BTC修了生の進路から見える、日高が抱える課題

2018年04月18日(水) 18:00


第35期生の16名全員が新たな就職先へ旅立った

 昨春19名が入講した育成長期技術者養成研修第35期生は、途中で3名が退学したものの、このほど残る16名が無事に修了式をむかえ、それぞれ新たな就職先へ旅立った。

 4月13日(金)午前10時。はるばる遠方より駆けつけた保護者や就職先の関係者などが見守る中、1年間の成果を披露する実技査閲から日程がスタートし、35期生は曇り空でやや肌寒い中を研修施設内の800m走路で上達した騎乗ぶりを見せた。

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曇り空でやや肌寒い中、上達した騎乗ぶりを見せた

 2班に分かれて馬場入りした16名は、徐々に速度を上げ、最後の1周は2頭、3頭の併走で走路を駆け抜け、見守る保護者や関係者から熱い視線を浴びていた。

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3頭併せで走路を駆け抜ける35期生

 この後、会場をBTC診療所に移しての修了式となった。開会の辞に続いて、BTC専務理事・白木正明氏より一人ずつ修了証書と記念品の授与が行われ、松浦英則・日高振興局長、松田有宏・浦河町副町長、平賀敦・JRA日高育成牧場場長からそれぞれ35期生に向けて修了を祝う祝辞が贈られた。

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修了証書授与式が行われた
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JRA場長の平賀敦氏から祝辞が送られた

 締めくくりの修了生謝辞は伊藤大輝君(22歳)が行い、式典が無事に終わった。その後は隣室に移動しての昼食会で、ここで改めて35期生たちに皆勤賞、騎乗技術賞、学科優秀賞などの各賞が発表、授与された。

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修了生謝辞を述べた伊藤大輝君
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無事に式典が終わり保護者と共に記念撮影

 父が川崎競馬場の厩務員として働いている木戸司君は、真面目に1年間を過ごしたようで、これらの各賞をいくつも受けていた。木戸君は、日高町の坂東牧場に就職する。ちなみに他の35期生たちも(当然ながら)全員が就職先を決めており、内訳はざっと次の通りだ。

 グリーンウッドトレーニング4名、社台ファーム3名、その他、エスティファーム、ジョイナスファーム、エクイワンレーシングなどに1名ずつ。日高管内ではビッグレッドファーム、コスモビューファーム、小国ステーブル、賀張共同育成センターといった名前が並ぶ。木戸君を含め、うち日高管内の育成牧場への就職者は5名である。

 今期35期生は、ついに地元BTC周辺の育成牧場に一人も就職することがなく、極めて異例の結果となった。騎乗者不足が深刻になってきている背景から、どの育成牧場も若い人材を欲しているのは間違いなく、規定通りに求人も出している。にもかかわらず、見事なまでに「スルー」されてしまったことにはある種の衝撃を受ける。

 研修生たちの“本音の部分”に接する機会がないので、なぜこういう偏った結果になってしまったのかを分析するのは難しいのだが、個別に聞き出せた範囲で推測すると、おおよそ以下のような理由にあるらしい。

1、地理的な条件 
 浦河は日高の中でも東部に位置しており、札幌、千歳方面から見ると、いかにも遠いのがハンデであること。研修生の一人は「実家に帰る時、空港に行くにしても、千歳も帯広も似たような距離で、至極不便ですね」と言う。こればっかりは今更変えようのないことで、何ともフォローしようがない。

2、人口の少なさと生活環境
 浦河は人口13000人以下の過疎の町で、日々の買い物や遊びに出かける場所も限られてしまう。地理的ハンデにも通じることだが、生まれて物心ついた時から携帯電話やPC、コンビニなど便利なものの溢れている環境で育った彼らにとっては、この田舎町での生活は1年間だけで十分、ということなのかも知れない。「せめて日高自動車道でもあれば良いんですけど」とも聞かされた。

3、出会いの場がない 
 これも若者にとっては深刻な問題かも知れない。BTC周辺で働く人々は、昔も今も圧倒的に男性比率が高く、女性が少ないのが実情だ。「この町で騎乗者として働いている限り、女性と知り合う機会すらなさそうなので、それは寂しい」という研修生の声もあった。

4、先輩の離職率が高い
 残念ながら、BTC周辺の育成牧場に就職した研修生上がりの若者は、かなりの割合ですでに退職してしまっている。理由はそれぞれ異なるだろうが、この事実は重い。「先輩が就労していると、いろいろ話を聞いて参考にできる部分がある」と話してくれた研修生もいた。現に今回の35期生の就職先にはOBが勤務している例が多い。

5、気候のハンデ
 残念ながら、今期の研修生の中には、北海道の冬の気候の厳しさに耐えられないと感じて、本州での就職に絞ったという例もあった。夏の気候の快適さと冬の厳しい寒さを天秤にかけると、やはり温暖な土地の方が過ごしやすいと判断したのであろう。

 今更どうしようもない部分も多々あるものの、これらは育成牧場の枠を超えて、日高の軽種馬産業全体の問題として捉える必要がありそうだ。いかにして魅力ある労働環境を作って行けるかが今後ますます問われてくるものと思われる。参考までに記すと、直近の浦河町における外国人登録者175名のうち、ついにインド人が100名に達したという。彼らはおそらく全員が騎乗者として来日しており、今後もますます増えていく傾向にある。日本人の騎乗者不足はこんなデータにも表れている。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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