「ミンナノユメノセテ」

2017年03月08日(水) 18:00

ゴートゥザノースの2015a

ミンナノユメノセテの半妹・ゴートゥザノースの2015

静内農業高校生産の姉妹

 去る3月3日、川崎競馬第1レース「サラ3歳未受賞未出走」戦(ダート1400m)に、ミンナノユメノセテと名付けられた北海道立静内農業高校生産の血統名「夏羽月(うづき)」がデビューした。経験馬に交じってのデビュー戦ながら、内埒沿いを終始3〜4番手につけ、直線で抜け出すと、追いすがるカゼノボレロを4分の3馬身差で退け、1着でゴールインした。笹川翼騎手が騎乗。勝ちタイムは1分36秒8と、同日に同距離で行なわれた他の3歳戦と比較しても2秒は遅いが、無事にデビュー勝ちを収めてくれたのは何よりであった。

 ミンナノユメノセテは、父サマーバード、母ゴートゥザノースという血統の牝馬で、一昨年夏の「サマーセール」に上場され、JRA育成馬として日本中央競馬会に378万円(税込)で落札された。その後、9月初めに浦河のJRA日高育成牧場にて調教が始められ、本来ならば明けて2歳になった昨年4月のブリーズアップセール(中山競馬場)に上場される予定だったが、秋頃から何度か疝痛の症状を見せるようになり、ちょうど今から1年前の昨年3月、開腹手術を受けることとなった。

ミンナノユメノセテ1

開腹手術から、公開調教を披露するところまで持ち直した(写真左)

 当然、ブリーズアップセールは間に合わず、やむなく立て直した後に、5月に札幌競馬場で開催された北海道トレーニングセールに上場されることになった。開腹手術の後で、無事に回復し、調教を再開できるかどうか心配されたが、何とか公開調教を披露するところまで持ち直し、同セールにて432万円で、(株)LS.Mに落札されたのであった。

ミンナノユメノセテ2

北海道トレーニングセールにて432万円で落札された

 ところが、その後は全く消息が分からずで、中央に馬名登録のないまま、ついに年が明けてしまっていた。そして、今回、川崎競馬に転じ、平田正一厩舎所属で、デビュー戦を迎えることになったのである。

 デビューがこの時期まで遅れたのは何か理由があるのだろうが、ともあれ、無事に競走馬としてデビューできたことにホッとした。ミンナノユメノセテはなかなかセンスの光る競走名で、引き続き、今後も追いかけて注目してみたいと思う。

 さて、ミンナノユメノセテの1歳年下の半妹もまた、昨年夏のサマーセールにて、205万2000円でJRA育成馬として日本中央競馬会が購買し、現在、姉と同じく日高育成牧場で鋭意調教が進められている。

 川崎で姉が初勝利を収めた数日後、ふと思い立って日高育成牧場にお邪魔してきた。疝痛による開腹手術を受けた姉のことは、日高育成牧場の人々も常に気になっていたようで、開口一番「デビュー勝ちしてくれて良かったです」というものであった。

 半妹は、世代中もっとも市場での購買価格が安いものの、今のところ、ひじょうに順調に調教メニューをこなしてきているという。火曜日と金曜日の週2日が、坂路調教に充てられており、2本ずつこなす。1本目は縦列でハロン17秒前後を目安に数頭単位で駈け上がり、常歩でスタート位置に戻ると、2本目は僚馬と併走で坂を上がる。ペースは1本目よりも、「少し速めに」を心がけているという。

ゴートゥザノースの2015b

順調に調教メニューをこなしているゴートゥザノースの2015

 とはいえ、あくまで、ここで重視されるのは、時計そのものよりも、馬の前進気勢を削がないようにすることで、馬自身が走りたい、前に行きたいと積極的に調教に取り組むように仕向けるのが第一の目標である。

 縦列の組み合わせは、日によって変わる。どの馬も先頭を走ったり、我慢しながら後ろから追走したりできるように、そして、騎乗者の指示に従順に従うような調教が課せられる。

 父バゴの半妹も、この日、第3クルーの1頭として坂路調教が行なわれていた。「今のところ何も心配ありません。このまま無事に中山に行ってくれると良いですね」と日高育成牧場のスタッフ。栗毛でふっくらとした大柄な馬体だったミンナノユメノセテとはまたタイプが異なり、半妹は、首さしが綺麗で、俊敏そうなラインの馬である。見た目より馬体重もあるようだ。意欲的で闘争心のありそうな馬、と見た。

ゴートゥザノースの2015c

「今のところ何も心配ありません」と日高育成牧場のスタッフ

 この後、来月初旬に、他の育成馬とともに展示会が行われ、そこで騎乗供覧も披露される。中山競馬場のブリーズアップセールは来月25日(火)。ここ数年売却率が100%を記録する同セールだが、その後のセール出身馬の競走成績を見ると、必ずしも売却された価格に比例しているとも言い難く、まして、1歳時の市場での購買価格もまたあまり当てにならない。現3歳世代の現時点での賞金獲得額ベストスリー(シゲルベンガルトラ、ジュンヴァリアス、シゲルボブキャット)はいずれもブリーズアップセールでの落札価格が税込400万円〜500万円台の馬たちだ。

 ともあれ、中山競馬場での本番まで後1ヶ月半。何とかこのまま無事に行って欲しいと願わずにはいられない。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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