JRAが主催する「サドルアップ・フォー・ジャパン」

2017年07月26日(水) 12:00


◆英国の競馬関係者に日本の競馬を改めてアピールする

 今週末に英国では、12F路線の大一番、G1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝11F211y)が行われる。ご承知の方も多いと思うが、現在の英国王であるエリザベス2世の、ご両親の名が冠されたレースで、創設は1951年。舞台となるのは、王室所有のアスコット競馬場である。

 今回のコラムで触れたいのは、レースそのものについてではない。当日、アスコット競馬場で催される予定の「サドルアップ・フォー・ジャパン」と銘打ったイベントを、ご紹介したいと思う。そのタイトルからご推察いただけるように、キングジョージ当日のアスコットでは、日本をフィーチャーした大がかりなイベントの開催が、予定されているのである。

 主催するのはJRAで、在英日本大使館、日本政府観光局、全農インターナショナル欧州、農林中央金庫といった組織や、JTBヨーロッパ、酒サムライUK,タザキフード、宝酒造UKといった企業がサポートして、イベントは運営される。目的は大きく分けて2つあり、1つは、英国の競馬関係者に、日本や日本の競馬を改めてアピールし、秋のオータムインターナショナルシリーズへの出走を喚起すること。

 もう1つは、広く英国人に日本における観光資源としての競馬を啓蒙し、外国人観光客の日本の競馬場への誘致を図ることにある。どちらも大変有意義な目的だが、競馬的観点から見ると、より重要なのは1つめの目的となろう。

 改めて書くまでもないが、ジャパンCを筆頭としたオータムインターナショナルシリーズは近年、外国調教馬の参戦が少ない。一方でアジアのライバルである香港の国際競走は、メンバーの充実が著しい。ファンの間からは、ジャパンCの存在意義を問う声さえ聞こえ始めている中、このあたりでもう一度、英国をはじめとした欧州の競馬関係者に、おおきなプッシュをかける機会を持つ必要性を、JRAは感じていたことと思う。

 そういう中で、具体的な手立てとして実現に至ったのが、「サドルアップ・フォー・ジャパン」だったようで、日本同様に英国でも、新しい世代の馬主さんや調教師さんの台頭が著しいから、今回のイベントがこうした層への有効なアプローチとなることを期待したい。

 具体的には、競馬場の正門を入って左手にある、プレパドック脇の建物の中にブースを設置し、ジャパンCの紹介映像の上映や、日本の競馬に関するガイドブックの配布が行われる予定だ。ここでは、寿司や日本酒が振る舞われる他、日本手ぬぐいなどお土産ものの配布もあるようだ。

 一方、観光資源としての日本を一般ファンにアピールする目的のブースは、正面入り口を入って右手の、スタンドとの間のエプロン部分に設置される予定で、ここでも日本の競馬を紹介するビデオ上映がある他、和牛や日本酒の提供、団扇など配布がある模様だ。

 そして、関係者エリアと一般エリアを併せて、当選者には、ジャパンCの季節に合わせた日本旅行がプレゼントされる抽選会が行われる予定と聞いている。「サドルアップ・フォー・ジャパン」の実施に、お膝元のアスコット競馬場も極めて協力的だったようで、場所の提供などを快諾しただけでなく、日本をフィーチャーしたイベントをやるなら、キングジョージ6世&クイーンエリザベスSに日本馬の参戦があるべきだとして、日本馬の誘致にも動いたようだ。

 日本馬が出走すれば、日本で馬券発売があり、その還元がアスコットにもあるゆえ、彼等が本気になるのも当然なのだが、一定以上の実績を残した日本馬が参戦するのであれば、遠征費用は全てアスコット側が負担をするというオファーを出して、有力馬の関係者に水面下でアプローチしたようだが、残念ながら徒労に終わっている。

 キングジョージで上位人気が予想されているのは、G1・6勝の実績を残るハイランドリール(牡5)だが、昨年暮れのG1香港ヴァーズで同馬を差し切って優勝したのはサトノクラウン(牡5)で、同馬か、同馬と同等の力がある日本馬が遠征すれば、勝つチャンスがあったのにと思うと、日本馬不在は確かに残念ではある。

 日本の国際競走への外国馬の誘致に話を戻すと、現地の馬主さんや調教師さんにぜひアピールしていただきたいのは、かつてに比べると、日本の馬場が相当に改善されている点だ。

 私事になるが今年の5月、英国のニューマーケット競馬場でClerk of the Courseという、馬場メンテナンスの責任者を務める方が来日した際、アテンドする機会があった。開催中だった京都競馬場と東京競馬場をご案内したのだが、初来日だったこの人物は、両競馬場の芝コースの状態が非常に良いことに、いたく感心したのである。

 おそらくは、ニューマーケットを拠点としている調教師連中から、日本の馬場に関する負の情報をたっぷりとインプットされて来日したのであろう。ところが実際に来てみたら、草丈は思っていた以上に長く、しっかりと密に生えていて、クッションも良好なことに、彼は驚いたのだ。

 2013年から導入されたエアレーションやシャッタリングの効果は、関係者に聞いても明らかで、例えば10年前に比べれば、クッション性の向上は顕著なのである。相変わらず走破時計は速いため、海外の関係者がレース結果だけを見れば、昔と変わらぬ馬場で競馬をしていると捉えられがちだ。

 だからこそ筆者は、ニューマーケットの馬場メンテナンス責任者に対して、日本の馬場は実際には改善されていることを、帰国した暁にはニューマーケットの調教師たちに伝えて欲しいと、懇願したのである。

 春と秋では、馬場も違うと思うが、海外の関係者が日本参戦をためらう要因の1つとなっているのが馬場だけに、「サドルアップ・フォー・ジャパン」が、日本の馬場に関する最新情報を現地の関係者に伝える一助となることを、切に願っている。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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