【AED普及活動】アスリートの「命と安全」を考える ―プロライフセーバー飯沼誠司さん 特別対談(前編)

2017年06月14日(水) 18:01

with 佑

▲今回は、AED(自動体外式除細動器)の普及を進めているASJ(アスリートセーブジャパン)の代表・飯沼誠司さんとの特別対談

「『いのち』を守る、『いのち』を大切にする心を育む」をスローガンに、AEDの講習会や熊本地震の支援活動を通じてスポーツの素晴らしさを伝え、そのための安全な環境作りを提唱しているアスリートセーブジャパン(以下、ASJ)。賛同アスリート総勢38名が、様々なイベントで活躍中です。そのASJの代表であり、日本を代表するライフセーバー・飯沼誠司氏が、熊本支援イベントの記事を目にしたことをきっかけに、今回の対談が実現。前編では、プロスポーツ選手がイベントなどで子供たちに与える影響力、そしてその意義について、それぞれの視点から語ってくれました。(取材・構成:不破由妃子)


小学生を対象に「いのちの教室」を定期的に開催

佑介 はじめまして。今日はASJ(アスリートセーブジャパン)の活動についてお話を伺えるとのことで、楽しみにしていました。

飯沼 こちらこそ、よろしくお願いします。

佑介 飯沼さんは、ライフセービングの競技者としてご活躍されたのはもちろん、日本人ライフセーバーとして、初めて海外でプロ契約をされたんですよね。やはり、現場で命と向き合うなかで、ASJの理念であるアスリートの「安心・安全な環境作り」の重要性を感じられたんですか?

飯沼 そうですね。アスリートを守ることはもちろんですが、未来のアスリートである子供たちにも「安心・安全」な環境を用意し、その環境を生かすための必要な知識を身に付けてほしいなと思いまして。それでまずは、小学生を対象に「いのちの教室」というイベントを定期的に開催し、AED(自動体外式除細動器)の普及を進めているんです。

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▲駅などに設置されているAED(自動体外式除細動器)

佑介 ああ、最近はマンションや駅に設置してありますよね。でも、いざ使うとなると…。

飯沼 一度で覚えられるかというと、やはり難しいですよね。導入から12年が経って、全国的に設置自体は増えましたが、それを有効に活用できているかというとまだまだなんですよ。

佑介 そうなんですね。公式サイトを拝見しましたが、錚々たるアスリートの方たちが賛同、協力されているんですよね。そんななかで今回、なぜ僕に声を掛けていただいたのかな…と(苦笑)。

飯沼 熊本に行かれた記事を拝見したんです。被災地の子供たちを小倉競馬場に招いて、乗馬体験やBBQでもてなしてらっしゃった。これは何か通じるものがあるなと。
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▲▼昨年8月に実施した佑介騎手発案の被災地支援イベント。熊本の子供たちを小倉競馬場へ招待。騎手たちとBBQや乗馬体験を楽しんだ

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佑介 ああ、なるほど。

飯沼 たった1日とはいえ、ああいったイベントを開催するのは大変なことですから。

佑介 東日本大震災のときも有志一同で現地に赴いたんですが、そのときに、やはり自分の肌で“現地”を感じることが重要だと思ったんです。だから、熊本もまずは現地に足を運んで、自分の目で見たいなというのが始まりで。

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▲▼熊本に足を運び、自身の目で被災地の様子をたしかめた

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飯沼 ASJの活動の一環として僕も行きましたけど、ニュースの映像から受ける印象とは全然違いますからね。僕はサッカーの巻誠一郎選手(ロアッソ熊本)と一緒に熊本を回ったんですが、やはり彼は地元のヒーローなんですよ。アスリートの方が持っているパワーは、ご自身が思っている以上にすごくて、子供たちに与えるインパクトも半端ない。そういった意味でも、藤岡さんの活動を見て、本当に素晴らしいアスリートだなと思ったんです。しかも、オフシーズンがないなかで動かれたわけですから。

佑介 支援活動とはいっても、逆にこちら側が力をもらったりするんですけどね。

飯沼 そうなんですよね。喜んでもらえると、また頑張ろうと思える。現地に行くことで、こんなこともできるんじゃないか、あんなこともできるんじゃないかって新しい発想が生まれたりもしますし。僕らもできる範囲のことを継続的にやっていこうと思っていますが、藤岡さんも次の展開などを考えてらっしゃるんですか?

