今年のBCはフューチャー・スターズ・フライデーと銘打っての開催

2018年10月31日(水) 12:00

BCターフは馬の能力で言えばエネイブルだが…

 北米競馬の祭典「ブリーダーズC」の開催が、今週の金曜日(11月2日)と土曜日(11月3日)に迫っている。

 ケンタッキー州のチャーチルダウンズが舞台となる、創設以来35回目の開催となる今年のBCは、フォーマットが従来のものと少し変わった。初日の11月2日に2歳戦5レースを固め、「フューチャー・スターズ・フライデー」と銘打っての開催となり、2日目の11月3日は「チャンピオンシップ・サタデー」として、3歳以上の9レースが施行される形となったのだ。ここでは、2日目の終盤4競走の見どころをご紹介していきたい。

 11月3日の第8競走に組まれた芝8Fの「BCマイル」は、近年にない大混戦だ。

 今季の欧州には、3歳牝馬世代にアルファセントーリ(牝3、父マスタークラフツマン)、ローレンズ(牝3、父シユーニ)という水準の非常に高いマイラーがいたのだが、アルファセントーリは故障で早々に現役を退き、ローレンズは10月20日のG1クイーンエリザベス2世S(芝8F)で大敗してここは自重。彼女らを欠く欧州勢には圧倒的な支配力はなく、かと言って地元勢にも確たる軸となる馬はおらず、つまりは混沌とした様相を呈しているのである。

 前記した2頭が不在でなお、当日1番人気の座につくのは、欧州から遠征してくる3歳牝馬となりそうだ。仏国のフレデイー・ヘッドが送り込むポーリードリーム(牝3、父オアシスドリーム)は、8月にドーヴィルで行われたG1モーリスドゲスト賞(芝1300m)を制し、3度目の重賞制覇にして初のG1制覇を果たした馬である。ただし、続くロンシャンのG1ラフォレ賞(芝1400m)では7着に敗れており、全幅の信頼がおける存在ではなさそうだ。

 欧州からはこの他、G1サセックスS(芝8F)2着、G1ムーランドロンシャン賞(芝1600m)3着の実績を持つエキスパートアイ(牡3、父アクラメーション)、G1愛二千ギニー(芝8F)3着、G1セントジェームスパレスS(芝7F213y)2着の実績を持つグスタフクリムト(牡3、父ガリレオ)、G1クイーンエリザベス2世S(芝8F)2着馬アイキャンフライ(牝3、父ファストネットロック)らが参戦。

 これらを迎える地元勢では、9月19日のG1ウッドバインマイル(芝8F)を制し4度目のG1制覇を果たしたオスカーパフォーマンス(牡4、父キトゥンズジョイ)が大将格となる。

 続く第9競走に組まれた牝馬によるダート9Fの「BCディスタフ」は、従来は開催初日のメイン競走として施行されていた一戦だ。

 中心となるのは、3歳世代を代表するモノモイガール(牝3、父タピザー)である。ここまでの成績10戦8勝。2歳11月にチャーチルダウンズのG2ゴールデンロッドS(d8.5F)で首差2着に敗れたのと、前走9月22日にパークスで行われたG1コティリオンS(d8.5F)で、1着入線しながら進路妨害で2着降着となったのが、これまでに経験した2度の敗戦だ。3馬身差で制したG1CCAオークス(d9F)など、4つのG1を含む8勝を挙げている同馬の力量が、一枚抜けているというのが一般的な見方だ。

 対する古馬勢の筆頭が、ボブ・バファートが管理するエイベルタスマン(牝4、父クオリティロード)である。今年のモノモイガールにほぼ匹敵する実績を残して挑んだ昨年のBCディスタフは、勝ち馬フォーエアーアンブライドルドから1/2馬身差の2着に泣いた同馬。今季はここまで4戦し、ベルモントパークのG1オグデンフィップスS(d8.5F),サラトガのG1パーソナルエンスンS(d9F)と、2つのG1を制している。

 この新旧対決に割り込むとすれば、モノモイガールと同じ3歳世代のミッドナイトビズー(牝3、父ミッドナイトルート)と見られている。9月22日にパークスで行われたG1コティリオンSで、モノモイガールの首差2着で入線した後、審議の末に繰り上がり優勝したのが同馬で、4月のG1サンタアニタオークス(d8.5F)以来2度目のG1制覇を果たしている。

 アルゼンチンからの移籍馬で、10月7日にキーンランドで行われたG1スピンスターS(d9F)を含めて、目下重賞3連勝中のブループライズ(牝5、父ピュアプライズ)までが争覇圏にいると見ている。

 続く第10競走に組まれた芝12Fの「BCターフ」は、馬の能力で言えばエネイブル(牝4、父ナサニエル)で断然のレースだ。

 今季は膝の故障で出遅れ、9月にようやく戦線に復帰。G3セプテンバーS(AW11F219y)をひと叩きされただけで臨んだG1凱旋門賞(芝2400m)は、シーオヴクラス(牝3、父シーザスターズ)の強襲にあって首差の辛勝となったが、それでも抜かせずに粘り切ったあたりは、超一流のアスリートのみが持つ底力のなせる業ではなかったと思う。ヨーロッパの競馬場に比べれば遥かに窮屈なカーブを、何度も廻らされるレース展開には、おおいに戸惑うだろうが、しかし、先行力のある馬だけに、チャーチルダウンズのトラックにも何とか対応してくれるものと見ている。

