コパノキッキングだけではないオーナーの挑戦

2019年01月29日(火) 18:00

意外な選択で競馬界を盛り上げる

 根岸Sでのコパノキッキングの勝利は見事だった。これまで実績のない1400mに加え、初めての左回り。不安材料が少なくない挑戦ではあったが、そんなことはまったく関係ないような完勝だった。

喜怒哀楽

根岸Sを快勝したコパノキッキング(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規

 実はカペラSを勝った直後、オーナーのドクター・コパさんにお祝いのメッセージを伝えた際、「ダート1200m以下だとこれから選択肢が限られますね」ということを聞いてみた。ドバイゴールデンシャヒーンでも……という返答を予想していたのだが、意外な返事にちょっと驚かされた。「フェブラリーSを勝てるように馬を作り変えます」というもの。

 根岸SからフェブラリーSへというローテーションは、カペラSを勝った直後から決めていて、その第一段階を見事にクリアしたことになる。

 コパさんはここ10年ほどで、地方ではラブミーチャン、中央ではコパノリッキー、コパノリチャードなど、所有馬が次々とそれぞれのカテゴリーでチャンピオン級の活躍を見せている。そして今回のコパノキッキングでは、それらに続く活躍に期待が高まることとなった。

 コパさんは本業が風水師でもあり、所有馬の活躍では『強運』ということがよく言われるが、運というよりも、ご本人の意思による意外な挑戦でこれらの実績を残してきたということが大きい。

 まずはラブミーチャン。2009年、笠松のデビューから5連勝で全日本2歳優駿を制し、2歳馬ながら地方の年度代表馬となった。3歳春はJRAの桜花賞に挑戦するとして、フィリーズレビューに出走したものの結果を得られず。浦和の桜花賞に矛先を変えたが熱発のため出走取消。5月に門別のエトワール賞を勝ったものの、その後はしばらく勝てないレースが続いて落ち込んだ。

 父はサウスヴィグラス。残念ながら昨年3月、22歳で死亡したが、ダート路線での産駒の活躍はご存知のとおり。ヒガシウィルウィン(ジャパンダートダービー)という2000m路線での活躍馬も出したが、産駒全体を見ると、ダート・短距離・早熟という傾向はある。

 ラブミーチャンも、3歳から4歳にかけての落ち込みでは、もしかしてこのまま終わってしまうのでは、という懸念もあった。しかし4歳後半に復活。6歳夏まで走って、東京盃制覇や習志野きらっとスプリント(船橋)3連覇など、引退までファンの注目を集めた。2歳時の快進撃以降でもっとも安定して成績を残したのが6歳時で、ダートグレード2勝を含む6戦5勝という成績を残した。

 ラブミーチャンの復活には、コパさんの突飛とも思える挑戦があった。笠松所属ながら、ノーザンファームしがらきの坂路で鍛えるというもの。そこに至る経緯までは聞いていないが、血統的にも生産牧場でも社台グループとは関係がなく、しかも地方所属馬が、ノーザンファームしがらきで調教するというのは、それまでになかったことなのだそうだ。そもそもラブミーチャンは、当初は中央からデビュー予定だったが、腰が緩く栗東の坂路を上がることができず、未出走のまま笠松に移籍したという経緯があった。それがノーザンファームしがらきを利用しての復活ということでは、オーナーの見事な思い切った決断というほかない。

 コパノリッキーでの意外な選択は、7歳にして初めての1200m、JBCスプリントの挑戦だ。その年、盛岡の南部杯を制してダートGI/JpnI・10勝目。ホッコータルマエの記録に並んだ。その直後、翌春の種牡馬入りが発表され、記録更新に残された可能性は、JBCクラシック、チャンピオンズC、東京大賞典の3戦、と思われた。しかしJBCは、クラシックではなくスプリントという選択には驚かされた。残り3戦のうちの1つを捨てる無謀な挑戦と思われても仕方ない。

 ところがJBCスプリントでは、直線で一旦は先頭に立ち、あわやという場面があっての2着好走。チャンピオンズCは9番人気という低評価ながらきわどい3着に好走し、そして引退レースとして臨んだ東京大賞典を勝って、見事にダートGI/JpnI・11勝という新記録を達成してみせた。

 JBCスプリントという選択は、「馬にもう一度刺激を与える」というコパさんの考えから。それが見事に当たった。

 そうした常識はずれとも思える過程を踏んでの成功があるだけに、コパノキッキングでの「馬を作り変えてフェブラリーS挑戦」ということでは、最初は驚いたが、なるほどそれもありかとも思わされた。

 それにしても、コパノリッキー、コパノキッキングでは、そうしたオーナーの要求にこたえて結果を出す、村山明調教師と厩舎スタッフもすごいと思う。

 意外な、といえば、すでに話題になっているが、コパノキッキングのフェブラリーSでの鞍上が藤田菜七子騎手になるということ。ただこれは突然の思いつきではない。カペラSでも藤田菜七子騎手にオファーしていたのだが、ブラゾンドゥリス(16着)への騎乗が先に決まっていて実現せず、コパさんはそれを悔しがっていた。

 ラブミーチャン、コパノリッキーでは、船橋の森泰斗騎手が一度ずつ騎乗しているが、「一流騎手には一流の馬の背中を知ってもらいたい」というコパさんの思いがあってのこと。藤田菜七子騎手の件もそうだが、こうしたことでファンをワクワクさせる。

 結果が出なければ無謀とも言われかねない意外な挑戦でしっかり結果を出し、さらに競馬全体を盛り上げる。フェブラリーSのパドックがどんな盛り上がりになるのか楽しみだ。

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斎藤修

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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