2017年11月21日(火) 18:01
▲もう一度“ゾーン”を経験するために、それぞれが準備をしていること
馬に乗っていて、演技をしていて…それぞれ、いわゆる“ゾーン”に入った経験があると言います。「意識的に入れる人がいたとしたら」「最強ですよね」と口をそろえたふたり。それでも“ゾーン”に入るには、絶対に準備は必要だと言います。一流の騎乗ができるように、演技ができるように、日々どんな準備をしているのでしょうか? (構成:不破由妃子)
(前回のつづき)
福永 お互いに正解のない世界で戦っているわけだけど、僕でいうと、ごくたまに“今、ものすごく馬と一体になれた”という感覚を得られることがあって。近年でいうと、ジャスタウェイのドバイデューティフリー(2014年)とか。
東出 あのレースはすごかったですねぇ。
福永 追う動作には、たとえば馬の首を押すにしても“力を使っている感覚”が基本的にはあるものなんだけど、あのときはなんていうのかな…、チェーンの外れた自転車を漕いでいる感じというか。
東出 なるほど。お互いに負担になっていない感じですね。
福永 そうそう。それまでは、いわゆる一体感の正体を今ひとつ掴めずにいたんだけど、「馬の極限のスピードを本当に引き出せたときって、こんなスカスカな感じになるんだ」というのを、あのレースで初めて感じることができてね。以来、ずっとその瞬間を求め続けているんだけど、実際にそういう動きができる馬が少ないのもあって、なかなか再現できないんだけど。
東出 役者の世界でも、よく“ゾーン”というものがあると言います。僕も少しだけですけど、その“ゾーン”を経験させてもらったことがあって。やっぱりそういう瞬間は、同業者から見るとわかるらしく、「あのとき(ゾーンに)入ってたでしょ?」って言われましたね。僕もそれ以来、あの瞬間をもう一度味わいたいといつも思ってるんですけどね。
福永 そもそもゾーンと言われる領域は、意識して入れるものではないと僕は思っているけど、そのゾーンに意識的に入れる人がいたとしたら…。
東出 最強ですよね。緻密な計算の上にゾーンを引き寄せられるとしたら、それ以上の強味はない。
福永 うん、すごいことだよね。僕らの場合、「あの馬とは相性がいいよね」とか「今日は調子がいいよね」とか言われることがあるんだけど、僕自身は「相性」や「調子」という概念が好きではなくて。勝った負けたをそれで片づけてしまう人間は進歩がないと思うし、やっぱり個々の馬の力を意識的に引き出せる騎手、馬に合わせていける騎手がいい騎手だと思うから。役者さんもね、さっきのゾーンを感じたようなときって、自分の本質に合った役だからたまたまハマったのか、それとも意識的にハメていけたのかで全然違うと思うんだけど、やっぱり自分に合う合わないっていうのはあるの?・・・
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2013年にJRA賞最多勝利騎手に輝き、日本競馬界を牽引する福永祐一。まだまだ戦の途中ではあるが、有言実行を体現してきた彼には語り継ぐべきことがある。ジョッキー目線のレース回顧『ユーイチの眼』や『今月の喜怒哀楽』『ユーザー質問』など、盛りだくさんの内容をお届け。
福永祐一
1976年12月9日、滋賀県生まれ。1996年に北橋修二厩舎からデビュー。初日に2連勝を飾り、JRA賞最多勝利新人騎手に輝く。1999年、プリモディーネの桜花賞でGI初勝利。2005年、シーザリオで日米オークス優勝。2013年、JRA賞最多勝利騎手、最多賞金獲得騎手、初代MVJを獲得。2014年のドバイDFをジャスタウェイで優勝。
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