【池添謙一×佐藤哲三】『中堅からベテランへ 40代からさらなる進化を遂げるには』/第2回

2018年10月04日(木) 18:02

哲三の眼

▲若くからGI勝ちを積み上げる池添騎手が40代を目前に思うこととは?

今回のテーマは40代からの騎乗論。世界のトップジョッキーたちのフォームを理想としながら日頃のトレーニングに励むという池添騎手に、哲三氏がそのイメージを体現するためのアドバイスを送ります。また、ともに数々のGIを制しながらも、ジョッキーとしての思考やレースに対するプロセスが正反対なふたり。競馬の組み立て方も異なる“感覚派”と“理論派”が語り合った末の終着点とは?(構成:不破由妃子)


仕組みを研究する哲三氏、レースに集中する池添騎手

哲三 謙くんも来年40歳だよね。40歳を前にして、騎乗スタイルをシフトチェンジしていこうとか考えてる?

池添 シフトチェンジとは違いますが、常にカッコいいフォームで乗りたいという思いがあるので、そこは意識しています。僕はフランキー(デットーリ)に憧れているので、フランキーの騎乗をスローで観て、自分が木馬に乗ったときにはそのイメージをリンクさせて、少しでも近づけるようにという試みはしてます。

哲三 具体的にフランキーのどこを意識してる?

池添 追っているときのフォームですね。ブレないし、暴れないけど、しっかり馬を動かしてくる。もちろん、馬が伸び続けているからこそ、キレイなフォームで乗れるっていうのもあるんでしょうけどね。最近では、モレイラの動かし方とレース運びにも注目してますよ。人気の馬に乗る機会が多いとはいえ、あれだけ勝たせるのは技術以外にないですからね。自分もそういう技術がほしいなって。

哲三の眼

▲池添騎手が理想のフォームに挙げるL.デットーリ騎手(撮影:高橋正和)

哲三 フランキーはなぜあの追い方ができるのか、モレイラがなぜいつも勝てるポジションにいられるのか。さっき謙くんが言ったように、走る馬に乗っていて脚があるからということもあるけど、それだけじゃなくて、膝と足首と肩甲骨を使ってポンプのような動きを作り出して、馬全体を押していっているように見えるんだよね。とくにフランキーは、そうやって馬の背中に圧力を掛けて、馬が浮いてくるのに合わせて追っているというか。

 日本のジョッキーは、馬の背中を擦るように押していくことで推進力が増す…というイメージだと思うんだけど、そういう動きも必要だとして、それとは違うポンプのような動き。今回、シフトチェンジを考えてるかどうかを聞いたのは、一度その技を謙くんにやってほしいからなんだよね。

池添 ポンプのような動きというのは、円を描くような上下運動ということですか?

哲三 わかりやすくいうと、バスケットボールのドリブルのような感じかな。連続してバウンドするようになったら、どうやっても手のひらに引っ付いてくるやん。そこに生じる圧力を利用するというか。俺はエスポワールシチーのあとからそれをやり始めたんだけど、スピードを生かしても引っ掛からないし、扶助操作だけではなく、圧力で背中の力を抜いてあげてスピードを緩めるという……言葉では伝わりづらいか(苦笑)。

 でも、フランキーとかは絶対にそういう技術があると思うし、モレイラにしても、あれだけ手綱を短く持っていても、馬の首の筋肉は決して縮まらない引っ張り方だったり。要するに、フォーム以外のそういう部分も見てほしいなぁと思って。謙くんだからこそ言うんだよ。謙くんなら、そういう高度な技術をモノにしてくれるんじゃないかと思うから。

哲三の眼

▲「わかりやすくいうと、バスケットボールのドリブルのような…要するに、フォーム以外のそういう部分も見てほしい」

池添 そう言っていただけるのはすごくうれしいし、自分でも身に付けたいと思いますけど、わかるような、わからないような…。佐藤さんの理論は、昔から本当に難しい(苦笑)。

哲三 そうだよな、ピンとこないよな(苦笑)。馬が走りやすいフォームを考えたとき、こういうセッティングで自分からハマっていったほうが馬は走りやすいんじゃないか……っていうところなんだけど。僕がなぜこんなことを考えるかといったら、現役時代、常に自分の体と向き合ってきたからなんだよね。

