猛吹雪の中開催された、冬季繁殖馬セール

2018年01月25日(木) 18:00


ここでも感じた“社台ブランド”

 この冬どころか、ここ数年で最も強い寒気が日本列島を襲っている。北海道も例外ではなく、昨日などは終日猛吹雪であった。

 そんな中、新ひだか町静内の北海道市場を会場に、恒例の「冬季・繁殖馬セール」(主催、株式会社ジェイエス)が昨日開催された。

 開場は正午、セリ開始は午後1時半と、上場頭数の少なさもあってゆったりとしたスケジュールが組まれていたが、天候の悪さを考えたらこれで正解であった。会場に向かう途中で、何度かホワイトアウト(猛烈な吹雪のせいで視界が極端に悪化する状態)現象に遭遇したほどであった。比較的温暖な日高では珍しい。

 厳しい寒さと吹雪のせいで、例年よりも来場者が少なかった気がする。今日になって何人かの知人に聞いてみたら、「天気があまりにも悪いので止めた」という声が多かった。

 定刻通りにセリが始まったが、場内は空席が目につく。最初に登場するのは受胎馬である。セリ上げは、100万円までは1万円単位も可だが、100万円を超えると、最小単位は10万円になる。心なしか、場内の活気が乏しい。あまり活発に声が飛び交うことのないまま、粛々とセリが進んで行く。

 13番まで進んだ時、場内モニターが点灯しなくなり、それでしばし中断されることになった。だが、なかなか復旧しないために、それから数頭は場内モニターでの表示なしでセリが進行した。

 そのせいでもあるまいが、売れても受胎馬は総じて価格が低めに推移した感じだ。事前の予想では、受胎馬の中では19番が高くなるだろうと言われていたが、案の定、ここで一気に活気が出た。7歳になる「ラグタイム」で、ロードカナロアを受胎しており、父はディープインパクトである。出産予定日は4月1日。人気種牡馬の種を受胎している若いディープ産駒で、価格は990万円(税込1069万2000円)まで上がった。販売者は(有)天羽禮治牧場、落札者は(有)エクセルマネジメント。

ロードカナロアを受胎している「ラグタイム」

ロードカナロアを受胎している「ラグタイム」
受胎馬最高価格となった「ラグタイム」

受胎馬最高価格となった「ラグタイム」

 名簿上では27番(4頭欠場)までが受胎馬で、次から不受胎馬となる。この時期、ERV(馬鼻肺炎)などの伝染病対策によって、受胎馬と不受胎馬、未供用馬は接触しないように配慮されている。

 受胎馬と不受胎馬を区別するために、名簿上では、次が101番から始まっている。ここで社台コーポレーションの上場馬が続けて3頭登場した。9歳、9歳、そして20歳の不受胎馬たちだったが、いずれも声がかかり、500万円(税込540万円)、850万円(税込918万円)、500万円(税込540万円)でそれぞれ落札された。

 20歳の不受胎馬は「スキッフル」というトニービン産駒で、フラガラッハ(父デュランダル、8勝)をはじめ、イリュミナンス(4勝)、フェルメッツァ(5勝)、エスティタート(4勝)など、活躍馬を多数生んでいる母だが、20歳という年齢でも、その血を求める人がいるのである。これが“社台ブランド”の底力なのかも知れない。

 不受胎馬が7頭上場されたのに続いて、最後が未供用馬である。このところ、ある程度結果の出た受胎馬よりも、繁殖牝馬として供用される前の「上がり馬」の人気が高くなる傾向があり、今年も目玉がこの中にいると言われていた。

 なかなか1000万円の壁を突破できずにいた今回の冬季セールで、初めて大台に乗ったのは、212番「オヒア」である。父ブラックタイド、母ギガンティアの6歳黒鹿毛で、中央4勝2着2回3着3回、総賞金6290万円を稼いだ実績馬だ。柵癖をやるとのことだったが、価格は1500万円(税込1620万円)まで競り上がった。販売者は金子真人ホールディングス、飼養者は日高大洋牧場、落札者は岡田スタッド。

実績馬の「オヒア」

実績馬の「オヒア」
1000万円の大台を突破して落札された

1000万円の大台を突破して落札された

 しかし、この上を行く上場馬が最後に登場した。214番「ナニアヒアヒ」。父キングカメハメハ、母ウィキウィキという血統の4歳栗毛で、半兄にマカヒキ、半姉ウリウリのいる名血である。本馬自身は中央4戦未勝利ながら、母系の血統の良さからここでは多くの人から注目を集め、競りになると、俄かに会場は熱気を帯びた。

半兄姉にマカヒキ、ウリウリがいる「ナニアヒアヒ」

半兄姉にマカヒキ、ウリウリがいる「ナニアヒアヒ」

 価格はどんどん上昇し、とどまる気配がないまま、ついに4000万円を超え、さらにじわじわと上がり、4650万円(税込5022万円)で決着がついた。販売者・金子真人ホールディングス、飼養者・日高大洋牧場で、落札者は(有)笠松牧場である。

最高価格の4650万円で落札された

最高価格の4650万円で落札された

 最終的に44頭(受胎馬23頭、不受胎・未供用馬21頭)が上場され、28頭(受胎馬12頭、不受胎、未供用馬16頭)が落札された。総額は税込1億4750万6400円。平均価格は526万8086円。

 せり結果を総括して服部健太郎市場長は「まずは頭数確保が課題です。未供用馬の頭数を充実させて、できるだけ良質な馬を出して頂けるようにしたいですね。ナニアヒアヒのような良血馬は正当な評価を受けて高額で取引されていますから、オーナーサイドにも当セールの認知度を上げられるよう努力したいと思います。またこの冬の時期は防疫においても、さらに完璧を期すように努めて参りたい。今回、多数の御購買を頂いたことに感謝申し上げます」と語った。

 ナニアヒアヒは、「ハワイの美しい夕暮れ」という意味だそうだが、予想以上の高額になった背景には、血統の良さはもちろん、温和で扱いやすそうな性格の馬であることも評価されたと思われる。

 概して繁殖馬セールに上場される馬は、どこか難しさを持っているような挙動の馬が少なくなく、セリ後の立ち写真撮影でも終始バタついて落ち着かない馬が実は多い。柵癖、熊癖(ゆうへき)、旋回癖などは公表されるが、どんな性格の馬であるかは、実際に実馬を観察しなければ分からない。今回、初めて「育児放棄する」と公表された上場馬もいたが、そういう欠点を抱えている馬だからこそ売りに出されることが多いのである。

 ただ、そんな中にも確実に「当たり」があり、このセールで取引された繁殖牝馬から生まれた活躍馬は枚挙にいとまがないほどだ。国内唯一の繁殖馬セールとして、ますます重要度は高くなって行くものと思われる。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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