セレクトセール用の写真撮影のため青森へ

2019年05月01日(水) 18:00

生産牧場にも10連休の余波が…

 4月29日。当歳馬撮影のために青森県に出張してきた。来る7月上旬に開催される「セレクトセール」に上場申し込みを済ませている全馬に、前後横3ポーズの立ち写真提出が課せられており、その締め切りが5月6日となっているためだ。

 送り先は東京の日本競走馬協会。予め各生産牧場には、写真送付のための封筒や代金着払いの送り状まで送られて来ている。北海道からだと届くまで2日間を要するので、5月6日必着を厳守するには、遅くとも4日、できれば3日には発送しておきたい。

 そのためには撮影もそれまでに済ませておかねばならないということである。折から世の中はちょうど10連休の真っ最中で、出かける前から悪い予感がしていた。

 実はこの時期の青森出張は、昨年も一昨年も行っている。しかし、フェリーを予約しようと電話をかけた時に「今年の10連休の混雑ぶりは、ちょっと前例のないレベルなんですよ」と電話に出た係の人がため息交じりに言うのであった。車もろとも乗るのではなく、私の場合は苫小牧港に自分の車を置き、人間だけが乗り込むに過ぎないのだが、夜出発の二便(午後9時15分発と11時59分発)は、どちらも「満席」であった。雑魚寝の2等船室でさえ空きがないという。2等船室にも乗れないというのはこれまで経験したことがなかった。

 ここで「ならば、もっと早い時期に(例えば大型連休の前に)さっさと行ってきたら良いではないか」と思われる向きもあるだろう。わざわざこんな混雑する時期に行かなくとも、と。もちろんその通りなのだが、当歳馬の場合は、この時期は生まれてからそれほど月日が経過していないので、牧場としては「できるだけ期限ギリギリまで引き延ばして、少しでも成長させてから撮りたい」と考える。1歳馬の場合も同じようなもので、冬毛が完全に抜け落ち、なるべく見映えの良い姿になってから撮って欲しいと希望する。したがって、撮影が4月末〜5月初頭に集中してしまうのである。

 また、天候の良し悪しにも影響される。雨の日の撮影はもちろん論外で、どんよりと曇っていても困る。晴天の、できれば午前の光の下で撮影したい。日高管内の牧場ならば、その日の朝出かけても十分間に合うが、こと青森となると、事前に天気予報をチェックし、間違いなく晴れる日を目がけて、そこで初めてフェリーを予約することになる。だいたい早くて2日前くらいである。もちろん先方の牧場の都合もある。

 それでも昨年まではどうにかなったのだが、今年の10連休は、いささか事情が異なっていた。夜出発の便だと、所要時間が約8時間なので、翌朝八戸に着岸する。そのまま牧場に向かえば午前中に撮影できるが、今回は空きがないというので、やむを得ず午前5時出発の便に乗ることになった。

生産地便り

苫小牧・八戸間のシルバーフェリー

 いうまでもなくフェリーの場合、できることなら夜を船中で過ごし、翌朝に到着すればすぐにそこから行動を起こせるので、時間を有効に使える。午前5時の便は今回初めて乗ったが、それでも「いやはや、いったいどこから来たのか?」と訝しく感じるほどの人、人、人であった。旅行客と思しき人々が圧倒的に多かった。

 八戸到着は午後1時半。そこから依頼主の車に乗せてもらい一路牧場まで行く。所用時間は30分程度である。名所や観光地とは離れた場所にある牧場なので、道路は空いていた。

 午後2時過ぎに牧場に到着。休まずそのまま撮影することになった。幸い、良く晴れていて風もない。約1時間かけて3ポーズの写真を撮った。当歳馬の場合は、だいたい時間を要するのが普通で、いつもなら放牧されている時間帯なのに、立たされてポーズを取らされるのだから、そもそもじっと大人しくしているわけがない。跳ね回ったり、立ちあがったりと抵抗し続けるので、そうなるともう疲れてくるのを待つしかない。今回もそうであった。

生産地便り

青森の牧場で撮った当歳馬

 撮影終了後、すぐにまた来た道を逆戻りして、再び八戸港のフェリー埠頭まで送ってもらうことにした。帰りの便は午後5時半出港である。現地滞在わずか4時間の強行軍であった。

 苫小牧港着岸が午前1時半。帰宅したのは、午前3時半。前日、自宅を出たのが午前2時だったので、ざっと25時間半の青森出張になった。これまでも何度となく八戸市場の取材や撮影のためにフェリーに乗ったが、これほど慌ただしい出張は初めての経験であった。

 しかし、こんな程度は序の口で、青森の生産牧場の人々にとっては、10連休などそれこそ「死活問題」なのだという。現に撮影に訪れた牧場では、この翌日、急きょ北海道に馬運車で種付けに遠征することになったらしい。フェリーは当然予約でいっぱいなので、数便にキャンセル待ちを申し込み、やっと乗り込むことができたそうだ。青森県内では種牡馬が限られているので、これはと思う期待馬ほど北海道に通わざるを得ない現実がある。八戸〜苫小牧のフェリーに乗れなければ、青森〜函館に回り、ひたすら道央道を走って行くしかないともいう。いずれにしても、大変な時間と労力である。

 現在、青森県内で生産を続けている牧場はざっと25軒ほどか。生産頭数にして80余頭程度と思われるが、この規模になってくると、獣医師こそJBBA七戸種馬場に常駐しているものの、その他の、生産に関連する装蹄師、飼料会社、馬具屋などは営業が成り立たなくなる。写真撮影なども同様で、地元では馬を撮る人がいないのだという。

 私たちが想像する以上に、青森で生産を続けるのは大変な苦労があるようだ。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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