佑介 被災地に限らず、馬と触れ合う機会を子供たちに提供して、ジョッキーという仕事をもっと知ってほしいという気持ちが根本にあるので、続けていきたいとは思っているんですけど…。ボールひとつでコミュニケーションが取れるスポーツとはやはりちょっと違うので、なかなか難しいんですよね。

飯沼 そうですよね。ジョッキーという仕事を知ってもらうためには、馬の存在が欠かせないですもんね。

佑介 そうなんです。今年の夏も、札幌でイベントができればなぁとは思っているんですが。

飯沼 そういえば、北海道のノーザンホースパークで高校の同級生が働いているんです。この前、久々に会って話をしたら、彼も「馬を通して、子供たちにいろんな体験をさせたい」と話していました。

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▲飯沼「ノーザンホースパークで同級生が働いているんです。彼も“馬を通して、子供たちにいろんな体験をさせたい”と」

佑介 ああ、ノーザンホースパークでは毎年、夏にイベントを開催していますからね。馬の先導でマラソン大会をやったり。

飯沼 それはすごい! 都内じゃ絶対にできない(笑)。

佑介 そう、さすが北海道です(笑)。

飯沼 たとえば、子供たちに乗馬を教えるとしたら、どういう場所が必要なんですか?

佑介 ん〜、乗る場所もそうですが、まずは安全を確保しなければいけないので、乗馬用にきちんと調教された馬が必要ですし、ほかにも年齢制限や保険の問題なんかもあったりして、なかなかハードルが高いんです。そのあたりが、普及を妨げている原因だと思うんですけどね。それこそ、ノーザンホースパークのような施設で、引き馬で乗ってもらったりはできますが。

飯沼 じゃあ、熊本の支援イベントは、本当に特例だったんですね。

佑介 そうですね。でも、やはり熊本まで馬を連れて行くことはできず、子供たちに小倉競馬場まで来てもらったわけで。もう少し身軽に行き来ができるようになれば可能性は広がりますが、馬は生き物なので、環境が変わると暴れてしまったりすることもあるんです。だから、連れて行くのもなかなか難しくて…。世田谷の馬事公苑も、オリンピック開催に向けた施設整備で休苑してしまいましたし(2022年の秋頃に開苑予定)。

飯沼 なるほど。じゃあやはり、ノーザンホースパークで何かコラボイベントができればいいなぁ。僕からも同級生に働きかけてみます。

佑介 ぜひぜひ。そういえば、ノーザンホースパークでは、福永(祐一)さんが交流のあるアスリートに声を掛けて、馬事普及イベントを何年か続けて開催していますよ。

飯沼 そうなんですね。ASJアンバサダーでもある小野伸二選手・砂川誠さん(北海道コンサドーレ札幌)が運営するSUNA×SHINJIサッカースクールもASJの活動に積極的に協力してくださっているので、本当にコラボできたらいいですね。今現在、開催されているイベントに、ぜひ「命と安全」というテーマを加えていただいて。

佑介 そうですね。「命と安全」は、僕たちの仕事にも深く関わってくるテーマですから。

(次回へつづく)


飯沼 誠司(いいぬま せいじ)

1974年生まれ、早稲田大学大学院卒。日本人初のワールドシリーズとプロ契約を成し遂げたライフセーバー、ウォーターマン。 国内、外におけるライフセーバーの知名度・地位向上や次世代ライフセーバーの育成指導を行う。2015年にアスリートセーブジャパンを設立し、東京オリンピック・パラリンピック事業及びCSR推進活動の一環として全国の各小中学校を回り、「スポーツ中の突然死ゼロ」を目標に掲げ、AEDの使用方法や心肺蘇生を授業に導入した「いのちの教室」の活動に邁進する。

【主な競技歴と経歴】
1997〜2001年 ライフセービング全日本選手権5連覇
2006年 「館山サーフクラブ」を設立
2010年 ライフセービング世界大会準優勝 同年ライフセーバーオブザイヤー受賞
2012/2014年 ライフセービングユース日本代表監督
2014/2016年 ライフセービング日本代表監督
2015年 一般社団法人ATHLETE SAVE JAPAN(アスリートセーブジャパン)設立(代表理事)
2016年 一般財団法人日本AED財団理事
2017年 国立大学法人鹿屋体育大学オリンピック・パラリンピック戦略アドバイザー就任

千葉県館山市スポーツ親善大使
妻はタレントの中山エミリ

【メディア出演】
●TV
「トップランナー」NHK教育
「ジャンクSPORTS」CX
「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで」NTV
「踊る!さんま御殿!!」NTV
「SMAP×SMAP」CX
「王様のブランチ」TBS
「ザ・ジャスト」TBS
「中居正広の金曜日のスマたち」TBS
ほか

●ドラマ
「天才テレビくんMAX」NHK
「海猿」CX
「功名が辻」NHK大河ドラマ
「相棒5」EX
ほか

●映画
2001年「ウォーターボーイズ」「ハッシュ!」
2004年「海猿(UMIZARU)」
2005年「しあわせなら手をたたこう」「バッシュメント」

●著書
「水泳上達BOOK」(盛美堂出版社)
「パーフェクト スイミング ブック」(ベースボール・マガジン社)
「飯沼誠司式 筋肉トレーニングBOOK」(コスミック出版)

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「with 佑」とは

JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

藤岡佑介

1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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