 G2フォワ賞(芝2400m)で非常に印象的な競馬をしたわりには、G1凱旋門賞(芝2400m)は案外だったヴァルドガイスト(牡4、父ガリレオ)が、モーニングラインでは2番手評価となっているが、こちらは小回りコースに対する適応力に一抹の不安が残る。同じ欧州勢では、前走G1凱旋門賞における惨敗が気にはなるものの、デルマーを舞台とした昨年のこのレースを制しているタリズマニーク(牡5、父メダグリアドーロ)を無視するわけにはいかないであろう。

 迎える地元勢では、9月29日にベルモントパークで行われたG1ジョーハーシュターフクラシック(芝12F)を4.1/2馬身差で制したチャネルメイカー(セン4、父イングリッシュチャネル)、アルゼンチンのチャンピオンホースで、8月にG1アーリントンミリオン(芝10F)を制し北米でもG1制覇を果たしたロバートブルース(牡4、父ファストカンパニー)、サラトガのG1スウォードダンサーS(芝12F)を含めて直前3連勝のグロリアスエンパイア(セン7、父ホーリーローマンエンペラー)らが有力視されている。

 そして、筆者の記憶にある限り、これほど多彩な顔触れが揃った年は、なかったのではないかと思えるのが、メイン競走となるダート10ハロンの「BCクラシック」である。無敗の3冠馬ジャスティファイが故障で早々に現役を退いたのは、おおいに残念ではあるが、しかし、彼以外の主立つ役者は勢揃いしている。

 人気の中心は、西海岸の古馬戦線で圧倒的なパフォーマンスを続けているアクセレレイト(牡5、父ルッキンアットッタッキー)だ。今季はここまで6戦し、2着以下に12.1/2馬身というレース史上の最大着差をつけたG1パシフィッククラシック(d10F)など、4つのG1を含む5勝を挙げている。

 西海岸からは、昨年のこのレースの3着馬ウェストコースト(牡4、父フラッター)も参戦する。今季はここまで3戦し、G1ペガサスワールドC(d9F)2着、G1ドバイワールドC(d2000m)2着と惜敗が続いたのち、じっくりと立て直されて出走した9月29日のG1オウサムアゲインS(d9F)が、アクセレレイトの2着だった。

 同じ西海岸の3歳世代を代表しての参戦となるのが、ウェストコーストと同厩のマッキンジー(牡3、父ストリートセンス)である。3歳春を迎えた段階で、4戦し、G1ロスアラミトスフューチュリティ(d8.5F)を含む3勝を挙げ、クラシック候補と期待されたが、飛節の故障のため春の3冠を全休。9月22日にパークスで行われたG1ペンシルヴェニアダービー(d9F)で6か月半ぶりに戦線に戻り、そこを快勝しての参戦となっている。

 異色の存在が目白押しなのが、東海岸勢だ。まず、3歳世代の代表となるカソリックボーイ(牡3、父モアザンレディ)は、G1トラヴァーズS(d10F)を4馬身差で快勝した馬で、堂々とここに駒を進めてしかるべき存在なのだが、何が異色かといえば、G1トラヴァーズSの前走がG1ベルモントダービー(芝10F)だった点にある。そのG1ベルモントダービーでも優勝している同馬は、大谷翔平も顔負けの「二刀流」の遣い手なのだ。しかも、だ。今年のBCクラシック出走馬で、「二刀流」はカソリックボーイだけではないのである。

 9月1日にサラトガで行われたG1ウッドウォードS(d9F)を勝っての参戦となる、日本産馬ヨシダ(牡4、父ハーツクライ)もまた、今年5月にチャーチルダウンズで行われたG1ターフクラシック(芝9F)を制している、マルチな才能の持ち主なのだ。

 そして、マルチな才能の持ち主といえば、マインドユアビスケッツ(牡5、父ポッセ)も負けてはいない。昨年・今年と、ドバイのG1ゴールデンシャヒーン(d1200m)を連覇している同馬が、その後、G1メトロポリタンH(d8F)2着、G1ホイットニーS(d9F)2着を経て、9月29日にチャーチルダウンズで行われたG3ルーカスクラシック(d9F)を4.3/4馬身差で快勝。距離に対するおおいなる融通性を示しているのである。

 これだけの顔触れに、3月にメイダンで行われたG1ドバイワールドC(d2000m)を5.3/4馬身差で快勝したゴドルフィンのサンダースノウ(牡4、父ヘルメット)。同じく3月にメイダンで行われたG2UAEダービー(d1900m)を18.1/2馬身差で圧勝したバリードイルのメンデルスゾーン(牡3、父スキャットダディ)、ヨーロッパで芝8〜10F路線のG1・4連勝中のロアリングライオン(牡3、父キトゥンズジョイ)が加わるのだ。

 空前のメンバーで争われる「クラシック」を見るだけでも価値があるのが、今年のブリーダーズCと言えそうである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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