【フェブラリーS】『第1回 地味な血統の華奢な馬』井上オークスが贈る〜メイセイオペラ物語〜

2017年02月13日(月) 18:01

1999年のフェブラリーステークス。岩手のメイセイオペラが地方所属馬として、初めて中央競馬のGIレースを制した。あれから18年の歳月が流れても、英雄の功績は色褪せることなく、輝き続けている。メイセイオペラはいかにして強くなり、どのような困難に打ち勝って、フェブラリーS制覇をやってのけたのだろうか? (取材・文:井上オークス)

※本企画は2月13日(月)〜17(金)、5日連続公開します。


韓国から届いた突然の訃報

 2014年の春、菅原勲調教師と、韓国・済州島のプルン牧場で種牡馬生活を送るメイセイオペラに会いに行った。岩手の英雄と、主戦を務めた名手。メイセイオペラが北海道のレックススタッドを旅立って以来だというから、8年ぶりの再会である。

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▲メイセイオペラと菅原勲調教師。2014年5月、韓国・済州島にて

 栗毛の大流星が、馬房からひょっこり顔を出した。菅原調教師が差し出した青草を、もぐもぐと美味しそうに食む。ふたりは鼻面と頭をくっつけてじゃれあい、心を通わせた。

「優しい人達に囲まれて、元気に過ごしているオペラに会えて、本当に嬉しく思います。自分も元気をもらいました」

 菅原調教師はそう言って、ニッコリほほ笑む。

 牧場主が「はるばる会いに来てくれたから」と、メイセイオペラを馬房から出してくれた。するとオペラはそこらじゅうを、元気一杯に飛び跳ねた。たくましく張りのある馬体は若々しくて、とても御年20歳とは思えなかった。

 2016年7月。突然の知らせに、言葉を失った。メイセイオペラが天に召されたという。ソウル近郊のソンス牧場に移り、種牡馬を続けていると聞いていたのに。「最後は日本で、のんびり余生を送ってほしい」という想いを、多くの人が抱いていたのに――。

 菅原調教師が寂しそうに、「2年前のオペラは、びっくりするほど元気だったな」と呟く。そしてこう言った。

「自分はトウケイニセイに育てられました。そして騎手として完成に近づいたときに、メイセイオペラが全国に送り出してくれました」

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▲1999年フェブラリーS(撮影:森内智也)

 盛岡競馬場に設けられた献花台に、あふれるほどの花束が手向けられた。栗色の遺髪を、愛おしそうに見つめる人。涙ぐみながら記帳する人。

 メイセイオペラが亡くなった直後、秋田県のテレトラック横手(岩手競馬と中央競馬の場外馬券売り場)で、予想トークショーに出演した。予想を終えて秋田の馬券師達と雑談していると、小柄なおじいさんが、馬券を差し出してニコニコしている。万馬券でも当てたのかな? と思ってよく見ると、それは色あせたメイセイオペラの単勝馬券だった。

 岩手のヒーロー。東北の誇り。さまざまな形で別れを惜しむ人々に接するうちに、「メイセイオペラの偉大さを、伝えていくべきなんじゃないか?」という想いが、どんどん膨らんでいった。

 岩手競馬は何度も存続の危機にみまわれてきた。それでもなんとか乗り越えて生き延びることができた理由は、メイセイオペラのおかげだ。私は大袈裟でもなんでもなくそう思う。

 メイセイオペラはたくさんの人々に、夢や希望を与えた馬。これほどの名馬を輩出した岩手競馬は、格別な存在なのだ。だからこそピンチの度に、あちこちから救いの手が差し伸べられた。「メイセイオペラを送り出した岩手競馬を、失うわけにはいかない」と。

 岩手の英雄に感謝を込めて、その蹄跡をたどっていこう。

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▲水沢競馬場で開催されたメモリアルフォト展

地元の3歳に敵はいない 目指すは中央重賞

 1994年6月6日。北海道・平取町の高橋啓牧場で、メイセイオペラが産声を上げた。父はグランドオペラ。母はテラミス(母の父タクラマカン)。非常に地味な血統である。しかも遅生まれということもあって、同い年の馬と比べてずいぶん体が小さかった。そこで高橋さんは、当時はまだ一般的ではなかった「昼夜放牧」によって成長を促した。その後、育成牧場を経て、水沢競馬場の佐々木修一厩舎に入厩。2歳の7月に盛岡競馬場で迎えたデビュー戦は、4馬身差で逃げ切った。

 栄えある新馬勝ちから、1ヶ月後。オーナーの小野寺良正さんが、急逝してしまう。母テラミスを競走馬時代から所有し、メイセイオペラの活躍を楽しみにしていた良正さんの遺志を継いで、妻の明子さんがオーナーを続けることになった。

 2戦目以降は出遅れや落鉄が響いて連敗を喫するが、6戦目から快進撃が始まる。2歳の暮れ、白菊賞(水沢)を4馬身差で快勝した。菅原勲騎手(当時)は、このレースで初めてメイセイオペラの手綱をとった。

「『バネがあって動きはいいけど、華奢な馬だな』と思いました。とにかく線が細くて、460キロあるとは思えなかったですね」

 岩手最強馬と言われたトウケイニセイをはじめ、数々の名馬に跨ってきた名手にとっては、「いい馬のうちの一頭」。それでも3歳になったメイセイオペラは、岩手・上山・新潟の精鋭が相まみえる東北ダービー(新潟)、伝統の不来方賞(盛岡)などを圧勝し、連勝を「9」に伸ばした。もう、地元の3歳に敵はいない。陣営は満を持して、中央遠征の計画を立てる。10月のユニコーンステークス(東京)を目指して、順調に調教を積んでいた。その矢先に――痛ましいアクシデントが起きた。

(次回へつづく)

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