ハイペースが面白い高知競馬

2019年02月05日(火) 18:00

多くのファンを惹きつける一発逆転レース

 2月3日に高知で行われれた黒船賞トライアルの黒潮スプリンターズカップ。先行争いが激しくなり、4番手に控えたサクラレグナムが抜群の手応えのまま3コーナー過ぎで先頭に立ったところで勝負あった。明けて10歳になったサクラレグナムは昨年末の兵庫ゴールドトロフィーでも中央馬相手に4着という実績はあるが、それ以上に赤岡修次騎手のペース判断は見事だった。と思って見ていたところ、やはり赤岡騎手からは表彰式のインタビューで、「僕は最初から行く気がなかったので、すぐに控えたのですが、内も外も結構行っていたので、ペースが速くなって良いかなと思っていました」というコメントがあった。

喜怒哀楽

黒潮スプリンターズカップを勝利したサクラレグナム(写真は昨年兵庫ゴールドトロフィー出走時、(c)netkeiba.com、撮影:稲葉訓也)

 地方競馬では、門別、盛岡、大井などの広いコースを別とすれば、1周1200m以下の競馬場では1400mで主要レースが組まれることが多い。予想などではたびたび書いているのだが、中央や大井などコーナー2つの1400mとはレースの質が異なり、地方の1400m戦はカテゴリーとしては短距離戦なのだが、コーナーを4つ回ることで道中で息が入って流れが落ち着くことがほとんど。

 ところが高知の1300/1400m戦では、他場ではあまり見られないような、先行勢が競り合ってのハイペースになることがたびたびある。たとえば古くは1998年、第1回の黒船賞。中央や地方他地区の有力馬が1コーナーに向かって殺到したところ、1コーナーを10番手で回った地元高知の9番人気リバーセキトバが外から豪快に突き抜けた。そして最近では昨年の黒船賞。外枠からハナをとりに行ったグレイスフルリープが暴走気味に飛ばして5着に沈み、勝ったのは離れた3番手で脚を溜めた兵庫のエイシンヴァラーで、これも9番人気だった。

 高知のレースがたびたびハイペースになる要因としてまず考えられるのが、ラチ沿いの砂が深くなっていること。高知ではラチ沿いを数頭分空けてのレースになり、実際にデータを見ても1300/1400m戦では、真ん中あたりの枠に比べて1-3番枠に入った馬は勝率・連対率で、若干ではあるが悪い数字が出ている。逃げ馬が内枠に入ると、早めに先頭に立って砂の深くない外目に持ち出そうと気合を入れて行くことなり、さらに外枠にも行きたい馬が入ったりすると、1コーナーまでにハナを取るべく競り合ってハイペースとなる。1コーナーまでの距離が短い1300m戦ではなおさらその傾向が顕著になり、まさに今回の黒潮スプリンターズカップがそういうレースになった。

 とはいえ、高知と同じ1周1100mで、同じようにラチ沿いを空けての競馬となる佐賀の1400m戦では、高知ほどハイペースになることが少ないのはなんとも不思議だ。その疑問を赤岡騎手に尋ねてみたところ、以下のような答えが返ってきた。

「高知では馬場が乾くとペースが落ち着く傾向にあるが、湿った馬場になると余計に先行争いが激しくなる」と。なるほど。高知の馬場は水はけがよくないからなのか、年間を通じて良馬場は少なく、稍重や重がほとんどなのである。

 さらに、「厩舎間での忖度がなく常にガチの勝負をしていて、レースが落ち着くと結局有力馬が勝ってしまうので、そうはならないように勝負に行く馬が少なくない。特に近年、高知は賞金が格段にアップしたことで以前よりも能力の高い馬が入ってくるようになって、なおさらそういう傾向にあるのではないか」とも。

 そして高知では番組の組み方にもさまざまな工夫がある。『一発逆転ファイナルレース』に代表されるように、近走の成績が振るわない馬ばかりの選抜戦があり、そういうレースではどの馬にも勝つチャンスがありそうで、それゆえ思い切ったレースをする馬が多いという。

 たしかに地方競馬の下級条件戦では同じようなメンバー構成でのレースが少なくなく、それゆえ配当にも妙味がない。それが「地方競馬はつまらない」という要因としても挙げられることが多い。ところが高知では下級条件戦でも同じようなメンバー同士での対戦があまりなく、それがレース(ファンにとっては馬券)を面白くしているという面は多分にありそうだ。

 さらに同じようなメンバーばかりで競馬をしていると、展開も容易に想像できるようになるが、高知は地元の騎手ですら展開が読めないレースが多いと赤岡騎手は話す。

 今、地方競馬は全体で売上を伸ばしているが、高知競馬の伸びはなお顕著。2018年4月から12月の1日平均の高知競馬の売上は3億3360万円余りで、前年同期比118.9%。その伸び率は地方競馬の全主催者で最高の値を示している。

 高知競馬は2009年、当時としては思い切った通年ナイターを他主催者に先駆けてはじめ、それが時代の流れに乗ったということはある。船橋以外の南関東が昼間開催になるこの時期、高知の単独ナイター開催の日には、園田をはるかに超える6億円前後の売上げを記録する日があることにも驚かされる。

 そして何より、10頭前後のメンバーで下級条件のレースしか組まれていない日でも売上が落ちることがないのは、高知競馬のレース自体の面白さが、その要因となっていることは間違いない。

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斎藤修

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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