八戸“未来”市場

2017年07月05日(水) 18:00

八戸市場全景

八戸市場全景


売上額、売却率ともに大幅な伸びを記録した

 去る7月4日(火)、青森県軽種馬生産農協主催による「八戸“未来”市場」が開催された。前日はかなりの大雨に見舞われ、翌日の天候が心配されたが、この日は曇りがちながら例年よりも涼しく、ひじょうに快適な気象条件に恵まれた。

 今年の上場頭数は名簿上では41頭だが、当日になり1頭の欠場が出たため、ちょうど40頭。牡牝各20頭で、種牡馬別では25頭とバラエティに富んだ上場馬が揃った。

 また、販売申込者別でも、地元の青森産馬と他地区産馬(北海道)の割合はちょうど半々であった。

 頭数の少なさが気になったものの、この日は朝から来場者が多く、次々に中央の調教師や馬主がタクシーやレンタカーで到着する姿が目についた。例年よりも購買者数が多く、最終的には94人が登録を済ませたという。上場馬数に対して2倍以上である。

 比較展示は午前10時半から始まった。おそらく新幹線あるいは飛行機などで遠方から来場する購買関係者に配慮した時間帯で、上場頭数も少ないために、これで十分にスケジュールが組める。40頭を3分割し、13〜14頭ずつの展示だから、余裕で全馬を見て歩ける。展示の終盤には、時計回りで大きく会場一杯を常歩で周回し、最後はまっすぐセリ会場に向かって常歩もしくは速歩での歩様を見せる。万事、のんびりしているが、今年は、八戸市場にも外国人の引き手が目についた。タイヘイ牧場は6頭の上場馬を連れてきており、うち5頭が若い白人女性の担当であった。確実に青森も国際化が進んでいるようだ。後述するが、タイヘイ牧場は上場馬全てを売却し、今年の八戸市場の好景気を下支えする役割を果たした。

比較展示風景

比較展示風景
待機厩舎は坂下にある

待機厩舎は坂下にある

 比較展示に充てられる時間は20分。ただ、ここは同じ持ち手が何頭も掛け持ちしているために、展示と展示の間は10分間のインターバルが設けられている。しかし、今年は気温が低めで過ごしやすく、人馬にとっても快適なセリであった。

 展示が終わると、ここではたっぷりと昼食時間が確保されている。基本的にはお弁当と豚汁だが、それぞれ思い思いの場所を確保し、のんびりと昼食をとる光景は、頭数の多い日高のセリとは異なり、いかにもゆったりとした雰囲気が漂う。

 セリ開始は12時45分であった。まず、主催者を代表して青森県軽種馬農協の山内正孝組合長が挨拶し、さっそく1番の馬が入場してきた。

山内正孝組合長

山内正孝組合長

 最初は、やや模様眺めムードに支配されて、主取りと落札を交互に繰り返す流れであった。価格もいくぶん安く、やはりいつもの八戸市場の雰囲気なのだろうかと思っていると、中盤にさしかかったあたりから俄然場内に活気が出てきた。価格の競り上がる上場馬が続出し、次々に落札されていく。主取りに終わった馬にも、再上場の申し込みがあり、セリのヒートアップしているのがはっきり分かった。

 前半は、牡馬よりもむしろ牝馬の売れ行きが良く、価格も高めであった。14番スイートスズランの2016(父グランプリボス)はシンボリ牧場からの上場馬で、560万円(税抜き)でビッグレッドファームが落札。また23番ジュメイラジョアンの2016(父マンハッタンカフェ)は、タイヘイ牧場の上場馬で、600万円(税抜き)まで競り上がった。落札者はJRA日本中央競馬会。

牝馬最高価格馬23番立ち

牝馬最高価格馬23番立ち
牝馬最高価格馬23番速歩

牝馬最高価格馬23番速歩

 今年は牝馬が最高値を記録するかも知れないと思っていた矢先、34番ミネルバローズ2016(父アルデバランII、牡黒鹿毛)が登場し、660万円まで競り上がって、中辻明氏が落札した。生産・販売申込者は、青森・谷川博勝氏。この馬が牡牝通じて今年の八戸市場の最高価格馬であった。

展示の時から注目されていた34番

展示の時から注目されていた34番
最高価格馬34番立ち

最高価格馬34番立ち
最高価格馬34番速歩

最高価格馬34番速歩

 目当ての馬を落札できない購買者が続出し、再上場馬も5頭に及んだ。中でも、JRAは、当初予定していた頭数に足りなかったと見えて、展示の際に次点としてリストアップしていた4番ミホユニヴァース2016(父アルデバランII、牡鹿毛)を再上場で落札したほどだ。

 大昔はいざ知らず、近年では前例のない活況を呈する市場となり、終わってみれば、40頭中31頭(牡15頭、牝16頭)が落札、売却率は前年を15.6%上回る77.5%に達した。

 売り上げ総額もまた税込みながら2006年以来となる1億円を突破し(1億249万2000円)、前年から3196万円、45.3%もの大幅な伸びを記録した。

 平均価格も前年比で59万3732円上昇し、330万6193円となった。前述したタイヘイ牧場の6頭完売を筆頭に、複数の上場馬を全て売却した生産者も多く、会場のあちこちで笑顔を見せる生産者の姿が目についた。

 セリ終了後、山内組合長は取材陣を前に「北海道の1歳市場では近年セリが好況で、レコードを毎年更新する売り上げを記録していたようですが、やっとここ青森にもその波がやってきた印象です。キョウエイギアに代表されるように、このところ県内生産馬が競馬で健闘していますし、地方競馬も堅調に推移しています。来年以降は、まず上場頭数の確保に努めて行きたいと考えております」と結んだ。

 山内組合長によれば、県内のサラブレッド生産頭数は約100頭程度とのことだが、地元の市場を回避し、北海道の市場に上場する馬が少なからずいて、期待馬ほどその傾向が強いという。誰しも生産馬をより高く売却したいのが人情だからこの流れを食い止めるのは容易なことではないが、少なくとも今年のような売れ行きを示すのであれば、八戸市場でも十分に満足の行く結果が得られそうな気がしてくる。

 頭数の少なさにもかかわらずここまで売り上げが伸びるとは正直なところ予想していなかったので、この結果にはひじょうに驚かされた。

 なお、来週はセレクトセール、そして再来週はセレクションセールと、今度は舞台を北海道に移して市場が続く。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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