重賞勝利はめでたいが……

2017年12月05日(火) 18:00


◆佐賀の重賞設定は今すぐにでも見直す必要がある

 11月22日の浦和で、約7カ月にも渡って行われたヤングジョッキーズシリーズ(YJS)・トライアルラウンドが終了。12月27日に大井で、そして28日に中山で行われるファイナルラウンドの出場騎手、中央・地方各7名ずつ計14名が決まった。

 今の若手騎手は、中央・地方問わず積極的に外に出て行くのが当り前になって、たとえば小崎綾也騎手などは、YJSの自身の出場ラウンドが終わった直後の9月からオーストラリアで騎乗している。YJSファイナルに出場が決まっているので、おそらくそれまでには一旦帰国するのだろう。

 残念ながらファイナル進出はならなかったものの、船橋の岡村健司騎手も最後の浦和ラウンド終了後、12月2日から佐賀で期間限定騎乗を始めている。昨年4月にデビューした岡村騎手は、その年の9月から今年5月までにも佐賀で期間限定騎乗を行っており、その間に38勝と大きく勝ち星を伸ばした。そしてYJSが終了して、もう一度佐賀で経験を積もうということなのだろう。

 その2度目となる佐賀での期間限定騎乗の初日、岡村騎手はいきなり重賞の師走賞で単勝1.6倍という断然人気のキタサンシリーズに騎乗し、見事勝利に導いた。

 この重賞勝ちには幸運もあった。キタサンシリーズの主戦で、佐賀では不動のリーディングでもある山口勲騎手が、同日阪神競馬場のチャレンジCに出走するスーパーマックスに騎乗するため、不在となったことでまわってきた手綱だった。そのチャンスを見事に生かしたことになる。岡村騎手は前回の期間限定騎乗中、昨年10月8日にも耶馬渓賞という重賞を勝っていて、佐賀での重賞はこれが2勝目となった。

 さて、前置きが長くなったが、ここからが本題。この昨年の耶馬渓賞、そして今回の師走賞を、「重賞勝利」と言ってしまっていいものかどうか、ということ。

 佐賀競馬には「S1」「S2」という重賞の格付けがあり、本来の意味での重賞は、2012年以前から行われていたS1に該当するレースだけ。S2重賞は、本来であれば「特別」とすべきレース。詳細を説明すると長くなるので割愛するが、このS2重賞は、2012年10月に始まったJRA-IPATによる馬券発売にともなって設定された。

 たとえば岡村騎手がいずれ船橋に戻って活躍するようになり、南関東で重賞を制したときに、「南関東重賞初勝利」ということは言えるが、「地方競馬での重賞初制覇は佐賀だった」という言い方をしてもいいのかどうか。昨年制した耶馬渓賞も、先日の師走賞も、最上位クラスではない、B級馬によるS2重賞なのだ。

 もちろんこれは岡村騎手に非があるわけではなく、問題があるのは佐賀競馬の番組だ。

 以前にも指摘していることだが、佐賀で乱発したS2重賞は、そうした記録面で相当に混乱をもたらしている。なにしろ2016年に佐賀競馬場で行われた重賞は、ダートグレード、S1、S2合わせて70もある。年間100日ちょっとの開催日数の競馬場で、70も重賞が設定されているのは、どう考えてもおかしい。

 ちなみに岩手でもJRA-IPATでの馬券発売にともない、特別から重賞への格上げがかなりの数で行われ、重賞レースが増えた(2016年は46レース)。それについても問題ありと言えなくはないが、とはいえ岩手ではすべて格付け最上位か、いわゆるオープンのレースを重賞としている上に、馬齢や距離別、牝馬限定戦など、しっかりと体系化されていてファンにもわかりやすい。

 地方競馬がほとんど交流もなく、競馬場や主催者ごとに完結していた時代であればそれほど問題にならなかったかもしれないが、今は地方競馬全体で連携し、馬や騎手の行き来もかなり盛んになった。歴史を重ねれば重ねるほど、記録として混乱をきたすであろう佐賀の重賞設定は今すぐにでも見直す必要がある。少なくとも「オープン」と表記してのB級馬による重賞はやめるべき。そして重賞と特別の設定条件を明確に区別するべきだ。

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斎藤修

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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