。しかし、徐々にそれも限界に達しており、現に私の住む地域では、誰も管理しない(できない)荒れ地に変わりつつある土地が少しずつ増えてきている。一度荒れ地になると、容易なことでは元に戻らない。また、所有者が転居してしまったり、亡くなってしまったりするとさらに解決が困難になってくる。

 おそらく、今後も牧場軒数は減少し続けるだろうが、今のところその流れを止める有効な手段がない。新たに廃業、休業した牧場を引きうけ、生産者として新規参入してくる人材を確保するのが近道だが、そんな例はひじょうに少ないのが現状だ。

 とはいえ、今すぐにでも手を打たなければ、今後、時の経過とともに、ますます地域の景観を今のまま維持、保全して行くのが難しくなる。とりわけ、河川の流域に点在する敷地面積が概ね10ヘクタール未満の小規模な生産牧場を、どのように再編して行くかが当面の課題になるだろう。規模が大きい牧場はそれなりに引き受け手があるが、小規模牧場ほど再編が難しく、加えてそれぞれが抱える負債問題もまた解決をさらに困難なものにする。

 牧場をどうするのかは個々の問題だが、実はそれ以上に地域全体にとっても大きな課題と言える。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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