2018年03月31日(土) 12:00
◆ニュータカラコマの冥福を祈るとともに
25日に行われた第50回ばんえい記念。穏やかな陽気に恵まれて、舞台となる帯広競馬場には6000人近い観客が詰めかけました。
つい数年前まで存続の危機に直面していたばんえい競馬も、ネット投票のおかげで馬券の売上が大幅に回復。あの手この手のPR作戦が功を奏して認知度も高まり、年に一度の総決戦レースにこれだけの人々を集めるまでに至りました。
世界で唯一の競馬をなんとか存続させようと、微力ながら応援を続けてきた私としては、うれしい限り。ぜひ大勢のみなさんに、ばんえい最高峰の素晴らしいレースを見ていただきたい。そう思いながら、スタート前の生ファンファーレを聴きました。
そして見つめたレース。その中で悲劇が起こりました。ニュータカラコマが、第2障害をクリアし、あとゴールまで20メートルほどに迫ったところで転倒、動かなくなってしまったのです。
おそらく突然の心臓マヒだったと思います。これまでばんえい記念には4度出走して、4、2、2、3着。1トンのソリを曳いて、確実に上位に食い込んできた馬でした。それが今回、第1障害を越えるのに手間取り、勝負どころの第2障害では上位の馬から大きく遅れる展開を強いられていました。つまり、この馬らしさがまったく見られなかったのです。
後から思えば、それが“前兆”だったのかもしれません。とはいえ、まさかレースの途中で倒れ、そのままこの世を去ってしまうなんて…。
こんな話をするのは何ともつらいことですが、テンポイントやライスシャワー、サイレンススズカ、それにロックハンドスターなど、サラブレッドの競馬ではスターホースに起きた事故を何度か見てきました。今回も、それらのときと同じような悲しみを感じています。ニュータカラコマの冥福を祈ります。
心配なのは、大勢の来場者、とくに初めてばんえい競馬を見に来たという方々が、この出来事を目の当たりにして、「二度とばんえい競馬は見たくない」と思ってしまわないか、ということ。それと、今までにもあった「ばんえいは馬を虐待している」という空気がさらに広まってしまわないか、ということです。
われわればんえい好きの人間が、「いや、今回のようなレース中の事故はめったに起きるものではない」とどんなに説明しても、ご納得いただけない方々がいらっしゃるのは承知しています。でも、われわれはもちろん、ばんえい競馬に携わるすべての人たちが、今回のことを“悲劇”として受け止めています。その人たちの中に、「たかが1頭の馬が死んだだけじゃないか」なんて思っている人は1人もいません。このことだけは、ぜひご理解いただきたいと願うばかりです。
あと3週間すると、ばんえい競馬の新しいシーズンが始まります。今後も、ばん馬たちの熱い戦いに声援を送りたいと思います。
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矢野吉彦
テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。
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