近年になく興味深い顔合わせ、英二千ギニー展望

2017年05月03日(水) 12:00


◆1番人気は二千ギニーが今季初戦のチャーチル

 今週の土曜日(6日)の現地15時35分(日本時間23時35分)に発走が迫っている、英国牡馬3冠初戦となるG1二千ギニー(芝8F、ニューマーケット)の展望をお届けしたい。

 昨年の秋から、ブックメーカーが催す前売りで1番人気の座を保ち続けているのが、エイダン・オブライエン厩舎のチャーチル(牡3、父ガリレオ)である。5月22日という早期デビューを果たし、緒戦は3着に敗れると、次走は強気にロイヤルアスコットのLRチェシェイムS(芝7F)にぶつけ、ここで初勝利。以降は、レパーズタウンのG3タイロスS(芝7F)、カラのG2フューチュリティS(芝7F)、カラのG1ナショナルS(芝7F)、ニューマーケットのG1デューハーストS(芝7F)と、いずれも危なげない競馬で白星を並べ、欧州2歳牡馬チャンピオンとなっている。

 7Fまでしか走っていない同馬だが、父がガリレオであるゆえ、二千ギニーだけでなく、ダービーの前売りでも1番人気に推されているのがチャーチルだ。だが、母ミャウがLRグランジコンスタッドS(芝5F)勝ち馬で、祖母エアウェーヴはG1チーヴァリーパークS(芝6F)勝ち馬という母系を考えると、12Fをこなせるかどうかは、かなり微妙。しかし、1Fの距離延長は、そのレース振りから全く問題なさそうに見える。

 前哨戦を使わず二千ギニーが今季初戦となるが、ここは「仕上りは順調」という、オブライエン師の言葉を信じるしかない。実際に近年も、グレンイーグルス、キャメロット、ヘンリーザナヴィゲイターといった馬たちで、ぶっつけ本番で臨んだ二千ギニーを勝っているが、しかし一方で、昨年のエアフォースブルーは、1.8倍という圧倒的1番人気を裏切り12着に大敗している。天才も、たまには見立て違いをすることもあることは、覚えておいてよさそうである。

 ブックメーカー各社が2番人気に推すのが、フランスから遠征してくるアルワケール(牡3、父ドリームアヘッド)だ。

 祖母がG1仏オークス(芝2100m)勝ち馬カーリーナで、従って、ヒカルアマランサス、カレンミロティックといった日本の重賞勝ち馬たちと従兄弟の関係にある同馬は、タタソールズ10月1歳市場にて20万ギニー(当時のレートで約3864万円)で購買され、アンドレ・ファーブル厩舎に入厩。昨年9月にサンクルーのメイドン(芝1400m)でデビューし、鮮やかに緒戦勝ちを果たすと、続いて出走したドーヴィルのLRイゾノミー賞(芝1600m)も快勝して2歳シーズンを終了。今季初戦となったのが、4月10日にメゾンラフィットで行われたG3ジェベル賞(芝1400m)で、ダッシュがつかずに最後方からの競馬になった後、ライバルをまとめて差し切るという派手な勝ち方を見せ、無傷の3連勝を飾るとともに、重賞初制覇を果たした。

 陣営から、矛先を自国の二千ギニーではなく英国の二千ギニーに向けるとの発表があったのは、ジェベル賞の直後であった。G3ジェベル賞で1馬身差の2着に退けたのは、前年秋のG1ジャンルクラガルデル賞(芝1600m)勝ち馬ナショナルディフェンス(牡3、父インヴィンシブルスピリット)で、相手が弱かったわけでは決してない。また、1400mよりは1600mに向いていることも間違いなさそうだ。更に、管理するファーブル師は、93年にザフォニックで、95年にペニカンプで英二千ギニーを制しており、どんなタイプがニューマーケットに合うかは熟知した調教師である。諸々鑑みると、前走後、ブックメーカー各社が同馬をいきなり2番人気に浮上させたのも、頷ける背景を持った馬である。

 今シーズンに入ってから、英国でもフレッシュな勢力の台頭があった。

 1頭は、4月20日にニューマーケットで行われた、本番と同コース・同距離の前哨戦G3クレイヴンS(芝8F)を制したエミネント(牡3、父フランケル)である。ソウルスターリングが桜花賞を勝てなかったことで、日本におけるフランケル旋風は小休止の状態にあるが、欧州では新たなシーズンを迎えて初勝利を挙げるフランケル産駒が続々と登場。旋風が続く中、父にとって7頭目の重賞勝ち馬となったのがエミネントである。

 母ユールビーマインがG1フィリーズマイル(芝8F)3着馬で、祖母クオータームーンがG1モイグレアスタッドS(芝7F)勝ち馬という優れた牝系を背景に持つにも関わらず、タタソールズ10月1歳市場で15万ギニー(当時のレートで約2900万円)というお値打ち価格で購買された同馬。昨年9月にニューマーケットのメイドン(芝8F)でデビュー勝ち。2歳シーズンをこの一戦で終え、今季初戦となったクレイヴンSを制し、2戦2勝で重賞初制覇を果たしたのである。ここも、1.3/4馬身差の2着に退けたのは、昨年秋のG1レイシングポストトロフィー(芝8F)勝ち馬リヴェット(牡3、父ファストネットロック)で、つまりは骨っぽい相手を撃破しての勝利であった。父にとってのクラシック初制覇がなるかどうかという点でも、大きな注目を集める馬である。

 更に、4月22日にニューバリーで行われたG3グリーナムS(芝7F)を制し、同じくデビューから2連勝を飾ったのがバーニーロイ(牡3、エクセレブレーション)だ。

 祖母チェイニースターが愛国のG3・2勝馬で、祖母の甥にG1スプリントC芝6F)など3つのG1を制したゴードンロードバイロンがいるものの、血統的には「中程度」のファミリー出身の同馬は、当歳時にタタソールズ12月当歳市場に上場され、3万ギニー(当時のレートで約585万円)で購買された後、上級マーケットとは言い難いドンカスター1歳市場に上場され、ここでは7万ポンド(当時のレートで約1310万円)で転売されている。

 リチャード・ハノン厩舎に入った同馬は、2歳9月にヘイドックのメイドン(芝8F)でデビュー。ここを3.3/4馬身差で勝ちあがった後、その内容の良さに目をつけたゴドルフィンがトレードで獲得。シーズンオフを経て、今季初戦となったG3グリーナムSも白星で通過したのである。

 ここまでの4頭がひと桁台のオッズがつく馬たちで、バラエティーに富んだ、近年になく興味深い顔合わせとなっている。日本、北米、香港、そして英国と、見逃せないレースが目白押しの週末となりそうである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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