 自慢じゃないけど、どこの筋肉がどういう動きをしたらこうなるとか、自分の体を使って研究し尽くしたから。謙くんも一度、雨の日の返し馬で肩がズレたかなんかして、「イテテテ! 哲三さん、やばい。どうしよう」とか言ってさ。「ここをこうやったらハマるよ」って教えたら、すぐに治ったことがあったじゃん。

池添 マジすか……覚えてない(苦笑)。

哲三の眼

▲哲三氏から当時のエピソードを聞くも「マジすか……覚えてない(苦笑)」

哲三 そうか。「なんで俺に聞くねん」と思ったけど(笑)。「体のここをこういうふうにすれば、もっと楽になるよ」というのは、人間に対しても馬に対しても同じなんだよね。馬が楽になる走り方、楽なフォームで走らせてあげられれば、それだけ自分の労力を使わずに済むし、そういうフォームで走れていれば、故障もしづらいだろうしね。僕はずっとそういう考えで馬を作ってきたから。

池添 なるほど。馬だけじゃなく、佐藤さんは自分の体もメカニカルに考えていたんですね。僕、今まで自分の体とちゃんと向き合ったことってないんですよ。でも、今佐藤さんの話を聞いていて、もっと自分の体に興味を持とうと思いました。そうですよね、馬が楽であればさらに走ってくれますからね。直線で余力も残るでしょうし。

哲三 モレイラがワンパターンの位置取りでずっと勝ってるというのは、そこなんだと思うんだよね。馬を引っ張るにしても、ある位置から絶対にズレていなかったりとかさ。それにしても、これまで自分の体に向き合う必要がなかったっていうのはすごいよね。恵まれているというかさ。

池添 自分の体についてもそうですし、馬の筋肉がどうこうとかも本当に考えてないんですよね。僕が考えているのはレースのこと。こういうレースがしたい、そのためにはどう組み立てていけばいいのかとか、レースに対してはたくさん考えてるんですけどね。それ以外は……たぶん何も考えてないと思う(笑)。

哲三 それでいてこれだけGIを勝ってるわけだからね。謙くんの場合、馬に仕向けることなく、前からでも後ろからでも持ってくるのがすごいところ。

池添 いやいや…。どうしたらいいですかね(笑)? 今、考えを改めてしまったら自分の良さがなくなるのか、それともプラスになるのか。改めるのではなく、新しく取り入れていけばいいのか。佐藤さんはホントに理論派ですからねぇ。

哲三の眼

▲「考えを改めたら良さがなくなるのか、新しく取り入れていけばいいのか…」

哲三 理論派も感覚派も、一緒なんだよ、結局。

池添 わかります。最終的に求める部分は一緒なんですよね。ただ、そこに向かうまでのやり方が違うだけで。

哲三 謙くんの場合、変える必要はないと思うけど、さっき話したような高度な技術にもチャレンジしてほしいなって。あとはまぁ、何歳まで乗るかにもよるなぁ。

池添 そこですか(笑)。僕ももう来年40歳ですからね。今はまだ30代ですけど!

哲三 僕も結局、ケガをしたり年齢を重ねたりで、いかに楽に乗るかを考えた結果の理論だからね。肩甲骨を骨折したことによって人よりも肩の動きが鈍くなって、力をグッと入れたいけど、入れると左右のバランスが崩れる、どうしよう…ってなった。そのときに、だったら前にしっかり回転を掛けていったところに自分を合わせていけばいいんじゃないかと思って、シフトチェンジしたので。まぁ謙くんはさ、「なんか哲三がこんなこと言っとったわ」みたいな感じで、40歳を過ぎてから考えればいいんじゃない(笑)?

(文中敬称略、次回へつづく)

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佐藤哲三

1970年9月17日生まれ。1989年に騎手デビューを果たし、以降はJRA・地方問わずに活躍。2014年に引退し、競馬解説者に転身。通算勝利数は954勝、うちGI勝利は11勝(ともに地方含む)。

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