はるばる青森まで行き、当歳キズナの牡をセレクトセール撮影

2018年05月02日(水) 18:00

生産牧場は北海道だけとは限らない

 今年のセレクトセールは来る7月9日と10日の2日間に開催予定だ。まだセリ当日までにはかなりあるが、生産地ではすでにセールへの申し込みが終わり、今ちょうどセール上場の合否を選考する際に参考資料として用いられる(のと同時に、カタログにも掲載される)立ち写真の撮影がピークを迎えつつある。

 私事ながら、私のところにも何件か撮影依頼があり、先日、青森まで出張してきた。セレクトセールは周知の通り、苫小牧市のノーザンホースパークが会場だが、上場申し込みは北海道内ばかりとは限らない。もちろん数が少なくなっているとはいえ、生産牧場が点在する青森県内の牧場からも申し込みがある。

 ただ、地元の方々によると、「馬専門のカメラマンがいない」とのことで、私のような北海道在住者に依頼が来るわけだ。

 しかし、地続きならばいざ知らず、青森となると、どうやっても移動は飛行機かフェリーになる。所要時間の短いのは断然飛行機だが、日高から向かうのにより便利なのはフェリーである。苫小牧〜八戸間には一日4便が就航しており、撮影で出張する場合には、深夜11時59分苫小牧発の便に乗り込み、翌朝7時半に八戸港に到着する便が最も都合が良い。

 本来ならば車ごと乗り込むのがベストだが、撮影の場合は天候が最優先になるため、前々から予約することができず、直前(前日か前々日)の申し込みになる。さらに、締め切り日が5月9日と設定されているので、だいたい大型連休の混雑時期と重複してしまい、車を積みこめない事態も起こってしまう。

 なので、私の場合は、苫小牧のフェリー埠頭に車を置き、人間だけ乗り込む形で、青森に向かうことが多い。依頼主の牧場の方に埠頭まで迎えに来てもらい、撮影現場に直行するのである。

 今年は3牧場、5頭の撮影であった。フェリーを利用する度に感じるのは、青森県内の生産者は、いつもこうして馬運車ごとフェリーに乗り込んで北海道に種付けに来るのだなぁということ。地元の方々は「もう慣れました」と意に介していない様子だが、それでも大変な手間ではある。苫小牧〜八戸間のフェリーに乗れない場合には、青森〜函館に回るらしいので、そうなるとさらに時間を要する。いずれにしても、人馬ともにかなりの負担であろう。

 さて、今回、セレクトセール用に撮らねばならない馬は当歳2頭、1歳1頭の計3頭であった。中小規模の生産牧場は、日高でも青森でも撮影条件にあまり差はない。むしろ日高の個人牧場の方が人手の足りないケースが少なくない。今回の3牧場はいずれも、撮影に必要な人数が揃っていて、とても助かった。

 とりわけ当歳の場合には、母馬を持つ人と、本馬(当歳)を立たせる人、さらに欲を言えば、脚の位置を修正したり、耳を立てる(音を出したり、馬の注意を引くモノを持って動かしたりする)役目の人と、最低3人は必要だ。2人でも撮って撮れなくはないが、そうなると、脚を修正する人がいなくなり、当歳の持ち手が、自分で手を伸ばして前脚の位置を修正する、というようなアクロバット的技量が必要になる。これはよほどのテクニシャンでなければ不可能で、やはり3人は欲しいところ。

 それと、撮影場所の善し悪しも案外大きな要素になってくる。理想的なのは背景の抜けた水平でまっ平らな場所だが、これはそう簡単ではない。中小牧場の場合、だいたい撮影場所を決めるのに難儀することが多く、背景の抜けた都合のよい場所がない牧場も少なくない。その他、様々な留意点があるが、ここでは省略しておく。

 最後に青森で撮った「一押し」の当歳を1頭ピックアップしておこう。まだ合否判定が出ていないので(これから審査される)上場できるかどうか分からないものの、たぶんこの馬は血統的にも馬の出来栄えからも大丈夫であろう。父キズナ、母ローレルアンジュの牡馬で、半兄にジャパンダートダービーを勝ったキョウエイギアがいる。母ローレルアンジュも、川崎・エンプレス杯など中央地方合わせて7勝した実績馬だ。

母ローレルアンジュ当歳キズナ牡

青森で撮った「一押し」の当歳、父キズナ、母ローレルアンジュの牡馬

 バランスのとれた好馬体で、ひじょうに順調に生育している印象の馬である。7月にはどんな馬になっているか楽しみだ。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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