血統展では寺山修司のパネルをぜひ

2018年11月22日(木) 12:00

 先週はイベントずくめで、木曜日は帝国ホテルで出版社のパーティー、金曜日はお台場のホテルで的場文男騎手の最多勝祝賀会、そして日曜日は東京競馬場で私が監修した血統展「良血は世界を巡る」のトークショーがあった。

 トークショーはフジビュースタンド3階のセンターコートで11時半からから行われた。同じ時間にゴール前で小島太さんの予想会があったので、みなそちらに行ってしまうのではないかと心配していたのだが、進行役の鈴木淑子さんの集客力もあって、たくさんの人が集まってくれた。みな、小島さんのイベントがあることをわかっていながら、こちらを選んでくれた人たちだ。私の目を見て頷いたり、へえと小さくに声に出したりと、とても熱心に聞いてくれて、対話をしているようで、楽しかった。

 サイン入りの拙著を、最後までトークショーを見てくれた人のなかから抽選で5名にプレゼントした。抽選整理券は開始10分ほどですべてハケたという。

 トークショーはその1度限りだが、血統展はジャパンカップが行われる今週末まで催されている。

 どのような展示かというと、だ。サンデーサイレンスの血が飽和状態になった日本で、ソウルスターリング、モズアスコットといったフランケル産駒が活躍している。一方、サドラーズウェルズとデインヒルの血が飽和状態(フランケルは両方の血を有している)になっているヨーロッパで、サンデーの直仔ディープインパクトの産駒であるサクソンウォリアーが英2000ギニー、スタディオブマンが仏ダービーを勝った。こうして日欧の超良血がクロスしている現状リポートを入口とし、受け皿となる母系が日欧でどのように育まれてきたか、さらに、血統を巡るどのような物語が生み出されたか――といったことを、30枚近い大型パネルで解説している。

 パネルの撮影は自由なので、スマホで撮って持ち帰り、競馬仲間との話のタネにしてもらえると嬉しい。

 それらのパネルは写真もデザインも美しく、トークショーで見ながら話すためにパネルをプリントアウトしたものを、淑子さんが「これ綺麗だから、もらっていい?」と持ち帰ったほどだ。

 どれもいいパネルなのだが、私が特に気に入っているのは寺山修司の掌篇「二人の女」を紹介したパネルだ。アケミとみどりという2人の女と、1966年の桜花賞で1番人気になったメジロボサツと、それを勝ったワカクモを重ねて描いている。寺山はそれをレース終了後、それほど時間が経たないうちに書いたと思われる。というのは、70年に出版された本に「二人の女」が収録されているからだ。つまり、寺山は、ワカクモが「流星の貴公子」テンポイントを生むことを知らずに書いたのだ(テンポイントは73年生まれ)。そして、メジロボサツはモーリスの4代母となるのだが、83年に世を去った彼が、そうして血がつながれていくことを知るはずがない。

 私が初めて「二人の女」を読んだのは30年ほど前のことだった。そのときテンポイントが「亡霊の孫」と呼ばれるようになったのは、ここで寺山がワカクモを「亡霊の子」と記したからだと知り、「寺山ってすごいな」と思った。そして、寺山の没後35周年の今年、あらためて読み返してメジロボサツとモーリスのつながりに気づいたときは「すごい」どころではない衝撃を受けた。

 それは、東日本大震災の何十年も前に、東北に10メートル以上の大津波が来ていたことを綿密な取材をもとに記して警鐘を鳴らした吉村昭の『三卓海岸大津波』を震災後に読んだときの驚きに近いものだった。

 半世紀を経た今、こうして光の当たる題材を取り上げたところも、寺山の寺山修司たる所以であろう。

 おそらく寺山は、最初から普遍性のあるものを書こうとしたわけではない。むしろ、創作の姿勢は、つとめて通俗的であろうとし、時代の断片を切り取る作業に徹していた。それが、地球の裏側で起きている事件も、自分の住む町での出来事も情報としては等価になるネット社会の現代に通じるので古さを感じさせない、という部分もあるだろう。

 いつもながら、とりとめのない話になってしまった。

 今、札幌に来ている。ジャパンカップまでには帰京する予定だ。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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